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NOAH -ノア-  作者: 孝乃 (編集中)
第2章『関東エリア解放篇』
14/26

Lood..010 『NOAH』なる世界 (3)

 尖り耳にスカイブルーの髪。青と白を基調とした衣をまとう、170センチ半ばの杖を持つ男性。並ぶは身長150センチ程で、軍人のような風貌に拳銃を手にした女性。ヒートが見るこの2人の顔の横には、【Lv.80 Natsuki(ナツキ)】と【Lv.80 Airi(アイリ)】の表記があった。



「室長…アイリちゃん…」

「無事なようでなによりです、ヒートさん」

「それにしても…ナイスなセンスじゃない?実織(みおり)ったら。あの飛依斗(ひいと)がピンクのチビっこウサちゃんって…笑えない状況なのに、インパクトありすぎ…ぷっ」



顔の横に表記された『ヒート』の名に、どこか安心しような笑みを浮かべるナツキとアイリ。それはヒートも同じ事。笑みは無くとも、安心感から一気に肩の力が抜ける。



「ったく…どこほっつき歩いてたんだよ…」



現在世界では見下ろす2人の顔を、仮想現実世界では見上げ、抜けるように言葉をはくヒート。



「すみません。何故か僕らだけが1階からのスタートだったので」

「は?1階?…どういう事だよ?」

「あたしらが目覚めたら、目の前は半月(はんげつ)五重塔(ごじゅうのとう)。驚いてマップを確認したら、ヒートに加え、Lv.1のユーザー達が5階に20人もいた。だから1階から急いで上がってきたのよ」

「これはたぶん…(ひろ)の裏面データがまだ、完全なものではないから起きた(ひず)みなのかもしれない。だがそのせいで…」

「ここにいた20人が、今や7人……出してしまったのね。犠牲者を…」



突如現れたLv.80のアカウント2人に呆然となる、残る7人のプレイヤー達を見渡すナツキとアイリ。


自分の生み出したゲームが出した犠牲者……その事実に唇を噛み締め、握り拳に肩を震わせるナツキ。



「くそっ…!」

「………」




 …――バァンッ!!




突然の銃声と共に、ナツキの鼻頭を弾丸が掠めていく。



「どわァっ!!」



驚きその場にしりもちをつくナツキ。その顔にグっと近づくのはアイリの顔。自分の頬の横で、トリガー部分に指をかけた両手を広げ「ちゃお♥」っと笑顔。もう呆然とするしかないナツキを見下ろすアイリは、その身を起こして小さく息をはく。



「気持ちはわかるわ…でもヘコむのは後。今必要なのは前を向く事。そしてこの場に残る全員を助ける事よ」

「………」

「悔しいのはアンタだけじゃない…」

「…アイリ…」



そう言ってどこか悲しそうな笑みを見せるアイリ。その表情を見つめるナツキは、フっと息をはき笑う。



「…そうだね。君から言われたばかりだったよ…『1人で抱え込むな』って」

「そっ。だから、後であたちも慰めて~♥」

「無理だ」

「速答ぉーっ!」



起き上がるナツキの前で、体で『人』の字を表すようにコケるアイリ。その姿にため息を1つつき、銃弾の掠めた鼻を擦る。



「まぁそれはそれだが…目を覚まさせるのに、銃撃は無いんじゃないのか――…なッ!!」



ナツキは突如手にした杖を突き出し、アイリの頬を掠めさせる。その杖の先はアイリの肩を越え、その先に2~3メートルの魔法陣を展開させた。




 ッ――バチバチバチッ!!




っと続き響き渡る電撃音。驚き振り返るアイリの目の前では、ナツキの展開させた魔法陣がポロンの斬撃を受け止めていた。



「今は戦闘中だ。続きは終わってから抗議させてもらうよ」

「守ってくれてサンキュ、っスけど…あたしも終わってから言うわ。レディの顔を(おびや)かした事に関して、ね!」



そう言うアイリは両手に握る銃を軽く振り、リボルバーの部分で銃を二分。そして空の薬莢(やっきょう)をバラバラと地に落とし、再び振る反動で銃を元の形状へ。金具のはまるカシャ!っという音を鳴らすと、その音に合わせナツキは魔法陣を解いた。


