13話 ほかにもなかま、いるみゃ⁈
*** 登場人物 ***
・ハチ
未来から来た小さな猫。賢いが、小さな体が行動に追いつかない。わりとドジ。
・七彩七海→ナナ
護衛をしているピンク髪のギャル。
弓月の内縁の妻。籍は入れていない。
・ベル→ベル(本名は明かせない)
唯一の現代人。
"書き手"というレア能力から命を狙われやすい。
長い金髪。恭介の婚約者。
・来栖恭介→キョウ
医者。茶髪。ベルの婚約者。
たまにぽんこつになるが冴えている。
・百目鬼弓月→ユヅ
リーダー兼護衛。少し長めの黒髪を結んでいる。
七海の内縁の旦那。妖艶で顔が良い。
・服部半蔵→ハンゾー
過去人。護衛をしているが、畑の世話とかもするらしい。
顔が良すぎるため、両目をみたら誰もがめろめろになる。
灰色の髪で、前髪を片方伸ばして片目を隠している。
・若王子王子→おうじ
七海の兄でこの中の年長者。猫耳のニット帽を常にかぶっている。
努力型の天才で、パソコンやスマホでハッキングなどできる。
・黒羽フリル→ふりる
上品なお姉様で美人。ゴスロリの服を着ている。
紫の髪をくるくる巻いている。
元々、沖田と同じ組織に属してベル達と敵対していたらしい。
・沖田総司→そーちゃん
過去人。とある事情で沖田蒼と名乗っている。メンバーの中で一番若い。背が高く麗しい。
水色の髪をサイドテールに結んでいる。
ナナが「ハチっちハチっち〜はう〜〜〜」とハチを両手で包み、顔をとろとろにして頬擦りしているのを――ユヅ先輩は止めた。ハチが「み! みゃっ!」とやめてやめてと抵抗してるけど、ナナが離してくれないのだ。
「七海。ハチが嫌がっているのがわからないのか! それに――お前は寝てたから知らないだろうが、今僕達は急いでいるんだ。二時間以内にハチの夢の中にベルと恭介が入る。そして、ハチが目にした手術の記憶を見て帰ってこなければいけない」
「あにゃにゃあ⁈ じゃあハチっちに鍵穴を作るんスか⁈」
ナナがびっくりした隙にユヅさんが「悪かったなハチ。七海の相手お疲れさん」と労ってスーツの内側の大きなポケットへ誘導した。
「君が入れるくらい大きいポケットだ。入れるか?」問われたハチは覗き込むと「みゃあっ」と鳴いて入ってく。おててと耳だけが出てる! 本当に深いポケットなのかも!
そんな中、沖田さんは小さく手を挙げた。
「あの、自分、鍵穴とか夢とか詳しくないんです。どういうことです?」と真剣な眼差しをユヅさんに向けていた。
ナナが「ハチっち〜〜〜〜」と涙声で言うと、トドメのユヅさんのお説教が始まったので、私が代わりに説明しようっと。
ハチ、このユヅさんの迫力大丈夫かな……。「お前は二十三にもなっていつまで自分の我儘を通すつもりなんだ!」と声が飛んでくる。いつものことだから、私たちは慣れっこなの。
「えっとね、鍵穴は、人の夢の中に入る為の入り口みたいなものなの。手術をして作るものなんだよ。でもハチはたまたまそれがあったの。それでね、えと……それで、そこから『記憶域』って呼ばれるところに"読み手"の能力を持つ人が入ることができて、記憶を見れるの。んー、この説明難しい! 沖田さん、伝わったかな?」
「えっ! じゃあ、ベル姉さんとキョウ兄さんは、ハチの記憶を直に見れるんですか!」
沖田さんが驚いてるのはあんまり見ないから新鮮! 年相応な感じ! いつもは『侍』って感じだもん。
いや、実際、『侍』なんだよね。こんなに綺麗なのに。
ナナの説教はそこまでで、そろそろ準備お願いしますよ。とユヅさんの肩を叩いたキョウが話に入ってくれる。
「そうだ。盗聴器を取る手術が難航しそうだし、ハチが熱を出しちまってな。休ませてあげたいんだ。記憶を見ている間は、ハチに眠ってもらう必要があるから、ハチも昼寝できて休める。だから、ハチの指示を受けるよりもハチが休めて尚且つ俺達が鮮明に手術を見れる手段を選んだんだ」
「提案はハチ殿からでござる。記憶を見るのは本人の承諾が必要でござるよ」
服部さんいたんだ⁈ いるけど! 気配無さすぎ!
