Lood..010 『NOAH』なる世界 (3)
尖り耳にスカイブルーの髪。青と白を基調とした衣をまとう、170センチ半ばの杖を持つ男性。並ぶは身長150センチ程で、軍人のような風貌に拳銃を手にした女性。ヒートが見るこの2人の顔の横には、【Lv.80 Natsuki】と【Lv.80 Airi】の表記があった。
「室長…アイリちゃん…」
「無事なようでなによりです、ヒートさん」
「それにしても…ナイスなセンスじゃない?実織ったら。あの飛依斗がピンクのチビっこウサちゃんって…笑えない状況なのに、インパクトありすぎ…ぷっ」
顔の横に表記された『ヒート』の名に、どこか安心しような笑みを浮かべるナツキとアイリ。それはヒートも同じ事。笑みは無くとも、安心感から一気に肩の力が抜ける。
「ったく…どこほっつき歩いてたんだよ…」
現在世界では見下ろす2人の顔を、仮想現実世界では見上げ、抜けるように言葉をはくヒート。
「すみません。何故か僕らだけが1階からのスタートだったので」
「は?1階?…どういう事だよ?」
「あたしらが目覚めたら、目の前は半月五重塔。驚いてマップを確認したら、ヒートに加え、Lv.1のユーザー達が5階に20人もいた。だから1階から急いで上がってきたのよ」
「これはたぶん…宙の裏面データがまだ、完全なものではないから起きた歪みなのかもしれない。だがそのせいで…」
「ここにいた20人が、今や7人……出してしまったのね。犠牲者を…」
突如現れたLv.80のアカウント2人に呆然となる、残る7人のプレイヤー達を見渡すナツキとアイリ。
自分の生み出したゲームが出した犠牲者……その事実に唇を噛み締め、握り拳に肩を震わせるナツキ。
「くそっ…!」
「………」
…――バァンッ!!
突然の銃声と共に、ナツキの鼻頭を弾丸が掠めていく。
「どわァっ!!」
驚きその場にしりもちをつくナツキ。その顔にグっと近づくのはアイリの顔。自分の頬の横で、トリガー部分に指をかけた両手を広げ「ちゃお♥」っと笑顔。もう呆然とするしかないナツキを見下ろすアイリは、その身を起こして小さく息をはく。
「気持ちはわかるわ…でもヘコむのは後。今必要なのは前を向く事。そしてこの場に残る全員を助ける事よ」
「………」
「悔しいのはアンタだけじゃない…」
「…アイリ…」
そう言ってどこか悲しそうな笑みを見せるアイリ。その表情を見つめるナツキは、フっと息をはき笑う。
「…そうだね。君から言われたばかりだったよ…『1人で抱え込むな』って」
「そっ。だから、後であたちも慰めて~♥」
「無理だ」
「速答ぉーっ!」
起き上がるナツキの前で、体で『人』の字を表すようにコケるアイリ。その姿にため息を1つつき、銃弾の掠めた鼻を擦る。
「まぁそれはそれだが…目を覚まさせるのに、銃撃は無いんじゃないのか――…なッ!!」
ナツキは突如手にした杖を突き出し、アイリの頬を掠めさせる。その杖の先はアイリの肩を越え、その先に2~3メートルの魔法陣を展開させた。
ッ――バチバチバチッ!!