すると阻むもの無きポロンの刀はナツキとアイリに迫り――…ドンッ!!っと叩くような音を発し、地面の畳を割った。


ナツキとアイリ――2人の姿は!?っと、ヒートにポロン。もちろん他のプレイヤーらも周囲に視線を廻すと、2人の姿はポロンの背後に。



「ちょっとナツキ!!せっかく張ってた《サークシールド》解くの早すぎ!もう少しで当たるトコだったじゃないのよ!!乙女の体を傷ものにするつもり!?」

「弾を装填したなら、さっさと攻撃すればよかったんだろ…それにこれはゲームだ。傷なんかつくものか」



おそらくは〔ステップ〕で躱した後…何故か睨み合うナツキとアイリ。その両者に迫るのは、振り返り様のポロンの斬撃。



戦場(いくさば)で痴話喧嘩とは…隙だらけですぜ、ご両人」

「室長!!アイリちゃん!!あぶね――…」



ヒートが声を上げる――…その途中、爆発音と共に火を噴くのはアイリの拳銃。



「《チェイスボム》!!」



地を蹴り跳び上がるアイリの声に合わせ、銃口から飛び出す4つの拳程の青い光り。小さく弧を描き、刀を振るうポロンの体に刺さり起爆。


瞬間的なカウンターヒットに仰け反るポロンの横。立ち込める爆煙をくぐり抜けるナツキは、ヒートらの元に走る。そして滞空のアイリに向き、



「後は頼んだアイリ!」

「OK室長ぉ!その代わりヒート達頼むわよ~」

「了解した」



互いに視線を交わすナツキとアイリ。そのアイリの目の前、爆煙を振り払うように再び振るわれるポロンの刀が迫る。



「あっ、ヤバ…っ!!」



射撃により滞空状態のアイリ。躱す術は〔ステップ〕のみだが、〔ステップ〕は地に両足が着いている事が条件。そして身を守る〔ガード〕も同条件にある。直撃必至のアイリに、走るナツキの杖が向く。



「言ったそばからこれか…《シャッフル・スタンド》!!」



ナツキが苦笑いで唱えた声。するとナツキとアイリの体が一瞬白く発光し、やむ光りと共に2人の位置が瞬時に入れ換わる。




 スバァッ!!




斬撃音と共に地に転がるのはアイリ――…ではなく、入れ換わったナツキ。そしてヒートの元に降り立つのはアイリ。一瞬の事に驚くヒートに並んだアイリも、「へ?」っと驚き振り返る。



「ちょっ、ちょっとナツキ!?無事!?」



倒れたナツキだが、すぐさま跳ねるように起き上がり、自分のLGを確認。ゲージの5分の1が減っているのを見て、小さくため息。



「君より僕の方が防御力は高い。だから大丈夫。しかしアイリ、【空中防御(エアガード)】のスキルが無いのに、不用意にジャンプするのは好ましく無い」



そう言うナツキめがけ、ポロンの刃が振り抜かれる。ヒットの瞬間、ナツキの足元に展開された魔法陣から伸びるドーム状の光りが、ポロンの刃を受け止めた。



「身を(てい)して女性を守るとは…男でやんすねぇ~旦那」

「〔ガード〕したのに、だいぶLGを持っていくもんだねポロン。さすがはボスエネミーだ」



互いに鋭い視線をぶつけ合い、ナツキの展開するバリアにポロンは幾度も刀を落とす。刀がバリアに当たる度、工事現場などで聞く、ガンッ!!ガンッ!!っと重くぶつかり合う金属音が辺りに響き渡る。


この光景に、ヒートや他のプレイヤー達の口はポカーンっと開いたまま……



「…アイリちゃん…何?今の手品…」

「へ?手品?…違うわよ、あれは【法陣術(ほうじんじゅつ)】って魔法」

「ほ、ほう…じん…?」

「ざっくりと説明するわよ。ナツキのアカウントは、魔法が得意な【妖精種(フェアリー)】の【法陣術師(ほうじんじゅつし)】。ナツキの足元にあるような魔法陣をフィールドに展開させ、防御から回復。あらゆる支援効果を発動させる、支援型(サポートタイプ)のジョブよ」



連続して並ぶ単語に、更にポカーンっとなるヒート。その中でもアイリは言葉を続けた。



「んで、あたしはその逆タイプ。防御を捨てた特攻型のジョブ【ガンマン】。んで、『小さい人』と書く【小人種(ドワーフ)】って種族。170センチでいつも美人の愛莉(あいり)ちゃんから、148センチ。可愛さ満天のアイリちゃんの完成な~のだ」