「成程……三人ともありがとうございます」
なんとなくわかったらしい沖田さんは、「すごいな」と関心してから「その間自分にできることはありますか?」と訊いてくれた。
ようやくオペ室からノートパソコンを持って帰ってきたらしい王子くんが、よっこらしょと言ってテーブルにノートパソコンを置く。運ぶのおっそ! 体力本当に無いもんねぇ……。
ぜーはーしながら沖田さんにウィンクして、ドヤ顔で解説し始めた。ウィンクはいいってば!
「そーちゃん☆ ハチちゃんの夢を見てる間、ベルちゃんとキョウくんもおねんねしなきゃないんだ♪ だから、今、ベルちゃんが時間が止めてくれてるけど時間は動き出すの! それに、二人は無防備になっちゃうから護衛よろ〜」
「わかりました!」
通る声で返事をすると、沖田さんは席を立って「愛刀を連れてきます」と部屋に向かった。
「あの、刀までは必要ないのでは? 沖田様の負担になりますの」
フリルさんの疑問に答えたのは、ユヅさんだ。ナナのほっぺにはつねられた後が残ってて、おもちが垂れているみたいに両頬がみょーんと伸びてた。
「あにゃ……」と猫耳としっぽを出して唸ってる。困ってる時に猫耳が自然に出ちゃうみたい。ナナ猫もかーわいっ!
「いや、時間が動き出した途端、襲われる可能性も否定できない。先ほどの彼らより屈強な者が未来で雇われて、研究所からの刺客がまた送られてくるかもしれない」
「でも、お金ないんじゃないの? だから脅してお金奪うんじゃないの?」
私は思いつくままに言ってみた。
「七海とハチの件で動揺している僕達から、"書き手"のベルも誘拐できる絶好の機会は今だろう?」
そ、そうだ! 私、結構良い能力持ってるから狙われてるんだよね! 我ながら自覚無かったよううっ
「時が進むようになった時、ここが再び襲われる可能性があるでござるな」
ユヅさん、キョウ、王子くんが神妙に頷く。フリルさんは、「わっワタクシも銃で守りますわ!」と部屋へ駆け出した。意外にもフリルさんは、愛用の銃を持っていて、肉弾戦もその辺の男性一人、二人じゃ敵わない。
フリルさん……動揺してた。なのに、すぐ戦う姿勢を見せてくれて、強い人だなぁ……。
ハチは、「みゃ? みゃあ〜〜〜」と鳴いて不安そうにしてた。ユヅさんのポケットから、くしゃくしゃのお耳と、くしゅくしゅになったお顔を出した。
――ハチに心配かけちゃった……。
さっきまで怒られていたナナが、「ハチっち、ウチを見るっス」と呼びかける。謎に伸びたほっぺをみょーんと伸ばしてから、ぐにぐにって頬に擦り付けて治すと、ハチは「みゃみゃっ」と笑ったみたいに鳴いた。
ユヅさんのスーツの中のハチに向かって、「大丈夫っスよ」と言ってピースする。そのピースをハサミみたいに動かして、ハチの耳にちょきちょきって指を動かして当ててた。ハチが「みぃっ! みゃっ!」って鳴くと、ポケットから飛び出ておててでナナに猫パンチをして対抗してる。遊んでるみたいで良かった〜!