っと続き響き渡る電撃音。驚き振り返るアイリの目の前では、ナツキの展開させた魔法陣がポロンの斬撃を受け止めていた。
「今は戦闘中だ。続きは終わってから抗議させてもらうよ」
「守ってくれてサンキュ、っスけど…あたしも終わってから言うわ。レディの顔を脅かした事に関して、ね!」
そう言うアイリは両手に握る銃を軽く振り、リボルバーの部分で銃を二分。そして空の薬莢をバラバラと地に落とし、再び振る反動で銃を元の形状へ。金具のはまるカシャ!っという音を鳴らすと、その音に合わせナツキは魔法陣を解いた。
すると阻むもの無きポロンの刀はナツキとアイリに迫り――…ドンッ!!っと叩くような音を発し、地面の畳を割った。
ナツキとアイリ――2人の姿は!?っと、ヒートにポロン。もちろん他のプレイヤーらも周囲に視線を廻すと、2人の姿はポロンの背後に。
「ちょっとナツキ!!せっかく張ってた《サークシールド》解くの早すぎ!もう少しで当たるトコだったじゃないのよ!!乙女の体を傷ものにするつもり!?」
「弾を装填したなら、さっさと攻撃すればよかったんだろ…それにこれはゲームだ。傷なんかつくものか」
おそらくは〔ステップ〕で躱した後…何故か睨み合うナツキとアイリ。その両者に迫るのは、振り返り様のポロンの斬撃。
「戦場で痴話喧嘩とは…隙だらけですぜ、ご両人」
「室長!!アイリちゃん!!あぶね――…」
ヒートが声を上げる――…その途中、爆発音と共に火を噴くのはアイリの拳銃。
「《チェイスボム》!!」
地を蹴り跳び上がるアイリの声に合わせ、銃口から飛び出す4つの拳程の青い光り。小さく弧を描き、刀を振るうポロンの体に刺さり起爆。
瞬間的なカウンターヒットに仰け反るポロンの横。立ち込める爆煙をくぐり抜けるナツキは、ヒートらの元に走る。そして滞空のアイリに向き、
「後は頼んだアイリ!」
「OK室長ぉ!その代わりヒート達頼むわよ~」
「了解した」
互いに視線を交わすナツキとアイリ。そのアイリの目の前、爆煙を振り払うように再び振るわれるポロンの刀が迫る。
「あっ、ヤバ…っ!!」
射撃により滞空状態のアイリ。躱す術は〔ステップ〕のみだが、〔ステップ〕は地に両足が着いている事が条件。そして身を守る〔ガード〕も同条件にある。直撃必至のアイリに、走るナツキの杖が向く。
「言ったそばからこれか…《シャッフル・スタンド》!!」
ナツキが苦笑いで唱えた声。するとナツキとアイリの体が一瞬白く発光し、やむ光りと共に2人の位置が瞬時に入れ換わる。
スバァッ!!
斬撃音と共に地に転がるのはアイリ――…ではなく、入れ換わったナツキ。そしてヒートの元に降り立つのはアイリ。一瞬の事に驚くヒートに並んだアイリも、「へ?」っと驚き振り返る。
「ちょっ、ちょっとナツキ!?無事!?」
倒れたナツキだが、すぐさま跳ねるように起き上がり、自分のLGを確認。ゲージの5分の1が減っているのを見て、小さくため息。
「君より僕の方が防御力は高い。だから大丈夫。しかしアイリ、【空中防御】のスキルが無いのに、不用意にジャンプするのは好ましく無い」
そう言うナツキめがけ、ポロンの刃が振り抜かれる。ヒットの瞬間、ナツキの足元に展開された魔法陣から伸びるドーム状の光りが、ポロンの刃を受け止めた。
「身を呈して女性を守るとは…男でやんすねぇ~旦那」
「〔ガード〕したのに、だいぶLGを持っていくもんだねポロン。さすがはボスエネミーだ」
互いに鋭い視線をぶつけ合い、ナツキの展開するバリアにポロンは幾度も刀を落とす。刀がバリアに当たる度、工事現場などで聞く、ガンッ!!ガンッ!!っと重くぶつかり合う金属音が辺りに響き渡る。
この光景に、ヒートや他のプレイヤー達の口はポカーンっと開いたまま……
「…アイリちゃん…何?今の手品…」
「へ?手品?…違うわよ、あれは【法陣術】って魔法」
「ほ、ほう…じん…?」
「ざっくりと説明するわよ。ナツキのアカウントは、魔法が得意な【妖精種】の【法陣術師】。ナツキの足元にあるような魔法陣をフィールドに展開させ、防御から回復。あらゆる支援効果を発動させる、支援型のジョブよ」
連続して並ぶ単語に、更にポカーンっとなるヒート。その中でもアイリは言葉を続けた。
「んで、あたしはその逆タイプ。防御を捨てた特攻型のジョブ【ガンマン】。んで、『小さい人』と書く【小人種】って種族。170センチでいつも美人の愛莉ちゃんから、148センチ。可愛さ満天のアイリちゃんの完成な~のだ」
っと、おちゃらけた言葉だが口調は棒読み。眼光鋭くヒートに向く。
「いい?ヒート。今からあたしとナツキでポロンを倒すわ。アンタは絶対に――…てか」
ヒートの後方に立つ、残るプレイヤー6人を見渡すアイリ。
「皆も出来るだけ固まってて。そして絶対に動かないで。死にたくなかったらね。わかった?」
アイリの言葉に、他のプレイヤー達は顔を見合せ、「は…はあ…」っととりあえずは頷いてみせる。
自分達はLv.1。敵はLv.50で、味方してくれるのはLv.80のアカウント。それも2人。それならば何もせず、邪魔をしない方がいい…プレイヤー誰もがそう思った。
「よーし、わかればよろしい。ではでは――…」
っとアイリが数回頷き、ポロンに向き直ろうとすると……
「ダメだ…MGが切れる!ガードがもたない…交代だアイリ!」
「へ?」
「《シャッフル・スタンド》!!」
呪文と共にアイリの体が白い光りに包まれ、瞬間移動の如くに降り立つ場所。それは――…
…――スバァッ!!