っと、おちゃらけた言葉だが口調は棒読み。眼光鋭くヒートに向く。



「いい?ヒート。今からあたしとナツキでポロンを倒すわ。アンタは絶対に――…てか」



ヒートの後方に立つ、残るプレイヤー6人を見渡すアイリ。



「皆も出来るだけ固まってて。そして絶対に動かないで。死にたくなかったらね。わかった?」



アイリの言葉に、他のプレイヤー達は顔を見合せ、「は…はあ…」っととりあえずは頷いてみせる。


自分達はLv.1。敵はLv.50で、味方してくれるのはLv.80のアカウント。それも2人。それならば何もせず、邪魔をしない方がいい…プレイヤー誰もがそう思った。



「よーし、わかればよろしい。ではでは――…」



っとアイリが数回頷き、ポロンに向き直ろうとすると……



「ダメだ…MGが切れる!ガードがもたない…交代だアイリ!」

「へ?」

「《シャッフル・スタンド》!!」



呪文と共にアイリの体が白い光りに包まれ、瞬間移動の如くに降り立つ場所。それは――…




 …――スバァッ!!




「ほげぇーっ!!」



襲う斬撃に、抜けた悲鳴を上げ吹き飛ぶアイリ。降り立ったのはそう、ナツキがバリアでポロンの斬撃を受けていた場所。しかし既にそこにはバリアは無く、攻撃途中の刀の前に、NOガードのアイリが放り出されたのだ。そしてヒートの元。先程までアイリがいた場所にはナツキが降り立つ。



「し、室長!?何が起きたんだよ!?」

「これは《シャッフル・スタンド》という魔法。術者(じぶん)と半径10メートル以内の対象者(なかま)の位置を、瞬時に交換する事が出来る魔法です。行動値を表すMGが切れそうでしたので、再度使わせてもらったんです」



驚きの表情のヒートに、冷静な様子で説明するナツキ。するとそのナツキの足元に、銃声に合わせ1発の弾丸が突き刺さる。



「うわっ!?あっ、危ないだろ!!何でこっちに撃った!?」

「『何で』じゃないわーい!!」



この弾丸…もちろん撃ったのはアイリで、しりもち状態から狙ったもの。



「レディを身代わりにするとは何事じゃコラァ~!!」



っと怒れる抗議の声を上げ、次々に発砲を繰り返すアイリ。その弾は全てナツキに命中し、その身を地に倒す。



「うお~!!室長が死んだぁーっ!!」



銃弾を浴び倒れるナツキに慌てて駆け寄るヒート。だがナツキはすぐに起き上がり、アイリを睨む。



「君はバカか!!味方への攻撃でもダメージは受けるんだ!それで死んだら僕らも終わりなんだからな!!」

「安心せい、峰打ちじゃーい!!」

「弾に峰なんかあるかーっ!!」



突然始まった内輪揉め……敵のポロンもさすがにポカーン。「あれ?撃たれたよな?」っと、同じくポカーンのヒートが見るナツキのLG。アイリの攻撃によりなのか?若干ではあるが確かに減っている。



「味方が攻撃してもダメージ受けんのかよ…?」

「…はい、少しではありますが…敵の術などで混乱した時などに、目を覚まさせる手段の1つ。だから決して(アイリ)のような、報復的な意味合いで使用する事は絶対にダメです」

「うるさい!乙女の体を傷つけた代償だと思え、腹黒メガネ!」

「だ・か・ら・これはゲームだ傷はつかない。後で回復するから今は文句を言わずに戦ってくれ」



怒りを露にムキー!っとなるアイリに対し、クールダウン完了。無表情に返すナツキは、自分を中心とした直径5メートル程の魔法陣を展開させる。



「言いたい事は溜めて後で僕に吐くといい。だから今は全開で決めてくれ」

「む~…わかったわよ…バリアの時間は?」

「30秒だ。初撃(スタート)から一気にいってくれ」

「りょーかいだにゃん、室長」

「頼むぞアイリ。《攻撃力上昇(アタックインプルーヴ)》!!」



頷き立ち上がるアイリの手元に、ナツキのかけた付属魔法、攻撃力上昇効果を意味する、『拳』のマークに『⬆』がついたアイコンが両手の甲に浮かぶ。瞬間、アイリは地を蹴り走り出す。



