Lood..009 『NOAH』なる世界 (2)
『ポロン』と名乗ったキツネは、驚き唖然とする周囲に、刀の切っ先を向け眉をひそめた。
「それにしても、どういう事でしょうねぇ?あっしの記憶が正しくば、演習で会った頃の皆さんと、何も変わっちゃいないですが…Lv.1のままのようですし。そんな紙切れの装備で、よくもまぁこの【半月五重塔】を進んで来られましたねぇ」
周囲に向けていた刀を下ろし、首を傾げるポロン。周囲のプレイヤー達も、今何が起きているのか理解出来ていない。互いに見合い「どういう事だ?」「何だよこれ…」っと繰り返すだけ。この状況にヒートも頭を掻く。そして1歩前に踏み出し、ポロンに問いかけた。
「おいキツネ。これ何だよ?それにお前、本当にあのポロンか?」
「おやおや、あなたは…確かヒート殿。お久し振りでやんすねぇ」
「殿って…キモいな…」
「そうでやんすよ、あっしはポロン。皆さんが【暗黒のオルゴール】を鳴らした結果、呪いをかけられちまったポロンでやんす」
「あ、暗黒?オルゴール?呪い?」
「しらばっくれでやんすか?…まぁいいでしょう。ここはオルゴールの呪いにかけられた精霊達が眠る、1階ごとにエネミーLvが10ずつ上がっていく塔。そしてここが最終フロア…【Lv.50の案内精霊ポロンの間】でやんす!!」
張り上げた声と共に、ポロンは刀を逆手に地面を突き刺した。するとその刀から円形に広がっていく光りが、宇宙空間を和式の大広間へと変えていく。足場は畳。木の天井への高さは軽く7~8メートルはあり、広さは四方100メートル程。
「なっ、何だよコレ!?」
「Lv.1といえど、この5階まで来た皆さん。相手にとって不足無しでやんす!」
そうポロンが言った瞬間、ヒートらプレイヤー達の顔の横に現れる自身のステータス。これはエネミーから見つかったという意味…つまり、今目の前にいるポロンは敵。
「さぁ始めるでやんす。早くあっしを倒し、呪いを解いてほしいでやんすねぇ!!」
雄叫びにも似た声で言い放つ瞬間、地を蹴るポロン。そしてまるで瞬間移動の如く、呆然と立ち尽くした男性プレイヤーの前に現れ、身の丈程の日本刀を振り上げる。
「ひィっ…!!」
突如目の前に現れた、刀を振り上げる4メートル越えのキツネに、男性プレイヤーはただその身を硬直させるだけ。だがポロンは容赦なく、男性プレイヤーの脳天から一気に刀を振り落とした。
「ズバッ!!」っと効果音が響くと、刃が通った跡としての白光放つラインが、男性プレイヤーの体を頭から縦に二分した。そして男性プレイヤーのステータスで、生命体力を表すLGがものすごい速度で減少していき、0となる。その瞬間、男性プレイヤーの体は、ガラスに入ったヒビのような虹色のラインを入れ――…
「【ジュンヤ】殿。戦いになったら〔セット〕しろと、あれ程言ったでしょう…GAME OVERでやんす」
ポロンの声と共に、その身をヒビのままに弾き飛ばし、男性プレイヤー――…ジュンヤは姿を消した。
突然の事に驚く周囲だが、ポロンは刀を構え直し、ジュンヤが消えた跡の横で呆然と立つ女性プレイヤーに向いた。彼女は人間のアカウントではないのか?尖った耳に赤い髪をおだんごに結んだ姿。
「これは【マリエ】殿。初めて会った頃と変わらぬ美しさでやんすねぇ?」
「ジュ…ジュン君は…?」
「彼氏の事ならご心配無く。1回の任務失敗はスタート地点に戻されるだけ。2回失敗で強制ログアウトでやんすから――…ねぇ!!」
構えた刀を振り抜き、ポロンは棒立ちのマリエの胴体を一刀両断。先に消えたジュンヤと同様、マリエのLGは0となり、その体に虹色のヒビをはしらせ……消滅した。
「お2人仲良く、出直してきて下せぇな」
口元に怪しい笑みを浮かべ、刀を肩に担ぐポロン。ズレてもいない被り笠を整え、呆然とする周囲を見渡す。
