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NOAH -ノア-  作者: 孝乃 (編集中)
第2章『関東エリア解放篇』
15/26

Lood..011 言葉の亀裂(1)

「誰が『傲慢(ごうまん)』ですって…!!」



 体は動かせぬとも、アイリは動かせる表情を険しくポロンを睨む。ポロンはそのアイリを横目に、ニヤつくような笑みを浮かべた。



「本来なら、全身の動きを封じる《影縛(かげしばり)》でやんすが、顔の自由は残してますぜい。どうぞ、絶対的優位からの絶望の声…聴かせて下させぇな、アイリ殿」

「ふざけんじゃないわよ…っ!!」

「ふざけてはいやせんぜ。あなたの傲慢(ごうまん)さが生んだ結果がコレ…今の状況なんですからねぇ」



そう言って、視線をアイリから刀を突き立てるナツキに向ける。



「知っているとは思いますが…MGが0の時に、敵からの攻撃を受けていると、ゲージの回復速度は50%ダウンする。全快するまでは、口を開くのもお辛いでしょう?」

「くっ…!」

「さぁナツキ殿。MGが回復するか、旦那のLGが切れるのが先か…神に最期を委ねやしょうや」



っとは言いつつも、ナツキのLG減少とMGの増加は、その瞬間各ゲージの真ん中ですれ違う。だが速度はあきらかにLGの方が減少速度は早かった。そのゲージを見るポロンの口元は、再び怪しく笑みとなる。



「しかしLv.80ともなると、LGが多くて時間がかかりますねぇ」

「ポロンッ…お前、ふっざけんじゃねぇよ!!」



動かぬ体のまま叫ぶアイリの声。睨みつける視線が刺さり、ポロンは目線だけをアイリに向けた。



「いけませんねぇ~アイリ殿。女性がそんな汚い言葉を使っては」

「うるさい!!その刀どかせェ!!ナツキから離れろバカ!!」

(ナツキ)を先に倒さなければ、アイリ殿の呪術(じゅじゅつ)が解かれてしまいますからねぇ…お断りでやんすよ」

「このッ…だったらあたしをやれェ!!あたしを殺せバカァ!!」

「えぇ、()らせて頂きやすよ。(ナツキ)を殺した後にね」

「ヤメろって言ってんだろォォォッ!!」



喉を潰す程の声を響かせるアイリ。だがポロンの刀は動かない。むしろより深くナツキの腹部に突き刺していく。


その為なのか、ナツキは苦しそうに表情を歪め、声ともならない呻きを上げるだけ。




 この光景を、拳を構えたままに呼吸荒く見つめるヒート。頬を伝う汗が、ポタっと震える足に落ちた瞬間、ハっと我に返るように体をビクつかせた。そして気づく、握った手も汗に濡れている事を……


2人のピンチに、どうにかしようと気持ちは動くが…自分はLv.1。Lv.50のエネミーの攻撃を1発でも喰らえば『GAME(ゲーム) OVER(オーバー)』。そして迎える現実世界での『死』……この状況に、気持ちに反して体が動こうとしない。



「な、何ビビってんだよ…オレ…」



ヒートが小さく言葉をはくと、その後ろから――…



「…――〔セット〕」



っと、男の声が。その声にヒートが振り向くと、そこにはハンディソードを構えたタケシの姿が。強張る表情に汗を伝わせ、まっすぐにポロンを見据えていた。そのタケシの姿に、並ぶトモキは驚きの声を上げる。



「ちょっ、タケシさん!?何してんスか!?」

「『何』って、このままだとあのナツキって人が死ぬ。黙って見てらんないよ」

「ですけど、おれらみたいなザコが行ったって返り討ちに遭うだけですよ!」

「それはわかってる。でもあの人のMGが回復するまでの時間は稼げる」

「そんな死亡フラグ立ちまくりなセリフ…完全に玉砕宣言みたいなもんじゃないですか!それに回線が切れたってのが本当なら、仮想現実世界(こっち)の死が、現実世界の死かもしれないんですよ?そんな危ない事させらんないっスよ!!」