「あいかわらずダっサいアイコン」

「その文句も終わってからだ。支援(フォロー)は要るか?」

「まだまだ要らんぜよ~」



言葉を返し、両手の拳銃を指でクルっと1回転。



「来るでやんすか」

「ほいほい、行くでやんすよぉ~ポロン。デカキモの姿から、あたしデザインの可愛いチビポロンちゃんに、今戻して上げるわ――…よォ!!」



回転させた拳銃を掴み両腕をクロスさせ、引き金を引くと同時にその両腕を振り抜いた。その間、連続に響く銃声。放たれた放物線状の弾丸は、『×』の形を保ちポロンに連続ヒット――…



「甘いでやんす!」



…――の直前。プレイヤーと同じ〔ステップ〕の如くに弾丸を躱すポロン。その〔ステップ〕は前進。走るアイリは一瞬にしてポロンの間合いに入り込んでしまう。



「ヤバっ――…」

「エネミーだって〔ステップ〕は使えますぜい?それにあっしは相手の攻撃を読むスキル【見切(みき)り】の使い手…もらったでやんす!!」



既に構えられた刀を握る手に、グっと力がこもる――…瞬間、



「…――(ヤバ)い』って言うと思ったでやんすかぁ?ポロンちゃん♪」

「?――…ッ!!」



まさに「ヤバい」と言いたげな表情を一変させ、ニコっと笑うアイリ。その笑みに続き、ポロンの身を襲う数回の衝撃。そしてグラつくポロンの頬を1発の弾丸が掠めた。


それはアイリの方からでは無い…ポロンの背後から飛んできたもの。アイリ以外に銃使いはいないはず…なのに何故…


呆然となるポロンに対し、足を止めたアイリが再び引き金を引く――…が、その銃口はポロンを向いてはいない。ポロンを12時とするなら、10時の方向に放つ弾丸。その銃声から数秒、ポロンの右の足首に衝撃が襲う。



「なっ…!?」



驚きな表情のポロンに対するは笑顔のアイリ。続け連続に撃ち放つ、狙い違いの弾丸。そして一拍おいてポロンを襲う、銃声と同じ回数の体各所の衝撃。



「何でやんすか…!?今のは…!」



驚きの中、再び鳴り響く銃声。すると1発の弾丸がポロンの視界を横切り、まっすぐ壁に向かって、壁に当たると共に跳ね返り再び壁へ。多角的な反射を見せ、ポロンの被る笠を撃ち抜いた。



「ッ!?」

「《リフレク・ショット》。反射する弾は避けづらいでしょ~?」

「…跳弾(ちょうだん)でやんすか…」

「攻撃を読む【見切(みき)り】か…予想にすぎないスキルごとき、あたしの頭脳(あたま)に勝てるとでも思ってる訳?」



そう言って空の薬莢(やっきょう)を撒き散らし、再び構える拳銃。



「撃ち出しの力と速度。対象距離に入射角度、重力計算。加えた弾の回転力…計算式の答えは1つ。『予想(エクスペクテイション)』を超えるものは、あたしの『計算事実(キァルキュレイトファクト)』だけよ、ポロンちゃん」

「くっ…!!」



凶気すら感じられる笑みに、ポロンは後ろに跳びアイリとの距離を取る。しかしアイリの武器は拳銃。しかも跳弾使い…撃たれる前に撹乱させるべく、ポロンが横に跳んだ――…次の瞬間、ドンッ!!っと背中が何やら壁のようなものに当たる。


「何だ!?」っとポロンが振り返る視界に映るのは、数メートル先にいるナツキらアイリ以外のプレイヤーの姿。全く何も無いはずなのに、見えない壁にでも当たったような感覚。


続き鳴る1発の銃声と共に、ポロンに突き刺さる弾丸。威力に仰け反る体も、見えない壁に押し返される。



「あ~らポロンちゃ~ん。気づかなかったの?ここはあたしとあなた…2人きりの空間よ」

「ど、どういう事で――…ッ!?」



再び見る周囲……それは一瞬の光りの変化で気がついた。アイリとポロン。その周囲10メートル程を、透明なガラスのようなものが四方囲っていたのだ。



「バリアってプレイヤー側に張ってると思った?…残念~♪張られたのは戦闘空間(こっち)の方でした~♪」



っと笑みをこぼし、残る弾丸を全てポロンに撃ち込むアイリ。



法陣術師(ほうじんじゅつし)のバリアって、こんな使い方も出来ちゃうのよねぇ~。和室のままだと銃弾が埋まっちゃうから、バリアあっての跳弾(ちょうだん)。つーまーり、あたしとナツキの初めての共同作業~…なんちって♥」