「ハチっち、ウチらはウチらの準備するっスよ」
「みゃっ!」 ハチはぴっ! と手を挙げた。
刀を持った沖田さんと、銃をスカートの内側に隠したフリルさんは、階段からハチの様子を見て微笑んでた。
***
ユヅさんが、時間がない。少々急ぐから聞いてくれ、と一気に指示をした。
ハチの夢を通して、記憶域に入るのはベルと恭介だ。二人とハチの護衛は僕と七海で担当する。
地下二階で記憶を見終わった後は、中断している手術を速やかに行う。何もなければ僕達は二人とハチの護衛を続行する。
王子くんは未来での出来事を把握して異変があったら報告を頼む。同時にシェルター内及びシェルター周辺のカメラをハッキングして警戒をしてくれ。
戦闘が起きた場合、指揮は僕が担当するが、警戒時及び非戦闘員への指示は早い判断力や洞察力のあるフリルさんが王子くんの護衛を兼ねて務めてくれ。
沖田さんはシェルター内で警戒。違和感があればすぐ報告してほしい。なんでもいいぞ。服部さんは外で気配を消しながら警戒態勢で臨んでくれ。
襲われた場合、二人は合流して敵を片付けてくれ。銃も刀も使って良い。人員が足りなかったら僕から"彼ら"を送る。あまりにも状況が厳しい場合は七海が行くから安心してくれ。
七海が来た場合はベルと恭介の護衛に回ってほしい。七海は味方が近くにいると本気を出せないから気をつけて退避するように。
「以上、命は奪わない。僕達のルールを必ず守るように。各自、持ち場へ移動!」という声を聞くと、飛び出すようにそれぞれ移動した。
ハチが「みゃあーっ!」と気合を入れるように鳴いて、全員が振り向く。緊張感が緩んで、フリルさんなんて「くすくす」って笑ってる。
キョウが「これから寝るんだから落ち着け」と注意した。
「もーっ! いいでしょ? 過保護なんだから。ごめんねハチ。キョウったら心配性なの」
ハチはクッションの上にナナの毛布を敷いて、その中でぬくぬくしてもらってるの。これから眠るからね。あったかくしてリラックス作戦! 私が抱っこして移動してるんだあ。
「みゃっ……みぃ?」
えっそうなの? って言ってるんだ! だんだん、ハチの言いたいことが細かいことまでわかってきた! ハチは首を傾げて、疑うようにじ〜っと私を見つめてる。耳もぴこぴこしてる。
「嘘じゃないよ、本当だよ。キョウは猫ちゃん大好きなの! しかも、ハチみたいにお話できる猫ちゃんだったら尚更嬉しいと思うな。ねー、キョウ?」
前を歩くキョウが「ベル? あのなぁ……」と言葉を濁してから「ま、そーだ。説教で怖い思いさせてたらごめんな」と言ってハチをとん、とつついた。
ハチは嬉しそうに「みゃあっ!」と鳴いて、耳とぴーんとして、しっぽをぷりぷり振って、キョウの背中にぺたっとくっついちゃった。
ありゃりゃ、かわいい。ナナにもこうやってくっついてたなぁ。
「だから落ち着けって、な?」
「みゃあう、みゃ、みゃみぃみゃあみゃみゃみゃあうっ」
抗議されつつ私がそっとハチをキョウから剥がして、「ハチ〜っここにいてね」と言ってぽふっと毛布の上に下ろす。ふう……。小さい子どもちゃんみたい。って! 子猫だから当たり前かあっ!
「逆にテンションが上がってるぞ?」
「ハチっち嬉しそうっス!」
「キョウこそ落ち着いたらどう?」
「うるせえっ」
顔を真っ赤にして、キョウは早足で地下への階段を先に降りていった。
「あの態度は照れてる時の恭介だ。覚えておけ」
ユヅさんがハチに教えると、「みゃあ!」と嬉しそうにしっぽをぴたんぴたんしながら返事をした。
しっぽかわいい……!
ハチ、全部かわいい……!
***
私たちには、『うさぎ仮面』というヒーロー、もとい手伝ってくれる人、共に戦ってくれる人がいるの。うさぎのお面をつけていて、お揃いのジャージを着てるんだ。未来人もいれば現代人もいるらしくて、事情があるけれど働きたい人がシェルターの離れみたいなところに独身寮もあるの。普通に一軒家やアパート、社宅に住んでいる人もいるよ!
顔は見たことがないけれど、レッドさん、ブルーさんみたいに呼び名に色がついている人は、特に"しごでき"なんだって! 緊急時に駆けつけてもらったり、先に現場に行ってもらうこともあるの。
地下二階には、常駐のうさぎ仮面さん五人が来てくれていた。お布団とか色々準備してくれてたみたい。あっハチのおもちゃもある! なぜかニンジンのぬいぐるみだ! うさぎ繋がりで選んだのかな?