っと、熱のこもる表情でタケシの肩を掴むトモキ。その後方に立つのは、全く熱の感じられぬ表情のセキカワ。1人メニューを立ち上げ、〔アイテム〕を開く。すると初期ではあるが、所持したアイテムは3つ。



「…あ、あった」

「え?」



セキカワの声に振り返るタケシとトモキ。その視線の先のセキカワは、何かを見つけたように、とあるアイテム名をタッチ。すると目の前に、栄養ドリンクのビンのような、青い液体が入った透明なガラス容器が1つ現れた。


目の前のガラス容器を手にするセキカワ。そのセキカワとガラス容器を交互に見つめるトモキは、何故か慌てたようにセキカワに寄る。



「セキカワ、お前何してんだよ!?つーか何出したんだよ!?」

「ん?これ、回復アイテムの【ライフポーション】」

「は?」

「いやさぁ、ゲームってたまに回復アイテムを初期設定で入れてくれてる事あるじゃん?だから『あるかなぁ~?』って見てみたら、ホラあった」



緊迫感まるで無しの口調のセキカワは、手にした回復アイテム【ライフポーション】を倒れるナツキに向ける。



「……あれ?何も起きない」



向けても周囲の景色は何も変わらず、ナツキのLGも減少していくだけ。変わらぬ状況に、首を傾げるセキカワは少し考え、「…もしかして」っと小さく呟くと、ナツキとポロンの元へと突然走り出す。



「ちょっ…!おいセキカワ!?」



トモキの声にも反応無しのセキカワは、ライフポーションを手に走り、ナツキとポロンの近く5メートル程に接近。すると突然、手にしたライフポーションに銃のスコープの照準のようなマークがついた。


その照準マークのついたライフポーションを見、視線を倒れるナツキに向けた。するとナツキの体にも同じ照準マークがついた。



「やっぱり、アイテム使用範囲があったんだ。これで――…よっと!!」



セキカワは手にしたライフポーションを、ナツキめがけて投げつけた。そのライフポーションはまっすぐにナツキの体に向かい、体の数センチ手前でパリン!っと割れる。すると中の青の液体がミスト状の光りとなり、ナツキの体に降り注ぐ。


光りを浴びたナツキのLGは、僅かではあるが上昇。……なのだが、LGの減少にMG回復が勝るとまでは回復していない。1つでは足りない――…っと、再び〔アイテム〕を開くセキカワ。


だがその瞬間、意識をナツキとアイリに向けていたポロンがセキカワの存在に気づき、鋭く光る眼光を向けた。



「これは伏兵でやんすねぇ…ですがセキカワ殿。〔アイテム〕は1回使用すると、約10秒の待機時間が生まれるでやんす。いかなるジョブでも種族でも、連続使用は不可なんですぜ」

「えー、そうなんだぁ」



立ち止まり、間の抜けた声を返すセキカワ。彼の立ち止まる位置、それは完全なるポロンの間合い。そこに在るなら斬り捨てようと、ポロンの刀が揺れた瞬間――…再び響いたパリン!っと鳴る音。「何だ!?」っと視線を廻すと、ナツキの体に降り注ぐ青い光り。


セキカワはまだアイテム使用は出来ない…誰かがライフポーションを投じた――っと更に廻す視界に映るのはタケシ。



「っ…次から次へと浅知恵を…ッ!!」



眉をひそめるポロンの刀は、ナツキの腹部から離れ、並ぶタケシとセキカワに向かう――…瞬間、タケシはセキカワの体を突き飛ばす。




 ズバァッ!!




響く斬撃音は1つ。刀が通った白い光りの線は、タケシの胴体を二分するようにはしっていた。



「タケシさん!!」

「……!!」



セキカワの声にもタケシの反応は無く、そのLGが急激に減少していく――…が、何故かその減少はゲージを僅かに残して止まった。そして勢いに負けたように転ぶタケシは、「うっわ、揺れたぁ~…」っと目元をこすり、ダメージにより揺れた頭をブルっと震わせた。


その光景に、セキカワやトモキ。ポロンはもちろんヒートも驚きの表情。



「まさかタケシ殿…《ドール・テクト》を使ったでやんすか…!?」



その《ドール・テクト》とは、【人形操師(パペッター)】と呼ばれる、人形を操り戦う魔術系のジョブが初期から持つ術技(じゅつぎ)。自らの体に装備人形を憑依(ひょうい)させ、ダメージを半減させる効果を発動させるもの。