自分の頬に指に見立てた銃口を立て、舌をペロっと覗かせるアイリ。



「何をしてるんだアイリ!!《リフレク・ショット》は足止めのキッカケだ!通常攻撃では時間がかかる。後は威力のある術技(じゅつぎ)で決めろ!!」

「何なに~?そんな焦んなさんなってナツキたん」

「『焦んな』って、バリアは後10秒!遊んでる時間は無い!」

「大丈夫だーいじょぶ。あたしの計算に狂いは無いわよ~♪」

「いいから早く爆撃技で片付けろ!!他のプレイヤーを巻き込まない為のバリアなんだ!!」

「あーもう!大丈夫って言ってんでしょ!天才(あたし)頭脳(あたま)は凡人とは違うのーっ」



不機嫌そうにムスっと頬を膨らまし、次なる弾を装填するべく薬莢(やっきょう)を撒いた瞬間……ポロンの口元がニヤりと動く。



「なるほど…読めたでやんす…」

「へ?」



呟くポロンに反応を返すアイリ。すると間髪入れず、ポロンがバリアの張られた地面を叩く。



「《呪術(じゅじゅつ)影縛(かげしばり)》!!」



叩く手をそのままに、ポロンの声に反応するのは地面。アイリの足元から赤い鎖が突然伸び、アイリ――…では無く、アイリの影を拘束。



「うっそ…っ!!」



影に(つる)の如くに巻き付く鎖。瞬間、アイリは体の自由を完全に奪われ、顔の表情以外を動かせない状態となる。



「っ…!!」

「答えは1つかもしれやせん…ですが、『予想』もたまには『計算』を超える時があるでやんすよ…《転移術(てんいじゅつ)影法師(かげぼうし)》」



唱える呪文に合わせ、ポロンの体は自分の影に吸い込まれていき……




 …――ズバッ!!




突如周囲に斬撃音を響かせると、ナツキの後ろに立つプレイヤーを斬り裂きポロンが現れた。


バリアの中にいたはずのポロンが、突然真横に現れた事に思わず腰を抜かすヒート。



「うっ、うお!?何で急に…っ!?」

「《転移術(てんいじゅつ)影法師(かげぼうし)》!?自分の影と相手の影間を移動する高位魔術…っ!」



驚きつつも、ナツキが斬られたプレイヤーに向かい回復魔術を使おうとするが――…瞬間的に散って消えていくプレイヤー。


目の前で散った命……その動揺が一瞬の動きを奪い、ポロンはその隙を逃さない。再び響く斬撃音にナツキの視界が揺らぎ、次々の連撃がその身を吹き飛ばす。



「ナツキ!!」



映るアイリの視界、ナツキのピンチに駆け出そうにも、指1本…間接1つも動かせない。そんなアイリを横目に、ポロンは倒れたナツキの腹に刀を突き立てた。



「ぐっ…!!」



刺されたナツキの腹部には、誰かが足で踏みつけているかの圧力がかかり、立ち上がる事を許さない。加え、全身から抜ける力。そして刺さる刀により、みるみる内にナツキのLGが減っていく。



「おっ、おい室長!何やってんだ!魔法か何か早く使えって!!」

「無理でやんすよぉ、ヒート殿。ナツキ殿のMG…もう0でやんす」

「は?」



言われ見るナツキのステータス。確かにMGはほぼ0。だがゆっくりと戻ってはいる。



法陣術師(ほうじんじゅつし)は、術を展開中はMGを消費する。ゲージを0にしていなければ、長くとも2~3秒で回復しますが、0になれば10~15秒…完全回復するまで身動きが取れなくなるでやんす」

「っんだと…!?」

「攻撃の要、アイリ殿は動けなくなる呪術(じゅじゅつ)にかかってるんす。解くには解除魔術を使うか、アイテムの【聖水(せいすい)】を使うしかないでやんすよ、ヒート殿」

「マジかよ、おい…」



2人の危機に、何かしなくては――…っと気持ちは出るが、残るLv.1のプレイヤー6人だけでは返り討ちは必至。


ポロンは倒れるナツキ。動けぬアイリを見、鼻で1つ笑う。



「攻撃と守備。役割がしっかり分担されてるだけ、読みやすい弱点でしたねぇ…"攻"を封じ、"守"を攻める。あとは"弱"がとりまくならば、陣は総崩れとなるでやんす……相手が揺れている内に勝負を決めない。その傲慢(ごうまん)な余裕…足元をすくわれる要因になっちまいましたねぇ?アイリ殿」

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