「ほげぇーっ!!」
襲う斬撃に、抜けた悲鳴を上げ吹き飛ぶアイリ。降り立ったのはそう、ナツキがバリアでポロンの斬撃を受けていた場所。しかし既にそこにはバリアは無く、攻撃途中の刀の前に、NOガードのアイリが放り出されたのだ。そしてヒートの元。先程までアイリがいた場所にはナツキが降り立つ。
「し、室長!?何が起きたんだよ!?」
「これは《シャッフル・スタンド》という魔法。術者と半径10メートル以内の対象者の位置を、瞬時に交換する事が出来る魔法です。行動値を表すMGが切れそうでしたので、再度使わせてもらったんです」
驚きの表情のヒートに、冷静な様子で説明するナツキ。するとそのナツキの足元に、銃声に合わせ1発の弾丸が突き刺さる。
「うわっ!?あっ、危ないだろ!!何でこっちに撃った!?」
「『何で』じゃないわーい!!」
この弾丸…もちろん撃ったのはアイリで、しりもち状態から狙ったもの。
「レディを身代わりにするとは何事じゃコラァ~!!」
っと怒れる抗議の声を上げ、次々に発砲を繰り返すアイリ。その弾は全てナツキに命中し、その身を地に倒す。
「うお~!!室長が死んだぁーっ!!」
銃弾を浴び倒れるナツキに慌てて駆け寄るヒート。だがナツキはすぐに起き上がり、アイリを睨む。
「君はバカか!!味方への攻撃でもダメージは受けるんだ!それで死んだら僕らも終わりなんだからな!!」
「安心せい、峰打ちじゃーい!!」
「弾に峰なんかあるかーっ!!」
突然始まった内輪揉め……敵のポロンもさすがにポカーン。「あれ?撃たれたよな?」っと、同じくポカーンのヒートが見るナツキのLG。アイリの攻撃によりなのか?若干ではあるが確かに減っている。
「味方が攻撃してもダメージ受けんのかよ…?」
「…はい、少しではありますが…敵の術などで混乱した時などに、目を覚まさせる手段の1つ。だから決して今のような、報復的な意味合いで使用する事は絶対にダメです」
「うるさい!乙女の体を傷つけた代償だと思え、腹黒メガネ!」
「だ・か・ら・これはゲームだ傷はつかない。後で回復するから今は文句を言わずに戦ってくれ」
怒りを露にムキー!っとなるアイリに対し、クールダウン完了。無表情に返すナツキは、自分を中心とした直径5メートル程の魔法陣を展開させる。
「言いたい事は溜めて後で僕に吐くといい。だから今は全開で決めてくれ」
「む~…わかったわよ…バリアの時間は?」
「30秒だ。初撃から一気にいってくれ」
「りょーかいだにゃん、室長」
「頼むぞアイリ。《攻撃力上昇》!!」
頷き立ち上がるアイリの手元に、ナツキのかけた付属魔法、攻撃力上昇効果を意味する、『拳』のマークに『⬆』がついたアイコンが両手の甲に浮かぶ。瞬間、アイリは地を蹴り走り出す。
「あいかわらずダっサいアイコン」
「その文句も終わってからだ。支援は要るか?」
「まだまだ要らんぜよ~」
言葉を返し、両手の拳銃を指でクルっと1回転。
「来るでやんすか」
「ほいほい、行くでやんすよぉ~ポロン。デカキモの姿から、あたしデザインの可愛いチビポロンちゃんに、今戻して上げるわ――…よォ!!」
回転させた拳銃を掴み両腕をクロスさせ、引き金を引くと同時にその両腕を振り抜いた。その間、連続に響く銃声。放たれた放物線状の弾丸は、『×』の形を保ちポロンに連続ヒット――…
「甘いでやんす!」
…――の直前。プレイヤーと同じ〔ステップ〕の如くに弾丸を躱すポロン。その〔ステップ〕は前進。走るアイリは一瞬にしてポロンの間合いに入り込んでしまう。
