9話 ママなのみゃ……?
*** 登場人物 ***
・ハチ
未来から来た小さな猫。賢いが、小さな体が行動に追いつかない。わりとドジ。
・七彩七海→ナナ
護衛をしているピンク髪のギャル。
弓月の内縁の妻。籍は入れていない。
・ベル→ベル(本名は明かせない)
唯一の現代人。
"書き手"というレア能力から命を狙われやすい。
長い金髪。恭介の婚約者。
・来栖恭介→キョウ
医者。茶髪。ベルの婚約者。
たまにぽんこつになるが冴えている。
・百目鬼弓月→ユヅ
リーダー兼護衛。少し長めの黒髪を結んでいる。
七海の内縁の旦那。妖艶で顔が良い。
・服部半蔵→ハンゾー
過去人。護衛をしているが、畑の世話とかもするらしい。
顔が良すぎるため、両目をみたら誰もがめろめろになる。
灰色の髪で、前髪を片方伸ばして片目を隠している。
・若王子王子→おうじ
七海の兄でこの中の年長者。猫耳のニット帽を常にかぶっている。
努力型の天才で、パソコンやスマホでハッキングなどできる。
・黒羽フリル→ふりる
上品なお姉様で美人。ゴスロリの服を着ている。
紫の髪をくるくる巻いている。
元々、沖田と同じ組織に属してベル達と敵対していたらしい。
・沖田総司→そーちゃん
過去人。とある事情で沖田蒼と名乗っている。メンバーの中で一番若い。背が高く麗しい。
水色の髪をサイドテールに結んでいる。
ママのこえ、きこえる、みぃ……?
……ゆめ、みゃ?
みゃみゃ! ゆめじゃない、みゃ!
みゃあは、こえがするところ、はしった、みゃ!
「ハチ! そんなに慌てたら危ないぞ!」
そーちゃん! みゃあは、いそがなきゃいけない、みぃっ!
フリルが、だっこ、した、みゃ!
おろして、みゃあっ! おろして、みゃっ!
「ハチ様、落ち着いてくださいですのよ。はいですの」
スマホのまえに、そーちゃんがくっしょんをおいて、ふりるがみゃあをそのうえに、そっとおろしてくれた、みゃ。
みゃみゃっ! スマホに、みゃあのママ、うつってる、みゃあ〜〜!
『みゃあ⁈ ママっ! ママーっ! ほんとうに、みゃあの、ママなのみゃっ?』
みゃあは、みゃあみゃあなくしかできない、み。でも、ママには、つうじる、みゃ!
『八号! 生きていたのね! 良かった。ママよ。ゼロ号よ! 今、ママは安全なところにいるの。八号は大丈夫なの?』
ママもみゃーみゃーこたえる、みゃ。でも、ねこどうし、つたわるみゃあ!
「みゃあは、いちじてきに、かくまってもらってる、みゃ! いまは、あんぜん、み。これから、みゃあをたすけてくれたひとが、どうぶつじょうれいを、やぶって、なかまにいれてくれる、やくそくしてくれた、みゃあ!」
『そうなの……よかった。私の子どもで無事だったのは八号だけだったから。八号……良かった。体に傷もないわね、痩せていないし……生き生きとしていて、ママとっても嬉しい……』
「ママっ! みゃあも、ママがげんきで、うれしい、みゃうっ! そうみゃ! みゃあたちのおはなし、みゃあのなかまのみんなに、きかせたい、みゃ! ママ、そこがあんぜんなら、おはなし、して、みゃ!」
『わかったわ!』
ママ、にんげんのことば、はなしてくれたみゃ!
「ママ! たのんだみゃあっ!」
みゃあは、おてて、ぴっ! したみゃ!
ママも、おてて、ぴっ! しておへんじしたみゃ!
***
わかったわ、って猫が喋った!
さっきまでハチとみゃあみゃあ喋ってたのになんでえ⁈
『あら〜だめよサクちゃん、しゃべったりしたら〜。過去人に聞かれたら大変よ?』
『こ、これには訳がありまして……』
『あらそう、じゃあしょうがないわね〜』
右山さん普通に話してる!
は、ハチもしゃべるのかな……?