「さぁ早く戦いましょうや、皆さん。じゃなきゃ終われないでやんすよ?」
「お、おい…『終われない』って…ふざけんなよ、お前!」
突然1人の髭を生やし、ゴツい体つきをした男性プレイヤーが前に出て、手にしたハンディソードをポロンに向けた。
「俺は小さいお前にチュートリアルを受けてる途中だったんだぞ?それから、急に周りの景色にノイズが入って、気づいたらここにいた!」
男の言葉に、ヒートを始めとしたプレイヤー達がザワつき、「おれもだ」「わたしも」…などと互いに見合う。
「まだ始めたばっかで、チュートリアルも途中だってぇのに、いきなりLv.50のお前なんかに勝てる訳ねぇだろうがよォ!」
「そっ、そうだぜ…勝てる訳ねぇよ!」
「そうよ!おかしいわよ、これ」
各プレイヤーからの声に、ポロンは再び首を傾げた。
「何を言ってるでやんすかぁ?この半月五重塔は、20人以上で結成されたギルドで挑む特別クエストでやんすよ。ギルド結成や加入などは、県のボスを倒した証の【県オーブ】所持が条件。つまり皆さんはギルド団員であり、ボスを倒した実力者。そしてあっしが今ここにいる…これ以上の証明にはなりやせんぜ?皆さん」
ポロンの言葉に、ザワつきながらも再び視線を合わせあうプレイヤー達。
「これ…マジでおかしくね?」
「もしかして、バグった?」
「あ~それあるかも。おれさ、トイズ・クランピアのプレイブース使いたかったんだけど、今日メンテナンス日でさ。カプセルNOAHのあるネカフェからログインしてんだよ。メンテナンスしてっから、バグ的な事になってんじゃねぇの?」
「可能性有りだな、それ。じゃあさっさと〔クエストリタイア〕しようぜ」
「それか〔逃走〕とか――…って〔逃走不可〕!?」
空中をタッチし、浮かび上がるメニューを見た男性プレイヤーが驚きの声を上げる。それは〔アイテム〕や〔装備〕などのメニューの並びにある、〔逃走〕の欄についた赤バツ印を見てのものだった。
「これってボス戦でしょ?ボス戦は〔逃走〕は無理なはずだよ」
「そうなの?じゃあどうすんだよ?」
「確か1回死ぬと〔クエストリタイア〕の選択出来るって聞いた事あるわよ、わたし」
「じゃあさっさとポロンに斬られて死のうぜ。それからログインし直せばいいじゃん、おれら」
「そうだね」
「うん、そうしよう」
その輪はどんどんと広がり、ヒート以外の皆が『ポロンの攻撃待ち』のように棒立ちの状態となる。この状況に、回線遮断を知るヒートが声を上げた。
「お、おい待てよお前ら!知らねぇのかよ!?お前らは死んだら終わりなんだぞ!」
突然の言葉に、他のプレイヤー達はキョトーンっとした表情でヒートを見た。
「『死んだら終わり』?何を言ってんだよ、あんた」
「何って、そのまんまだっつーの!お前ら全員ここで死んだらホントに死ぬんだぞ」
「は?…何言ってんだ?あんた…」
「これはゲームよ?ホントに死ぬ訳ないじゃん」
「そうだよ、これはゲーム。あの刀だってバーチャルなんだし、本当に斬られる訳でもないよ。ビビんなくて大丈夫だって」
「ビビってとかじゃねぇって!マジなんだっ――…」
っと、目の前の男性プレイヤーに言いかけた瞬間。対面するプレイヤーの肩から斜めにはしる白光のライン。それはポロンの刃が通過していった跡……一気にLGを0にし、ヒートの目の前で弾け飛び、消滅するプレイヤー。消えたプレイヤーの跡から現れるポロンが、鋭い眼光をヒートらに向ける。
「これは戦事と言ったでしょう…お喋りの時間じゃ無いでやんすよ」
ポロンは刀を突き出し、ヒートに並んだ女性プレイヤーの左胸を貫いた。プレイヤーのLGが0になる前に、連撃の如くに振るわれる刀がヒートの周囲のプレイヤーらを次々に斬り裂いた。
「っ!?オっ、オイ!」
白光のラインを体にはしらせたプレイヤー達が、ヒートの周りで次々に消滅していく。
