8話 みゃあは、ゆめのなか、いる、みぃ?
みゃあはねむってしまったみゃ……。じこしょうかい、ききたかった、みぃ。
ふりる、みゃあ! なるほど、みゃう。みんな、じじょうが、ある、みぃ……。
わかったみゃ。みゃあも、いろいろ、じじょう、ある、みゃ!
ふりる、きにしないでほしい、みゃあ!
みゃあは、ぴっ! てをあげて、おへんじ、した、みゃ!
みゃみゃ? へん、みゃ。おへんじ、ない、みゃ……。
この、かんかく、みゃあはしってる、みゃ。
――がくしゅうそうち、みゃあ。
そーちゃんも、はんぞーも、おへんじ、かえってこなかった、みゃ。
これで、おわりみゃう?
みぃっ? こんどは、キョウが、でてきた、みゃ。
「ごめんな、ハチ。お前、たくさん頑張ったから眠っちゃったんだよ。それで、学習装置を使わせてもらった。お前の性格のことだから、みんなの自己紹介を最後まで聞きたかったろ?」
キョウには、みゃあのこと、バレバレみゃあ。
みゃあは、みんなのじこしょうかい、ききたかった、みゃ。ありがとうみゃあ!
でも、みゃあは、ねんねしちゃったじぶん、わるいこ、しようとして、おかお、たたいた、みぃ。
みゃむむん。ゆめのなか、じぶんに、ばつ、あたえられない、み。
「お前は素晴らしい頭脳を持っている。それは仲間になった俺達も誇らしいことだ。だが、まだお前は、体が脳についていかないのは……わかってんだろ? だから致し方ないんだ。――自分を責めるなよ。もし責めたら……俺も、当然みんなが悲しむ。お前、自分の顔叩こうとしてただろ。今度からそれはやめてな」
みゃ……そう、みぃ。みゃあのからだ、なかなかおおきく、ならない、しっぱいさく、らしい、みゃ。
キョウ、みんな、ふしぎ、みゃ。
みゃあを、みゃあが、たたくだけなのに、かなしい、みゃ?
わからない、みゃう……。
こーゆーときは、おきかえて、かんがえる、みゃあ!
ななが、じぶんのこと、たたいてた、と、かてい、するみゃ。
か、か、かなしいみゃあ〜〜〜〜〜! なな、やめて、みゃーっ!
こんなきもち、させないみぃ!
みゃあ、わかった、みゃあ!
みゃあ、じぶんに、ばつ、あたえるの、やめるみゃ!
「それに、猫の寝顔はベル達の大好物だ。今はみんなが微笑んで見守ってるぞ。……だから、まだ安心して休んでほしい。俺もみんなも傍にいるから安心して眠ってくれ」
みゃあのねんねのおかお、すき、みゃ?
てれてれ……みゃうみゃう。
黒羽フリル、沖田総司じゃなくて、いまは、沖田蒼、服部半蔵――みんなのこと、わかったみぃ!
あたまのなかで、ふくしゅう、してみたみゃ。
みゃあのなかま、こころづよい、み。
みゃあがなかまになれて、うれしい、みぃ。
みゃうう……みゃあ、とってもねむい、みゃ……このまま、キョウのいうとおり、ねんねのまま、みゃ。
***
「きゃっ! また手を挙げてる!」
さっきからハチは律儀に手を挙げて、「みゃ」に至らないふにゃふにゃの言葉を、もごもご言ってる。その度にベルもみんなも「かわいい」と喜んでた。計画を練っている王子くんとユヅ先輩以外、全員がハチの様子を見ていた。
……かわいいもんな。俺も顔が緩んじまう。
ベルのハイテンションとは違って、動画撮影を終えて学習装置で自分の自己紹介を見てもらっている三人の空気は重くて、例えるなら暗い青だった。
「動画で撮った自己紹介を見られていると思うと、ハチ様でも緊張しますのよ……」
「拙者も撮影が恥ずかしかったでござる。今ハチ殿が見てるというのも恥ずかしいでござるよ」
「わかります、フリル姉さん、半蔵兄さん。自分はちゃんと伝えられたでしょうか。ハチは賢いから、自分のこと……」
「それならワタクシだって。はあ、"黒の書き手"だった過去なんて言いたくありませんでしたのよ」
フリルさんと沖田さんは元々敵だった。フリルさんは"黒の書き手"だったことも、ハチに隠さずに話した。沖田さんが敵対してたことも、だ。
今後、ハチだけ知らなかった――なんてことがあったら、疎外感を感じそうだからな。
ハチは繊細だ。賢いし、何かあれば見抜くだろ。お、また手を挙げた。かわいいやつめ。
ナナが沖田さんに登って顔を出す。なにやってんだ! 人を登るなよ! 沖田さんはナナに口出しできねえんだから注意もできねえだろ!