じっとハチを見てると、スマホに文字を打ち込んでくれた。【みゃあはしゃべれないみゃあ……だからこれで、おしゃべり、する、みぃ】
ハチに心読まれてた! あ、私だけじゃない!
ユヅさんもキョウもみんな期待した、よね? あ、安心した……!
『サクちゃんは特別なの〜。猫の声を人間の声に変える装置が埋め込まれてあるのよ〜。話が通じて楽しいわ。賢いからどんな話題でも話せていいのよ〜。ね? サクちゃん』
右山さんが喉元を指さすと、ポコっとしている部分があった。私たちは残酷な現実にショックを受ける。
右山さんったら普通に受け入れてる! じゃなくて! ハチと似てるこの猫って――。
『あの、奥様。画面の向こうにいるのは……。私の娘なんです。お話させてくれますか?』
え⁈ ハチのお母さん⁈ それで起きてきて、必死に話しかけてたんだ。すごく「みゃみゃ」って鳴いてたもんね!
『あら。サクちゃんがよく話してたあの子? 良かったじゃな〜い! まさか、同じ時間軸にいるなんてね〜! でも小さい声で話すのよ〜? それじゃあ私は席を外すわね。念の為盗聴器が無いか探してくるわ〜。スマホは好きに使っていいわよ〜! じゃ、一旦失礼するわ〜』
『ありがとうございます。奥様』
立ち上がってペコっとする猫に、右山さんは撫でながら『サクちゃんと話してあげて〜』と行って去ってしまった。
て、適当だなぁ。ってフリルさんが「何故姉様がハチ様のお母様を……?」って言いながら混乱して頭抱えてる! 沖田さんがいないから私が"フリルさんよしよし良いコ"をしに行こう!
『改めまして、皆様初めまして。八号の母親の桜と申します。あの……八号が過去の――この時間軸に居て大丈夫なんでしょうか?』
答えたのはユヅ先輩だ。嬉しくて嬉しくてぴょんぴょんして興奮してるハチに「良かったな」と言って額をとんとん、と触った。
そりゃあママに会えて嬉しいよね……良かったね! ハチ! 私、泣いちゃいそうだよ……!
「はじめまして、桜さん。僕は百目鬼弓月と申します。ハチと同じく『ユヅ』とお呼び下さい。その、八号……というのはこの子の名前なんですか?」
「識別番号です。その子に名前はありませんでした。ハチ……? って何ですか?」
う、そ、ナナ、そこから名前をつけたの?
違う、よね……?
ナナはさーっと青ざめてる。識別番号なんて、びっくりしちゃうよね……。本当に実験台だったのが実感させられるし……。
しかも、八号って!
「そっその! ハチっち、さくらっち、ごめんっスっ! ウチ、『ナナ』ってあだ名なんス。識別番号があるって知らなくて、しかも"八号"って知らなかったんスよ……。だから、ウチは……ウチが『ナナ』だから、このコに『ハチ』って名前をつけたいって思ったんス。八は縁起が良いっスし……。ハチっちにも良いっスかっ? て聞いたっスよ。でも、知らなかったじゃすまないっスようう……ごめんっスううう〜〜」
だ、だよね。びっくりした。まさかこんな偶然があるなんて思わないよね――。
ハチは、ナナと桜さんを交互に見ながら必死に訴えるようにいっぱい鳴いた。
「みゃ! みゃう! み! みぃ! みゃみゃ。みゃあう〜〜! み! み! みゅんみゃみゃみゃうみゃああ!」
言いたいことがわかる気がする! ありがとうハチ〜〜〜!
『八号――いえ、ハチはあなたから頂いた名前を大切にしています。理由も嬉しくて、名前を呼ばれるたびに幸せを感じるそうです。『八号』だった過去も、怖く無くなってきたそうですよ。私からもお礼を伝えさせてください』
ホッとしたナナは、「はう〜ハチっち〜〜」と良いながら、ハチを撫でていたユヅさんからハチを取り上げて頬を寄せた。ハチが頬伝う涙をぺろぺろ舐めてる。優しい・可愛い・えらいっ!