「マジかよ…!」
「どうしたんですかい?ヒート殿…戦いましょうや。そうしないとこの任務、クリア出来ないでやんすよ?」
そうヒートに投げかけ、間合いに残るプレイヤーを斬り捨てる。
「お前っ…!マジでヤメろって!コイツらマジで死ぬんだよ!!」
「えぇ、そりゃ死んでしまいますねぇ…1回は。でもまたやり直せばいいじゃないですかい?」
「んな事出来ねぇんだって!!お前ら作った室長が『死ぬ』って言ってたんだよ!!」
「『しつちょー』…?何でやんすか?そりゃ」
「室長は夏輝室長だ!お前らっつーか、このNOAHを作り出した男だ!」
「『なつき』…でやんすか?」
「そうだ!今現実世界とゲームの回線だかが切れて、18万人がゲーム空間に閉じ込められてんだ!」
「かっ、回線が切れただって!?」
この言葉に、残るプレイヤー達がザワつき始める。ヒートはそのプレイヤー達を見渡し言葉を続けた。
「その回線が切れたせいで、お前らはゲームで死んだら現実でも死ぬんだよ!」
「嘘だろ…そんな訳――…」
「嘘じゃねぇ!!ホントに嘘じゃねぇから信じろ!」
「いきなりそんな事言われても、信じられる訳ないだろ…」
「ゲームで死ぬなんて…そ、そんなのあり得ないわよ…」
残る10名のプレイヤー達は互いに見合い、首を傾げる。不安げな表情ではあるものの、実感…現実味の無いヒートの言葉は信じられない、っといった様子だ。
「おいおいお前らマジなんだぞ…室長…愛莉ちゃんよぉ…いねぇのかよ…オイ室長!!どっかにいんだろ!?室長!!愛莉ちゃん!!」
辺りを見渡し、夏輝と愛莉の名を叫ぶヒート。すると突然、1人の尖り耳に長いピンクの髪の女性プレイヤーが大きな声を上げた。
「なっ、何で!?」
その突然の声に、ヒートや他のプレイヤー達の視線が女性プレイヤーに集中する。
女性プレイヤーは、空中に表示されたメニューの一部を何度も押して、小さく「えっ!?えっ!?」っと繰り返す。そんな彼女にヒートが歩み寄る。
「何してんだよ?あんた…」
「あ、あの…私、実は前のアカウント削除してて。今は新しくアカウント作り直してログインしてるから、知ってるんだけど…メニュー項目の1番下の〔ログメニュー〕から、セーブ無しでの強制ログアウトが出来るの」
「強制…ログアウト?」
「うん。ゲーム中にリセットボタン押すとか、電源切っちゃうのと同じ事。選択すると、『セーブをしないで現実世界に戻りますか?』って出るから、〔はい〕を選べば現実世界に戻れるのに…」
そう言いながらも、彼女はメニュー内の〔ログ〕の項目を何度も押し続ける。しかし、タッチパネルのボタンのような〔ログ〕の項目は、何の反応も示さない。
それを見ていた周りのプレイヤー達も、彼女と同じようにメニューを立ち上げ、同じ〔ログ〕を指でタッチする。だが結果は同じ。皆の〔ログ〕が反応が無い状態。
ヒートと向き合う女性プレイヤーは、反応無き〔ログ〕メニューに、回線遮断の事態が事実である事を予感する。
「まさか…私達、本当に現実世界に帰れないっていう――…」
…――の言葉を途中に、女性プレイヤーの肩から斜めにはしる白光のラインと斬撃音。そして彼女の姿は、割れたガラスのように散って消えた。
「ッ!?オイッ!!」
「お喋りの時間では無いと言ったはずでやんすよ…ヒート殿ォ!!」
散る光りの中から響く怒声と共に、ポロンの刃が飛び出した。その刃の先…それは確実にヒートの顔面を捉える太刀筋。この確かな道に、刀を掴むポロンの腕が一気に突き出される。
瞬間――…ブンッ!!っと風斬る音を発て、ヒートの頬を刀が掠めていく。
「ッ!?」
まさかの空振りに、ポロンの目が見開く――…っと同様に、何故かヒートも驚きの表情。だが切り替えるのはポロンの方が先。突き出した刀を真一文字に振り抜いた。
ブンッ!!