タケシはセキカワのようにライフポーションを使用するべく、〔アイテム〕開こうとしたが……間違って〔術技(じゅつわざ)〕の項目を開き、そこで術の存在に気づき予防線に――…っと発動させていたのだ。



「見事でやんすが、ダメージを半減させても、1撃で死ぬかもしれなかったでやんすよ?…賭けにも程がありやすねぇ、タケシ殿」

「まぁ一か八かだったけど、セキカワは大事な後輩だし。一応俺先輩だし…正直ビビってたけどね…」

「だがしかし、タケシ殿。殿は男でやんすねぇ…お見事」



口元を笑みに変え、再び振るう刀がタケシに迫る。



「《ドール・テクト》の効果は一定時間。でもその残りゲージで、あっしの攻撃を耐え切れますかねぇ!!」

「いや耐えるのは無理だから――…」



…――っと、狙うは〔ステップ〕での回避。タケシは見開く目を刀に向ける。



「うおォォォッ!!」



するとタケシの視界の中。突如響く雄叫びと共に、目の前に降り立つ1つの影。その影が迫るポロンの刃と激突。




 ッ――ガギィィィィンッ!!




鳴り響くは、けたたましく甲高い金属音。そして激突箇所を中心とした衝撃波が辺りに巻き起こる。


その衝撃波の中心に立つのはポロン――…っとトモキ。両者の間には火花が残り、互いに手にした武器を弾き合ったように体勢を崩していた。



「ぐっ…!!〔相殺(そうさい)〕でやんすか…!」



表情を歪めるポロンの言った〔相殺(そうさい)〕。それはプレイヤーのレベルや攻撃力などは関係無く、〔アタック〕のタイミングが合わさると、互いの攻撃が無効となるコマンドの1つ。そのタイミングは0.01秒のタイミングの為、熟練プレイヤーでもめったに決まらないもの。


するとグラつくトモキを飛び越え、セキカワが同様にグラついたポロンの足を斬りつける。そして再び手にしたライフポーションを、今度はタケシに向かい投げた。


青の光りを浴び、ゲージを回復させたタケシも地を蹴り走り出す。ハンディソードを両手に握り、渾身の力で振り抜いた。



「おっ、おい、今がチャンスじゃねえか!?」

「あぁ!おれ達も行くぞ!!」



ヒートを残したタケシら以外のプレイヤー2人も、互いに頷き合うとハンディソードを片手に駆け出した。



「やはり小蝿(こばえ)を先に駆除しておくべきでしたよ…《突刃(とつじん)鳶時雨(とびしぐれ)》!!」



連続攻撃を喰らいつつも、落とした腰から弾丸の如く、一気に突き出された刀の切っ先。それは次々に突き出され、その度に鋭角で細かい刃が無数の白光となって撃ち放たれる。


これは遠距離攻撃だからだろうか、間合いに残るタケシとトモキ、セキカワの頭上を越え、走る2人のプレイヤー達の体を斬り裂いた。


この飛来する白光の刃は、ヒートの身にも迫る。



「…――んな…!!マジかよ!?」



咄嗟に地に伏せる事で難を逃れたヒート。


ポロンの放つ《突刃(とつじん)鳶時雨(とびしぐれ)》に襲われたプレイヤー2人の体は、全身に光りのヒビをはしらせ消滅。その瞬間――…



(あま)(つかさ)よ 我が声応え この邪聖に裁きの十字架を――《グランド・クロス》!!」




 ――ッ――ドオォォォォッ!!