『まあ、この子がこんなに人間に寄り沿っているのなんて見たことがないです!』
ナナは、今度は「さくらっち〜〜〜」と泣き出してスマホの画面にぶつかりそうになってしまった。ハチがおててでナナの頬をむにむにして、「みゃ、みゃう!」と励ましてる。
ユヅさんが「折角お母様がいるんだ! ハチを離してやれ!」と言ってナナから引き剥がして、スマホの近くにクッションを置き直して、座らせてあげる。ハチは、ナナを心配して振り返ってたけど、キョウが何か耳打ちしてた。真剣な顔になって走って行って「もしもしー? 最強の七彩七海っスけど」って電話をかけてた。
今! 良い場面だから! ナナあっ! 電話ギャグいらないから! てか気になる。何の電話?
あっ、ハチのくしゅくしゅの耳がピン! ってなってる! 安心したみたいだね。ハチ、良かったー!
私はフリルさんを椅子に座らせて、背中をさすっていいこいいこしてから、ハチに「大丈夫大丈夫」って言って撫でた。ハチも「み!」と鳴いて私の手を小さいおててで、とんとんしてくれた。は、ハチ〜〜〜! きゅん。
……私、なでなでいっぱいしてる気がする! でもハチが励ましてくれたからプラマイゼロ!
「桜さんは無事に過ごしているようですね。僕達もあなたのことを知ることができて嬉しいです。あの、相談したいことがあるのですが――」
『私もです。順を追って説明しますね。まずは、ハチがどうやってあなた達の所に来たのか教えてくださいますか?』
ユヅ先輩は事の経緯を説明すると、桜さんは「みゃふふ」と笑ってた。「くっついて行くなんてこの子らしいです」だって。かわいい……! お上品な猫だなー!
一方、桜さんは実験台として、まだ研究所所属になってるらしい。過去の綺麗な空気を吸って、人間と穏やかに過ごすことで――患っている病を治して、寿命を伸ばすことができるのではないと考えたらしい。そこでたまたま桜さんを引き受けたのが、右山さんだったんだって。
過去のってか私たちが今いる時代って、空気とか食べ物が良いんだって。そーゆーデータがあるんだとか。
で、桜さんは健康になり次第、未来へ帰還の予定だったみたい。
まとめるとこんな感じっぽい。
でも、右山さんは、桜さんを返すつもりなんて一ミリもないみたいで、研究所が設置したであろう壊した盗聴器をたくさん持ってきて見せた。……見つけるのも設置されてるのも全部やばい!
『こーんなにかわいいサクちゃんを私が帰すワケないじゃな〜い? あなた達もそうなんでしょ〜? サクちゃんは天才だから、研究所を貶める計画を用意してるの。いつかあなた達に頼ろうかと思ってたけれど、今やっちゃおうかしら〜? 他の猫達も犠牲になってるらしいから許せないのよね〜。あークソッ! ムカつくわ〜!』
私たちは引きつつもキョウが答える。
「俺達は今、ハチのことで脅されてるんです。王子くんがプランを練っているところでしたが――桜さんの計画と組み合わせたら上手く行くかもしれません。今、彼を連れて来ます!」
そうだ、服部さんと沖田さんは? 怪しい車は? あのすごい電話かけてたナナは?
うわあ同時に色々進行しててわかんないよおーっ!
キョウがどたばた階段を降りて来て、王子くんを椅子に座らせた。スマホにうつるように、お行儀が悪いけど頭をテーブルに押し付けてる。
キョウ〜〜〜! ひどくない⁈
「やあ、サクちゃん、だね? はじめまして……☆」
『あの、お医者様を呼んだ方が』
「医者は俺です。王子くんは頭を使いすぎて疲れてまして……桜さん、治療をしながら話させてください。行儀が悪くてすみません」
桜さんが心配してスマホの画面に肉球を押し付けて王子くんを見てる。か、かわいいっ!
「みゃみゃ、みゃうみゃう! み、みぃ、みゃう!」
ハチがキョウと桜さんを交互に見てキョウの方に手をぴっ! と挙げた。うんうん、ありがとうね……なんか私、ハチの伝えたいことがわかってきたぞ!
『あら、優秀なお医者様なのね。ハチのこともお世話になりました』
「とんでもないです。ハチにはもう、俺達がお世話になってますから。な、ハチ。いつもさんきゅ」
キョウが王子くんを放ってハチを頭から背中まで撫でると、それに合わせてハチも気持ち良さそうにのびーっとした。きゃああっ! 長くなった!