再び響くのは再びの風斬り音。斬撃から遅れくる風圧になびく長いピンクのウサギ耳。そこにいるのは腰を折り、身を屈めたヒート。
「…――っぶねぇ~!」
まるで水から上がった時のように、一瞬にして息を吐き出し身を起こすヒート。その起きるヒートの姿に、ポロンは口元を笑みに変え、間合いを開き刀を構えた。
「〔ステップ〕のタイミング、お見事でやんすねぇ、ヒート殿――…ッ!?」
そう言うポロンの表情は、ヒートのステータスを見て一変。それはヒートのACとMG。この2つの変化が全く無いのだ。つまりはヒートは〔ステップ〕を使用した訳でもなく、〔セット〕もしていない状態であるという事。
「おっと…これはどういう事でやんしょうねぇ――…ッ!!」
舌で口元を舐め、構えた刀をヒートの顔面めがけて再び突き出すポロン。だが、ヒートはその場から1歩も動く事無く、顔だけを僅かに横にズラし、頬を掠めるように刀を躱す。
「〔ステップ〕?…あ~、さっき聞いたアレか…でも何だよ、そんなん無くても避けられんじゃねぇか。それに、その程度の攻撃速度なら、ウチのボクシングジムの会長が打つパンチの足元にも及ばねぇな…」
そう言うヒートは、頬に触れるか触れないかの位置にある刀を横目に、鼻で1つ笑う。
ヒートは確かに〔セット〕はしていない。ただエネミーに見つかっただけの状態である。つまり〔攻撃〕は出来ないが、通常行動は可能。ただ純粋にボクサーとしての動体視力と上半身の動きだけで、ポロンの斬撃を躱していたのだ。
ヒートを見るポロンの表情が、再び笑みに変わっていき、徐々に不気味さを増していく。そして刀を戻し、そのヒートを飛び越えた。そしてヒートの後ろに立つ2人のプレイヤーを斬り捨てた。
「おっ、おいコラキツネ!!ヤメろっつったろ!!オレとの勝負はどうしたァ!!」
「あっしは好物を最後にとっておくタイプでしてねぇ。勝負は最後にとっておきましょうや」
チラっとヒートを睨み、プレイヤーらの固まる元へと突っ込んでいくポロン。そして標的となるは1人の男性プレイヤー。身長150センチ程で、耳が手の平くらい大きく、髪は抹茶色。アフロっぽいのか?遠目に見たらまるでブロッコリー…その彼はハンディソードも抜かずに棒立ち状態。
「あなたは確か…【タケシ】殿。あいかわらずの呆けっぷり、今度は命取りになりやすぜ?」
そう言うポロンが刀構え、タケシと称したプレイヤーに向かおうとした瞬間、
「タケシさん危ない!!」
上背もあり、体格のいい男性プレイヤーがハンディソードを振りかざし、ポロンに向かい突っ込んだ。
「だアァァァァ!!」
毛先が遊ぶ程では無いが、無造作にボサつかせた深い茶色の髪をなびかせ、片手でしか掴めぬ柄を両手で握り、渾身の力で振り抜くハンディソード。ポロンの斬撃とも似た白光を光らせ、そのポロンの胴体を斬る一撃。
外見からすると、ポロンの胴体は一刀両断。しかし斬撃の白光はすぐさま消え、無傷のポロンが立つだけ。
斬撃を放ったプレイヤーは、この光景に「あれ?」っと繰り返しながら、ハンディソードとポロンの胴体を交互に見る。
「さすがの一撃でやんすねぇ、【トモキ】殿。しかしそんな軽い攻撃では、あっしを両断なんざ出来やせんぜ」
そう言うポロンが横目に見る己のステータス値。トモキと呼ばれたプレイヤーの攻撃は確かにヒットしたはず…しかしポロンのLGに変化は見られない。そのLGを見るトモキの目が、危機恐々と丸くなる。