でも、うさぎ仮面さんを見たハチが「みゃ⁈」って鳴いて毛布の中に潜り込んじゃった!
そりゃ、ジャージにお面だもんね……。私も最初びっくりしたもん。
「あのね、私たちのお手伝いとか、色んなことを支えてくれてる『うさぎ仮面さん』なの。お布団の用意ありがとうございました! あっ、ハチ、見て見て、ハチのちっちゃいお布団ある〜」
キョウは「おっ」と言って注目してた。
「こりゃいいな。人間用の布団の小さいバージョンみたいだ。ハチ、うさぎ仮面さん達は優しいぞ。お前ならわかるだろ?」
みゃむ……とハチは毛布から顔を出すと、無言で手を振ってくれてるうさぎ仮面さん達を一人一人見た。
「みゃっ」 と鳴いてぴっ! とおててを毛布から出すと、うさぎ仮面さん達が足を内股にして、かわいい、とそれぞれ指や腕でハートを作った。彼らは基本喋らないのである。でもお茶目なの!
「準備ありがとう。終わったら声をかけるから片付けを任せていいか?」
うさぎ仮面達は敬礼をすると、ハチに手を振りながら去っていった。ハチは両手を挙げて応えようとして、こてん、と後ろに倒れ――私の手がキャッチした。ハチの行動がだんだん読めてきたぞ! ん〜背中ふわふわ。
ハチ専用の布団にハチを下ろすと、ちいちゃいあんよでふみふみした。感触を確かめてるみたい! それから、くんくんして枕の匂いを嗅ぐと、枕を抱いて、「みゃっみゃっ」と鳴きながら右左にころころして機嫌良さそうに動いてた。
「うさぎ仮面の人に、布団を少し温めてもらっていたんだ。それと――枕には急いで運んでもらった桜さんの抜け毛を入れてもらったらしい」
あっそれでこんなに嬉しそうなんだ!
「ハチ、良かったね」
「ハチっち〜ウチも嬉しいっス!」
「嬉しいのはわかるけど、後な。ハチ、一緒に寝ようぜ。夢で会おうな」
キョウは枕を取り上げると、ハチは「みゃぁぁ〜」と切なそうにおててを伸ばした。キョウは「マジでごめんな、ごめん」と言ってハチの頭の上に枕を置き直した。そして、掛け布団をかけて、ハチを包むように手のひらを乗せた。
ハチは、枕を手繰り寄せて、頭を乗せるようにした。お母さんの匂いが近い方がいいもんね!
「良い子だ、良い子だ。ハチ、一緒だからな」
ハチは魔法にかかったかのように「みゃむん……」と鳴いて、どんどん力が抜けていって、目を閉じた。体がふにゃふにゃに溶けてる〜!
「みゃ……みぃ……」と寝言を言ってる。そして、やっぱりもにょもにょ器用に動いて、ハチは枕を抱っこした。鼻がヒクヒクしてる!
「キョウ兄の手マジすげーっス。ハチっち爆睡っスよ!」
「まあな。俺はユヅ先輩も寝かせられるぜ」
「マジすか!」
「本当だ。恭介のマッサージにされるとすぐ寝てしまう」
「え、いや、それってユヅさんが疲れてるだけなんじゃない?」
「――じゃあ頼んだぞ。ナナ。頼みます、ユヅ先輩……ってなんだよこの布団! あいつらッ……」
私たちも寝ようとしたら二人用の布団だったことに気がついた。うさぎ仮面さんめーっ!
「ああもう急いでるんだからこんなことしてからかわないでよおっ! キョウ! 寝るよ! 手を繋いで寝るよ! 記憶の中で逸れちゃダメだからね!」
「心の声全部漏れてるぞ……ベル……」
キョウは諦めて、しゅんとしながら白衣を脱いで、パーカーを脱いで置いてあったパジャマを手に取った。
このパジャマもうさぎ仮面さんが用意してくれたみたい。うさぎがプリントされててキョウに似合ってない! 面白い!
私には無難な無地の綿のパジャマが用意されてた。それを見たユヅさんが「確信犯だな」と言ってキョウを見て笑った。
キョウってからかわれるキャラなんだよね……。「なんで俺だけ」って言ってパジャマの中のうさぎと睨めっこしてる!