「大丈夫っス! ハチっちは気にしないっスよ」
「ほう。毎回眠るハチを起こしていた七海が言うと説得力があるな」
うわ、すげぇ嫌味。ユヅ先輩……よく夫婦やってられるな。ま、ナナも心根はいーやつなんだけど。
「えへへっス」
ナナが舌を出して笑う。そうじゃねえだろ!
幸せな頭してんな!
「ナナ、あの、あのね、ユヅさん怒ってるよ」
ユヅ先輩は「嫌味も通じないのかお前は!」と言ってナナをぶん投げた。ナナは何事もなかったかのように着地して、今度は「ユヅパイセン! 投げるのひどいっス!」と抗議する。
ナナにはあれくらいのことは大丈夫だ。
ナナにはあれくらいのことよりもっと躾が必要だと思うが、惚れた弱みだろうな。ユヅ先輩はナナに厳しくできないんだろ。ったく。
堪忍袋が爆発したのか、追加で罰が下った。「沖田さん、『アレ』を頼む」とお願いしてた。おい、わりとマジ切れじゃねーか。
沖田さんを中心に、ナナとフリルさんがナナにかかっていく。沖田さんがかろうじてナナを抑えて、ベルとフリルさんがツインテールを三つ編みにした。
――ツインテールにこだわってるナナへの『お叱り』だそうだ。甘いよなぁ。
ユヅ先輩が「七海のツインテールはかわいいな」って昔一回言っただけで相当こだわってるらしい。髪型を変えられるのがすげえ嫌なんだと。知らねえけど。
「あにゃにゃ……三つ編みになったっス」
「ナナ、かわいいよ? なんで残念そうにしてるの? はあ、疲れたぁ。」
「かわいいですのに罰だなんて不思議ですのよ」
「ナナ姉さん! 今回も似合ってます! 力づくですいませんでした!」
「おきたっち、強くなったっスね。師匠は誇らしいっス」
俺もそろそろ注意をしておくか。ベルに負担がかかるのは困る。
「何が誇らしい、だ! ハチを起こすなよ……っまく。ナナめ。あ、みんなの戦闘能力を測らないとな」
すると、ソファから偉そうな声がか細く聞こえてきた。
「そうだよ〜〜キョウくん。オレ、プラン進められないよん。能力測ってってゆったじゃーん? 困るよお、オレ、最年長なんだからさあ」
王子くんが寝ながらヒラヒラ手を振る。オイオイ、この兄妹最悪だな。
俺は王子くんのポケットを勝手に探る。「ひゃひゃひゃキョウっ!」と暴れるけれど知らねえ!
そしてメガネケースを見つけて戦闘能力測定眼鏡をかけた。仕返しに王子くんから測ってやるぜ。
「はい、王子くん戦闘力1な」
「待って、キョウくん! オレ、オレね、設定間違ったかも!」
「合ってるよ。能力以外の武器使用可能で何人のチンピラを倒せるか、だろ? ちゃんとこのモードだぞ」
王子くんはしくしく泣いていた。
前はマイナスだったからマシだろ。
「で、ベル。戦闘力5だ」
「わーいっ! 上がってる!」
「おう。喧嘩しないように気をつけないと怖えな」
「私たち喧嘩しないじゃん! あ、キョウのも見てあげるっ」
俺はベルに眼鏡を渡した。
「キョウ、230! また強くなったね」
本当は250くらいを目指していたんだが……マジかよ。
ベルからの励ましがかえってダメージになって、俺は愕然としてハチの近くに戻った。情けなくて顔を伏せると、沖田さんの手を掴んでいたハチが、ころんころんと寝返りを打って、クッションをはみ出して俺の頭にぶつかる。
「み……」
やべ、起きた⁈
「みゅ〜〜〜〜っみゃむん……み?」
ハチはのびをしてから、欠伸をした。また歓声が上がる。「ふっ……かわいいでござる」って聞こえたぞ! 服部さんだな!
「ハチ、起きたのか? キョウ兄さんがよく休んだ方がって言っ――」
「みゃうん」
ハチはクッションにもたもたと歩いて行って、丸まった。眠いんだな。自分から寝られるようになったのは進歩だ。よしよし。俺は安堵して、ベルから眼鏡を返してもらってみんなを測定していく。
「ナナ! 1521! 成長止まらないな」
「あざっス。ウチは最強っス」
とうとうナナが人を超えてしまったか……。
「ユヅ先輩は、461!」
「嘘だろ……? 最近訓練どころじゃなかったからな……クソっ」
ユヅ先輩は伏せてしまった。ハチがころんころんと寝返りを打って、ユヅ先輩にぶつかる。
「は、ハチ……? 大丈夫か?」
「みゃん……」
「ハチ、すごい寝ぼけ方ですよ、見てください。フリル姉さん! かわいいです」
「ハチ様は敏感な方ですから、勝手に悲しい方に寄り添うようになってしまってるのかもしれませんですのよ。……改造されているなら、尚更ですわね。姉様なんて、"心に寄り添う猫"というのを昔飼ってましたのよ。寝ていても姉様が泣くと、起きて飛んでいくのですわ……」
「似たケースだな。ハチに備えられててもおかしくない」
「はいですの。あ、あの、ベル様。ワタクシの戦闘能力はいくつですの?」
フリルさんは意外とノリノリでベルに訊いていた。
「フリルさん――えっ? 12⁈ すごいよっ!」
「昔は少々銃を使ってましたの。少しなら護身術も使えますし、だからかもしれませんわね」
「フリルちゃんオレより強いよ〜〜……」
ええい、いちいち反応して面倒だな!