「ガっ、ガチでかよ!?全然減ってないじゃんかよ!?」
「当然でしょうトモキ殿。あっしのLGは16,200,000。今の攻撃はせいぜい9くらいですぜい」
「きゅっ、9っ!?」
「目に見えて動く程でも無いでやんすねぇ…それに所詮はLv.1の攻撃。しかも初期装備で挑んでるなら当然でしょう」
そう言って、口元に笑みを浮かべるポロンの胴体に再び白光がはしると、背後から1人のプレイヤーが飛び出した。
尖り耳をした小柄な男性。藍色が毛先に向けて薄くなっていく、前髪の右側が長いアシンメトリーの髪型。ハンディソードを片手に、呆然とするトモキの前に降り立った。
「【セキカワ】!?」
降り立つプレイヤーを見たトモキが言う。
「こらならどうだろ?」
セキカワと呼ばれたプレイヤーは、全体的に脱力感の漂う口調に、飄々とした風貌でポロンを見上げる。
しかしポロンのLGに変化は無い。変動無きLGに、セキカワは口を綺麗な丸型にして「おー」っと抜けた声を出す。
「ダメージは2でやんすねぇ、セキカワ殿」
「こっ、今度は2ぃーっ!?」
っと、顔に声。オーバーリアクションのトモキが、丸々とした目でポロンを見上げる。
「何を今更驚いてるでやんすか?種族とジョブの違いですぜ。セキカワ殿は非力で魔力に長けた【妖精種】の【魔法使い】。トモキ殿は【人類種】で武力に長けた【侍】でやんす。物理攻撃はトモキ殿の方が強いでやんすから――…っと…案内精霊の身というだけあって、説明癖がどうにも抜けやせんねぇ」
被り笠を指でつまみながら、首を左右に振るポロン。そしてゆっくりと刀を上げ、残るプレイヤー達に向けた。
「自分で言ったばかりでしたねぇ、『これは戦事』だと…だから始めましょうや、本当の戦いを…」
刀をブンッ!!っと振り、ゆっくりと構えるポロンの姿に、周囲のプレイヤー達はジリジリと後退る。
「セ、セキカワ…どうする?始めるったって…」
「こっちの攻撃はほぼ1桁だし、向こうの攻撃は1発当たれば終了。無理だね」
「んなあっさり言うなって~…」
2メートル級の人型のキツネが、身の丈程の日本刀を構える姿の威圧感。それもあるが、セキカワの言葉通り、ポロンの攻撃が己に当たれば『GAME OVER』は必至。しかもプレイヤー側の攻撃は蚊の刺すようなもの……加え、もしヒートの言葉が本当なら――…っとの迷いと恐れが足を後ろに向かわせる。
その中、突然1人の男性プレイヤーが1歩前に踏み出した。これも種族なのだろ、タケシのように身長は150センチ以下で耳が大きな種族。ガッチリとした体つきに、鼻下には見事な髭が生えている。
「どうせゲームだろ…ビビってらんねぇぜ」
そう呟き、そのプレイヤーはハンディソードを手に走り出した。周囲のプレイヤー達も、その姿に「えっ!?」っとなる中、プレイヤーの体は完全なるポロンの間合いに入り込む。瞬間、ポロンの刀がピクっと反応し、プレイヤーめがけて横殴りに放たれた。
「ステップ!!」
その声と共に、ポロンの刃は残像を残しバックステップするプレイヤーを掠めていく。
ポロンの刃が通り過ぎ、続くようにプレイヤーはハンディソードを構え、ポロンの踏み込み足を斬りつけた。そして連撃。往復させるハンディソードが再び踏み込み足を斬る。
「おっと、やられましたねぇ~…ですが、連撃は敵も同じ条件」
っと、ポロンの刀はプレイヤーに向く。
「っ――ステ――…」