「ヤバっ――…」
「エネミーだって〔ステップ〕は使えますぜい?それにあっしは相手の攻撃を読むスキル【見切り】の使い手…もらったでやんす!!」
既に構えられた刀を握る手に、グっと力がこもる――…瞬間、
「…――(ヤバ)い』って言うと思ったでやんすかぁ?ポロンちゃん♪」
「?――…ッ!!」
まさに「ヤバい」と言いたげな表情を一変させ、ニコっと笑うアイリ。その笑みに続き、ポロンの身を襲う数回の衝撃。そしてグラつくポロンの頬を1発の弾丸が掠めた。
それはアイリの方からでは無い…ポロンの背後から飛んできたもの。アイリ以外に銃使いはいないはず…なのに何故…
呆然となるポロンに対し、足を止めたアイリが再び引き金を引く――…が、その銃口はポロンを向いてはいない。ポロンを12時とするなら、10時の方向に放つ弾丸。その銃声から数秒、ポロンの右の足首に衝撃が襲う。
「なっ…!?」
驚きな表情のポロンに対するは笑顔のアイリ。続け連続に撃ち放つ、狙い違いの弾丸。そして一拍おいてポロンを襲う、銃声と同じ回数の体各所の衝撃。
「何でやんすか…!?今のは…!」
驚きの中、再び鳴り響く銃声。すると1発の弾丸がポロンの視界を横切り、まっすぐ壁に向かって、壁に当たると共に跳ね返り再び壁へ。多角的な反射を見せ、ポロンの被る笠を撃ち抜いた。
「ッ!?」
「《リフレク・ショット》。反射する弾は避けづらいでしょ~?」
「…跳弾でやんすか…」
「攻撃を読む【見切り】か…予想にすぎないスキルごとき、あたしの頭脳に勝てるとでも思ってる訳?」
そう言って空の薬莢を撒き散らし、再び構える拳銃。
「撃ち出しの力と速度。対象距離に入射角度、重力計算。加えた弾の回転力…計算式の答えは1つ。『予想』を超えるものは、あたしの『計算事実』だけよ、ポロンちゃん」
「くっ…!!」
凶気すら感じられる笑みに、ポロンは後ろに跳びアイリとの距離を取る。しかしアイリの武器は拳銃。しかも跳弾使い…撃たれる前に撹乱させるべく、ポロンが横に跳んだ――…次の瞬間、ドンッ!!っと背中が何やら壁のようなものに当たる。
「何だ!?」っとポロンが振り返る視界に映るのは、数メートル先にいるナツキらアイリ以外のプレイヤーの姿。全く何も無いはずなのに、見えない壁にでも当たったような感覚。
続き鳴る1発の銃声と共に、ポロンに突き刺さる弾丸。威力に仰け反る体も、見えない壁に押し返される。
「あ~らポロンちゃ~ん。気づかなかったの?ここはあたしとあなた…2人きりの空間よ」
「ど、どういう事で――…ッ!?」
再び見る周囲……それは一瞬の光りの変化で気がついた。アイリとポロン。その周囲10メートル程を、透明なガラスのようなものが四方囲っていたのだ。
「バリアってプレイヤー側に張ってると思った?…残念~♪張られたのは戦闘空間の方でした~♪」
っと笑みをこぼし、残る弾丸を全てポロンに撃ち込むアイリ。
「法陣術師のバリアって、こんな使い方も出来ちゃうのよねぇ~。和室のままだと銃弾が埋まっちゃうから、バリアあっての跳弾。つーまーり、あたしとナツキの初めての共同作業~…なんちって♥」
自分の頬に指に見立てた銃口を立て、舌をペロっと覗かせるアイリ。
「何をしてるんだアイリ!!《リフレク・ショット》は足止めのキッカケだ!通常攻撃では時間がかかる。後は威力のある術技で決めろ!!」
「何なに~?そんな焦んなさんなってナツキたん」