突如ポロンの足元に光る魔法陣が広がり、黄金に輝く半透明な十字架がその陣から飛び出した。腹に響く爆発音に、周囲のものを吹き飛ばす衝撃波が巻き起こる。



「うぐぅ…おぉぉッ…!!」



呻く声に、身体中から黒煙を上げて体勢をグラつかせるポロン。


衝撃波に転がるタケシら3人は、頭や腰を擦り起き上がる視界を廻す。すると舞い上がる灰煙の中、ゆっくりと立ち上がる影が1つ――…



「ポロン…僕はもう、君を許す事は出来ない…」



立ち込める煙の間で揺れ動くのはナツキ。鋭く光る目をポロンに…そして魔法陣の浮かぶ杖の先をアイリに向けた。



「悪しき咎部(とがべ)よ 白の真名(まな)において邪を解き放ちたまえ…《呪装解除(カースメルト)》」



影縛(かげしばり)》を解く法陣術(ほうじんじゅつ)を唱えると共に、ナツキの杖から放たれる魔法陣。陣は回転したままアイリの体を通過。するとアイリの体は、支えを無くしたかのように前方にガクンっと倒れ込む。だが転ぶ事は無く、踏み込むように地を蹴り跳び上がる。



「ポロン…よくもやってくれたなァ!!ぶっ――…殺す!!」



宙で引く引き金に合わせ、構えた両銃の口から撃ち出される巨大な渦巻く白銀の光り。対となる光りは、仰け反るポロンめがけて突き刺さる。共に起爆し鳴り渡る爆撃音にポロンの声。



「ぐぁあァァァァ…ッ!!」



断末魔を響かせ、ポロンの体にはしる光りのヒビ。そしてその身を割れるガラスの欠片のように飛び散らせた。その欠片は更に細かな光りの粒となり、辺りに降り注ぐ。



「お…終わったのか…?」



爆風に転んだヒートが、ポロンの消えた跡を呆然と見つめて呟く。残ったプレイヤー、タケシら3人も同様に呆然としている。


するとその上空に浮かび上がる『MISSION(ミッション) CLEAR(クリア)』の文字。その文字の下には、『獲得素材確認』と『移動まで60秒』の表記が現れていた。



「移動って…どこにですかね?タケシさん」

「さ、さぁ…」

「まぁとりあえずは『お疲れ様』だね」



っと、呆然としたタケシとトモキの横で、自分の服の汚れを叩くセキカワが言う。その姿にトモキはため息を1つ。



「お前、よくそんなサラっと言えんなぁ~…」



っと頭を抱えた――…瞬間、



「何て事をしてくれたんだ君は!!」



突然の怒声。驚き振り向く先には、ナツキとアイリが向き合い立っている。先の怒声はナツキの声。鋭く睨む視線を、少し俯くアイリにぶつけていた。



「何故あの時さっさと勝負を決めなかったんだ!!君の連続攻撃なら、15秒もあれば倒せたはずだろ!」

「………」

「《リフレク・ショット》で足止めをし、威力重視の技で倒す…そのはずだったろ!?」

「…でも、ポロンは人間の脳に近い知能エネミー。だから圧倒的な知能と能力の差を見せつければ、恐怖感を植え付けてから動きを鈍らせる事が出来て、それからの完全勝利に――…」

「それが『傲慢(ごうまん)』だと言うんだ!!」



アイリの言葉を切り、掴みかかるような勢いで迫るナツキ。その勢いにアイリは体をビクつかせ、続く言葉を飲み込み身を強張らせた。



「なら結果はどうなった…君は動きを封じられ、4人のユーザーが犠牲となった…死なずに済んだ命が、君の『傲慢(ごうまん)』さによって失われた…君が殺したようなもんだ!!」

「っ…!!」

「そんなに自分の頭脳を、知識を見せつけたいのか!?自分はすごいって見られたいのか!?」

「ちっ、違う!そんなじゃ――…」

「なら何故勝手な行動をとった!?何故ふざけた行動をしたんだ!?人の命がかかっているんだ!真面目にやれ!!君は1人で戦っているんじゃないんだぞ!!」

「………」



アイリはただ俯き、唇を噛み締め肩を震わせる。ナツキの表情も険しいまま、アイリに背を向けた。そして吐き捨てるように……



「IQ200…素晴らしい頭脳だとは思うが…君の"そういう"所が嫌いなんだ…」

「っ…!!」



そうナツキが呟くと、ハっとしたように顔を上げ、その目を見開くアイリ。そして離れていくナツキの背を見つめ、アイリの顔は再び俯いていく……



「あたしだって…あたしだって……アンタなんか、大っ嫌いよ…」



アイリは小さく呟き、強く素早く目元を拭った。

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