〔ステイ〕――そう叫ぼうとした瞬間、ポロンの刀は目にも留まらぬ速度でプレイヤーの胴体を通過していく。
白光を放つ斬撃に、髭のプレイヤー体は消滅。斬撃を放った姿のまま、ポロンの声が響く。
「惜しいでやんすねぇ~…あなたのような【小人種】は、基礎ステータスは低くとも、その器用さが売り。〔ステイ〕と言わずとも、思わずとも、体の力を一瞬抜くだけで〔ステイ〕になる。言葉にするだけ時間のロスが出るでやんす」
残るプレイヤー達のACは全員が3。ポロンの攻撃を〔ステップ〕で躱せたとしても、相手を倒すには攻撃が必要。ポロンにもACがあるとして、それが同じ3という訳でもなさそうだ……レベルで負けている上に、一撃死亡の戦い。
「ど、どうします…?タケシさん」
ポロンから目を離さず、表情を引きつらせるトモキが問う。すると並ぶタケシは、「ん~」っと小さく唸りながら頭を掻き、手にしたハンディソードに視線を下ろす。
「…全員でやれば、何とかなんじゃない?」
「ガチで言ってんスか?全員ったって、あとおれら含めて7人…」
「その7人で16,200,000に1桁攻撃。あと何時間かかるんだろうね?」
焦りを露にするトモキに対し、淡々と語るセキカワ。しかしやらねば殺られる状況…無言で構えるタケシに合わせ、2人も構えてタケシに並ぶ。
「さぁいくでやんすよォ!!」
再び地を蹴るポロンが突っ込むのは、構えるタケシら3人の元。「来たっ!!」っとハンディソードを握る手に力がこもる。既にポロンの間合いの中…まずは初撃を躱すべく、タイミングを計らい〔ステップ〕の口を作った――…瞬間!
「《バリアサークル》!!」
っと響いた男の声に合わせ、タケシら3人の足元に黄色の光りを放つ魔法陣が現れる。その魔法陣からは同色で半透明のドーム状の光りが伸び、3人を包み込んだ。そして振り下ろされたポロンの斬撃をバチバチッ!!っと電気音を響かせ受け止めた。
…――そして続き響くは女の声。
「《十二連続早撃》!!」
声と共に、2~3発程の銃声が響いたか――…の瞬間、ポロンの体を12の爆撃が襲う。まるでガトリング銃に撃たれたかのように吹き飛ぶポロンの体。
声の響いたのはヒートらの後方……驚きのまま、ゆっくり振り返ると――…
するとそこに立っていたのは、耳を隠すくらいの綺麗なスカイブルーの髪。しかし耳はその髪を押し退けるような尖り耳で、メガネ越しの瞳は黄緑色。肌はまるで欧米人のような白さ。そして真っ白な衣に、青いケープと腰巻きをし、鉄製の杖を持った男だった。
そして並び立つのは、かなり小柄な女性。大きめのベージュのニット帽に、戦闘機パイロットのようなゴーグルを巻き、首元がダボついたタートルネックの衣服。その衣服は袖無し、ヘソ出しの姿。そして茶革のベルトが両肩から胸の下を通し巻かれている。パンツは深緑で、足元は軍隊のような黒革のブーツ。手元は指の第2間接までを覆う黒い革のグローブ。そして腰には、お尻をすっぽり隠す程の橙色のポーチを装着している。髪は黒髪のボブ。瞳は藍色。そして手の平程はあろう大きさの耳が……
その彼女は手にした2丁のリボルバー式の拳銃をクルクルと回し、キャッチと共に銃口を倒れるポロンに向ける。
「お待た~♪ウチの会社のお坊っちゃま、お迎えに上がりましたわん」
突如現れた2人を目にし、ヒートの目が見開いた。
「ま、まさか…愛莉ちゃん…?それに室長…か?」
「お待たせてしまって申し訳ありません。あとはお任せ下さい、飛依斗さん」