「『焦んな』って、バリアは後10秒!遊んでる時間は無い!」
「大丈夫だーいじょぶ。あたしの計算に狂いは無いわよ~♪」
「いいから早く爆撃技で片付けろ!!他のプレイヤーを巻き込まない為のバリアなんだ!!」
「あーもう!大丈夫って言ってんでしょ!天才の頭脳は凡人とは違うのーっ」
不機嫌そうにムスっと頬を膨らまし、次なる弾を装填するべく薬莢を撒いた瞬間……ポロンの口元がニヤりと動く。
「なるほど…読めたでやんす…」
「へ?」
呟くポロンに反応を返すアイリ。すると間髪入れず、ポロンがバリアの張られた地面を叩く。
「《呪術・影縛》!!」
叩く手をそのままに、ポロンの声に反応するのは地面。アイリの足元から赤い鎖が突然伸び、アイリ――…では無く、アイリの影を拘束。
「うっそ…っ!!」
影に蔓の如くに巻き付く鎖。瞬間、アイリは体の自由を完全に奪われ、顔の表情以外を動かせない状態となる。
「っ…!!」
「答えは1つかもしれやせん…ですが、『予想』もたまには『計算』を超える時があるでやんすよ…《転移術・影法師》」
唱える呪文に合わせ、ポロンの体は自分の影に吸い込まれていき……
…――ズバッ!!
突如周囲に斬撃音を響かせると、ナツキの後ろに立つプレイヤーを斬り裂きポロンが現れた。
バリアの中にいたはずのポロンが、突然真横に現れた事に思わず腰を抜かすヒート。
「うっ、うお!?何で急に…っ!?」
「《転移術・影法師》!?自分の影と相手の影間を移動する高位魔術…っ!」
驚きつつも、ナツキが斬られたプレイヤーに向かい回復魔術を使おうとするが――…瞬間的に散って消えていくプレイヤー。
目の前で散った命……その動揺が一瞬の動きを奪い、ポロンはその隙を逃さない。再び響く斬撃音にナツキの視界が揺らぎ、次々の連撃がその身を吹き飛ばす。
「ナツキ!!」
映るアイリの視界、ナツキのピンチに駆け出そうにも、指1本…間接1つも動かせない。そんなアイリを横目に、ポロンは倒れたナツキの腹に刀を突き立てた。
「ぐっ…!!」
刺されたナツキの腹部には、誰かが足で踏みつけているかの圧力がかかり、立ち上がる事を許さない。加え、全身から抜ける力。そして刺さる刀により、みるみる内にナツキのLGが減っていく。
「おっ、おい室長!何やってんだ!魔法か何か早く使えって!!」
「無理でやんすよぉ、ヒート殿。ナツキ殿のMG…もう0でやんす」
「は?」
言われ見るナツキのステータス。確かにMGはほぼ0。だがゆっくりと戻ってはいる。
「法陣術師は、術を展開中はMGを消費する。ゲージを0にしていなければ、長くとも2~3秒で回復しますが、0になれば10~15秒…完全回復するまで身動きが取れなくなるでやんす」
「っんだと…!?」
「攻撃の要、アイリ殿は動けなくなる呪術にかかってるんす。解くには解除魔術を使うか、アイテムの【聖水】を使うしかないでやんすよ、ヒート殿」
「マジかよ、おい…」
2人の危機に、何かしなくては――…っと気持ちは出るが、残るLv.1のプレイヤー6人だけでは返り討ちは必至。
ポロンは倒れるナツキ。動けぬアイリを見、鼻で1つ笑う。
「攻撃と守備。役割がしっかり分担されてるだけ、読みやすい弱点でしたねぇ…"攻"を封じ、"守"を攻める。あとは"弱"がとりまくならば、陣は総崩れとなるでやんす……相手が揺れている内に勝負を決めない。その傲慢な余裕…足元をすくわれる要因になっちまいましたねぇ?アイリ殿」




