Présent
アンバー王国にクリスマスの概念はありません(いちお国教会なので)。
だから、シシィからディータへの『冬の贈り物』デス(^^)
時間的には懐妊前ですね。
ここはアンバー王国の王都ディアモンド。
12月も半ばの今、ここ数日の寒波で王都はすっかり雪化粧となっていた。
騎士団のいい仕事で、公道は綺麗に除雪されて歩きやすくなっているのだが、除雪対象にならない個人宅の庭や公園などは雪原と化していた。
「「「「ではいってらっしゃいませ」」」」
「行ってくる」
「行ってきます」
執事や侍女たちに恭しく見送られて、シシィとディータは家を出た。シシィはマダム・ジュエルのパティスリーに、ディータは王城へとそれぞれ出勤するために。
開かれた扉を一歩出た途端にシシィたちを包むのは凍てついた空気。
「うわ~!! 寒いっ!」
吹きつけてくる風にコートの襟を立てるディータ。そして寒風から守るようにシシィの身体を抱き寄せる。
「ほんとに。でも見て、ディー。雪がとっても綺麗よ!」
そう言ってうれしそうに目を細めて指差すのは、玄関から表の門まで続く小道のわき、手入れの行き届いた芝生が広がっているはずの地面。そこはすっかり雪に覆われていてきらきらと朝日に煌めいている。
雪景色にはしゃぐシシィを眩しそうに見るディータだが、
「そうだね。でも今日はさすがに寒すぎない? 風邪でもひいたら大変だ。馬車で行く? それとも移動魔法にしようか?」
「うふふ、そんなに過保護にならなくても大丈夫よ? どちらも遠慮しときます。せっかくの綺麗な雪景色だもの、ゆっくり眺めながら行きたいですわ」
そんな過保護なディータの提案を一蹴し、そのアメジストの瞳を見上げてくるシシィ。そんな可愛らしいお願いを無視することなどできようもないディータは、やれやれ仕方ないねと肩をすくめてから、
「わかったよ。じゃ、行こうか」
そう言ってシシィの手を取り自分の腕に絡ませて、歩きはじめた。
さすがに今朝一緒に歩かせたのは悪かったかしら。ディー、コートの襟を立てて寒そうだったものね。
シシィは今朝のことを思い返しながらパティスリーで接客していた。
今日パティスリーを訪れる客は誰も彼も厚着をしている。鼻の頭や頬が寒さで赤くなっているにもかかわらず、パティスリーの暖かさにほっと顔を緩める客たち。それを見るとはなしに見ていたシシィだったが、ふと共通点を見つけた。
そう。どの客もマフラーをしているのだ。
色とりどりのマフラー。織物のものもあれば、一目見て手編みと判るものまである。
そう言えば、ディー、マフラー持ってなかったわよね。
そもそも上流貴族であるディータが、寒空の下、その身一つで出歩くようなことは今までなかったのだ。移動は基本的に馬車か移動魔法。寒風吹きすさぶ中、徒歩で街中を歩くような酔狂、ただシシィのわがままに付き合っているだけの事なのだ。
そうだ。ディーにマフラーをプレゼントしよう。
これからもわがままに付き合ってもらうだろうから。
そう考えたシシィだった。
伯爵令嬢であるシシィ。
レース編みなどはできても、毛糸を使った編み物などこれまでしたことなどなかった。毛糸を使った服は、主に庶民の服だからだ。もちろんマフラーも。貴族ならばマフラーを巻くというよりは毛織物のストールなどを羽織ったりするのが一般的だ。
そこでシシィは、パティスリーにいる間に、マダムやルビーから編み方を教わって編むことにした。
サプライズなプレゼントにしたかったので、ディータには内緒で作業する。暇を見つけては編み、パティスリーがお休みの日はディータに見つからないよう慎重に邸に持ち帰り編んだ。
一針一針心を込めて。ディータを暖めてくれるように魔法も込めて。
元々器用なシシィだったので、あっという間にマフラーは完成した。色違いのお揃いで自分の分も編めた。
秘密のプレゼントが出来上がった次の朝。
玄関扉を開けるとやはり身を切るような冷たい空気。
「今日も寒いね」
苦笑するディータに、
「あ、ディーにね、プレゼントがあるの」
少しはにかみながら上目遣いにディータを見上げるシシィ。そんなシシィの可愛さに朝からノックダウンされているディータだったが、
「ん? 何?」
それでもシシィが後ろ手に隠し持っているものに興味を示す。
「あのね、マフラーを編んだの。私のわがままに付き合ってくれているディーが寒くないように」
はい、と言ってシシィが目の前に差し出すのは昨日編み上がったばかりのマフラー。
初めは驚きで瞠目したままのディータだったが、ふわりとマフラーを首にかけられるとハッと自分に戻り、見る見るうちに破顔すると、
「うわ、めっちゃうれしい! これ、シシィが編んだの?」
柔らかい手触りのマフラーの端を手に取り、まじまじと見ている。
「あ、あんまり見ないでね。初めてだしそんなに上手じゃないから。マダムとルビーに教わって編んだの。ディーに内緒で編むの大変だったんだから」
クスクスと笑うシシィ。
「これがディーので、これが私の。ふふ、私もお揃いで編んじゃったわ。練習がてらにね」
そう言ってもう一本のマフラーを自分の首に巻くシシィ。
先程ディータに渡したのは、ディータの瞳と同じ、落ち着いた色合いのアメジストのマフラー。そして自分用に編んだのは、淡い水色。
いつもシックな黒いコートを着ているディータに合うよう、落ち着いた色合いを選んだのだが。
「ああ、でも僕はそっちの、シシィの方が欲しいなぁ」
綺麗なアメジストを微笑みで細めて、シシィのマフラーを手に取るディータ。
「あら、でもこれは練習用に編んだものだから、さらに上手く編めてないの」
困惑するように柳眉を下げるシシィだが、
「シシィが編んでくれたんだからどっちも同じだし、全然上手だよ? でもシシィの瞳と同じ色を着けてたら、いつでも一緒に居る気がしてさ」
ニッコリ笑って言うディータ。
言われた意味を咀嚼して、頬を染めるシシィ。
「もう、ディーったら!」
「ね。じゃあ交換」
シシィの首に巻かれたのはアメジストのマフラー。代わってディータの首に巻きつけられたのはシシィの色。
シシィのコートは白だったので、アメジストでもよく似合った。ディータも黒なので色は選ばない。
「うん、暖かいね。ありがとう、シシィ」
「いいえ。いつも私のわがままに付き合ってくださってありがとう、ディー」
そう言って微笑み合うシシィとディータ。
それを温かい目で見守る使用人たち。
今日もディアモンドは平和で幸せな一日を送るのだろう。
今日もありがとうございました(*^-^*)
ほっこり温かくなっていただけたら、幸い。げはっ、甘っ! と思われたら、笑いw
ま、いつもの甘々な二人でした!
メリークリスマス!