『にゃふふっハチったら』
桜さん嬉しそう。ママの顔してる! 見守るような、優しい瞳だ……。
私が癒されていると、廊下でどさり、と音がした。私とフリルさんだけが反応した。ユヅさんもキョウも王子くんも無視⁈
廊下から服部さんと沖田さんがひょこっと顔を出すと、電話を終えたらしいナナはポケットから手錠を取り出して廊下に走って行った。
み、見えない! 物騒な気配がするっ!
き、き、き。気になる!
『八号……ハチ……幸せそうで良かった……』
「みゃ……みぃ……」
猫に涙は流れない。けど人間は流れる。
右山さんは桜さんを撫でながら後ろを向いた。
私とフリルさんはハンカチで目を覆った。
二人とも、手を合わせるようにスマホにペタっておててを合わせてる。良かったね! 全部落ち着いたら画面越しじゃなくて絶対に会わせてあげよう!
「早くこの二人を会わせてあげたいわ〜。サクちゃんはずっと自分の娘のことを話してたのよ。で、これからどうするの?」
ナナは悪い顔をして、手錠と縄で縛った敵六人を沖田さんと服部さんと一緒に連れて来た。
うわ、戦ってたんだ……。見事に傷つけず仕留めたみたいで、服部さんを見つめて目をハートにしてる。"アレ"を使ったんだ……!
説明しよう! 服部さんは顔が良すぎるので、両目を見せて声をかけると大体の人がメロメロになるのである!
だから片方の前髪だけ伸ばして隠してるんだよっ!
「アニキ。まずはこいつらから情報を引き出すっス!」
ナナは捉えた敵の首根っこを掴んで、ドヤ顔して私たちに見せた。
「みゃあ……みゃあ……」
サクちゃんがもがくように手をバタバタさせてる。また悪夢かしら。
――悪い夢から醒ましてあげないと。
抱き上げて胸元に寄せると、サクちゃんは「ふにゃああ……」と欠伸をした。
「サクちゃん、あなたうなされていたわよ〜。つい起こしちゃったわ」
「奥様……夜中にごめんなさい」
「いいのよ〜寝れなかったから。娘さんの夢かしら〜?」
「はい……八号の……」
「サクちゃんは賢いから、あなたの娘も賢いんでしょ? 上手くやってるわよ。信じてあげなさい」
「奥様の言う通り、八号は賢い子です。でも、意思が強い分、嫌な実験になると噛みついたりして――しょっちゅう叩かれたり、ご飯を抜きにされたりしていたんです」
「あーら、やるじゃない。逆に言うことも聞いて研究者のご機嫌も取れるんじゃないの?」
サクちゃんは、ぐしゃぐしゃになった耳を開いて、瞳もぱあっと大きく開いた。かわいいわね〜。
「そ、その考えはありませんでした」
サクちゃんはホッとすると、力を抜いて私の横に転がってから丸まった。それから私の顔に頬擦りする。最近こうやって甘えてくれるのよ〜。
「私ならそうするもの〜。だから安心してもいいんじゃないかしら〜? そうねえ……サクちゃん、『言霊』って知ってるわね?」
「はい。言葉通りの現実が訪れるとされている認識であっていますか?」
「まあそんな感じね。『会えますように』って唱えてみたらどうかしら〜? 私も毎日『お金が欲しい』って言ったら結婚詐欺が出来て裕福な暮らしを送ってるワケだしね〜」
「あの……奥様がやってみた通り『言霊』を信じてみます」
サクちゃんは私が結婚詐欺したことも知ってるけど、なあんの詮索もしない。でもきっと経緯も全部この子は知っているわあ。おりこうさんね。
「是非叶えましょう。私もサクちゃんの娘を見てみたいわ〜」
「八号は甘えん坊ですが、愛嬌のある子ですよ」
「サクちゃんに似てるなら可愛いに決まってるじゃない。さあ、寝ましょうか。ちゃ〜んと唱えるのよ〜」
「はい。奥様。『会えますように』」
私はサクちゃんに布団をかけて、体に埋め込まれたたくさんの機器に触らないように気をつけて触れた。
こんな可愛い子にいいように機械を埋め込みまくりやがって。許さないわ。
「おやすみなさい、サクちゃん。『会えますように』」
サクちゃん、幸せにしてあげるから待っていて。