「どんどんいくぞー。メモはしてるから安心してな。沖田さん、927! 服部さん、800!」
「すごいでござる! 沖田殿!」
「半蔵兄さんの稽古が的確だったんです。ありがとうございました」
つ、つええ。新撰組は流石だな。
しくしく泣いていた王子くんが、いきなり立ち上がって――倒れた。服部さんが駆け寄って、ソファに戻そうとしたが拒んだ。
「ハンゾーくん、プランが進んだ。これから来る人を迎えて! 電話かもしれないし、直接来るかもしれない! オレたちは真実を知ってしまう! ハチちゃんだけじゃない、これは、大きな問題だったんだ! オレは未来から受け取ったメッセージを過去に転送する。だから、頼むから……部屋に連れてってえ……」
「キョウ殿……」
服部さんがどうしたら良いかと不安そうに俺を見た。困った顔もすげー美形だな……じゃなくて!
「これは任務外だが、しゃーないな。一人で行動は危険だから服部さんもついていてくれ。ユヅ先輩に代わって武器の使用を許可する!」
落ち込んでいたユヅ先輩は顔を上げた。俺にアイコンタクトで「すまない」と伝える。いいですよ、気にしなくていいですって。
「わかったでござる!」
服部さんは王子くんを背負って部屋に駆け込んだ。
ユヅ先輩は切り替えたみたいで、みんなに指示を出した。
「みんな! 警戒レベルを上げる! 怪しい者がいたら即攻撃していい。ベル、指示をしたらすぐに時間停止だ。七海、今から屋敷内と庭を一分で見てきてくれ。すまないが能力を使ってほしい」
「わかったっス! うーーーーにゃーーーーっ!」
ナナは三度瞬きをして――目の色が変わった。
俺達の見えない速度で屋敷内を走る。音が聞こえないが、曲がりにくい角のあたり、戸を開け閉めする音でナナの位置がわかる。
玄関の扉が閉まる。庭に出ていったのか。
すぐに扉が開いて「屋敷の右一キロ方向に怪しい車があったっス! 乗車人数は六人で黒い服を着てたっス。屋敷・庭ともに誰もいなかったっスよ。怪しい車は調べるっスか?」と声が飛んできた。
その後――ユヅさんの電話が鳴った。
「服部さん、七海の代わりに怪しい車に向かってくれ。少しでも異変を感じたら捉えてほしい。沖田さんは2階の右から様子を見て必要なら加勢してほしい」
「はいでござる!」
「はい、ユヅ兄さん!」
二人が配置につく前に、ユヅ先輩はスマホをスピーカーにして応答した。俺はスマホを立ち上げて録音を開始した。
「もしもし――右山さん? 百目鬼です」
なんだ、右山さんかよ……。いやでもこの人、結構情報持ってるんだよな。流石フリルさんの姉だ。
『フリルったら着信拒否してるのよ〜あなたが出てくれてよかったわ〜〜。ねぇ、猫を飼ったのよ。とても優秀でかわいいからフリルに見せようと思ったの。フリルはいるかしら?』
ユヅ先輩に手を合わせられて、渋々フリルさんが無言で『いますのよ』とむっすーと答えると、電話の奥から、『みゃあ、み、みゃう?』と聞こえてきた。ハチの鳴き声と似ている――?
『良い子ねサクちゃん。フリルに挨拶してくれたのかしら〜〜えらいわぁ。ビデオ通話にしてくれる? なんとフリルの大好きなピンクの未来猫なのよ! こっちじゃ見れないでしょ?』
画面が切り替わった。ハチそっくりだ。「みゃ!」と手を挙げて挨拶している。仕草も全く同じだ……違いは体が一回り大きいくらいだな。
「みゃ……?」
ハチが耳をぴくぴくとさせて、一旦固まる。そして、勢い良く起きると、ユヅ先輩のスマホに近づいた。
「みゃっ! みゃあ! みゃみゃ!」
『みゃあ! みゃ! みゃむっみゃー!』
ハチの母親、か――⁈
俺は、戦闘能力計測眼鏡をかけているのを忘れていた。ハチの戦闘力が表示される。目を疑った。
……ハチの戦闘力は100ぴったりだった。
ナナはサラサラのツインテールにただならぬこだわりを持っています。他の髪型には絶対しません。
しかし、お風呂ではお団子にしているようで、この姿をユヅさんには見せたくないそうですよ。