着替える時間が惜しいけど、寝つきが悪かったら記憶を見れないかもしれない――私もキョウもお互いが見えない位置に移動してさっと着替えた。
ナナが私についてきてくれて、脱いだワンピースを丁寧に畳んでくれる。お茶目だけど、実はこういうことができる大人の女性なのである。
「寝るぞ!」
「うん!」
キョウは私の手をガッチリ握った。ガッチリすぎる!
「寝るとは思えない気合いの入り方だな」
「寝れるんスか?」
ユヅさんとナナが座って私たちを覗き込む。
「いや、眠剤を打つ。ベル、一瞬注射我慢な」
私は注射が怖いのである!
注射器が見えない! どこ? どこでどう刺すの?
「やだやだやだ! いたいのやだ! やだ……や……」
チクッとした感覚を感じている間も無いまま、私は気絶するように眠ったみたい。
目を開けると――私のお腹の上に、目の前に今より小さいハチがいた。
「ぴゃあっ」と鳴いてぴっ! と手を挙げるけど、こてんと転がっちゃって、私は咄嗟に片手で受け止めた。鳴き声も幼さがあって、「みゃ」が言えてない。声高い!
そのまま抱き上げたら――重さが全然無かった。
このハチは、痩せ細って、痛々しい傷痕がある。
ハチの記憶の中に来たんだ――。
〜〜うさぎ仮面の日常〜〜
うさぎ仮面達は、声が出せない者、顔に火傷がある者、致し方なく罪を犯し、前科があり顔を見せたくない者――色々な事情を抱えている者が多い。
彼らはいつも僕達のサポートをしてくれている。
ベルがうさぎ好き、ということもあり、うさぎのお面を常にして行動することになった。最初は黒のジャージに黒の帽子とマスクだったのだが、不審者すぎて却下した。
シェルター内の地下には、小さな独身寮があり、男女別に部屋があり住んでいる。リビングは共用で、彼らは仲良くいつも体を共に鍛えたりしている。
僕はチャイムを鳴らす。が、出てこない。
レッドさんが「弓月さん入ってきてください!」と大声で呼びかけた。手を離せないことが度々ある。何せ彼らの忙しさは計り知れないからな。
僕は暗証番号を入力して、「入るぞ」と言うと、
「いけいけいけ!」
「……!」
「抜かされたわっ!」
「コーナーで差をつけるべ〜!」
うさぎカート選手権が行われていた。
「弓月様こんにちは! 今手が離せないんですぅ」
「……だろうな」
「急ぎの任務ですか?」
「いや、明日は沖田さんの高校の見学があるだろう? 沖田さんは無理矢理組織を抜けたからまだ警戒を解きたくない。二人、遠くに待機してもらっているのだが両方とも男性なんだ。体調不良や緊張も考慮して、近くで待っていて欲しいと思ってな」
「誰も同行しないんですか? おりゃっ」
「白熱しているところ悪いな」
「皮肉やめてください」
「嫌味やめてください」
「……!!!」
「そう抗議しないでくれ。フリルさんが姉の代わりとして同行することになっている。ぞろぞろと校内に行くわけにはいかないだろ。現代人のうさぎ仮面で女性の方――誰か空いていないか?」
「空いてないでーす」
「今忙しいでーす」
答えたのは画面に集中しているベテランの医療班の女性達だ。彼女達はうさぎ仮面の歴が長い。しかも、一人はピンクさんだ。多少の戦闘もできる。
「レッドさん、失礼する」
「あっ! コントローラー取り上げるなんてひどい! ハラスメントです! ハラスメントです!」
「レッドさんの功績にしていいぞ」
「え〜〜〜弓月様できるんですか?」
僕は華麗なコーナリング、近道、最高のアイテム使用のタイミングを見せて一位でゴールした。
このゲームはシェルターのみんなとよくやるから練習していた。まさかここで役に立つとはな。
「弓月様すげえ!」
「負けたあっ」
「……。」
「うわーーーーーん」
「ピンクさんとピンク見習いさんは明日同行を頼んだぞ。全コースの良い練習法を伝授しよう」
「空いてまーす」
「行きます!」
「ずっずるい! 弓月様ぁ!」
「給料も出る。帰りはみんなにドーナツを買ってくるから一人二つ、売れ切れていた時用の第三希望をリストにまとめて書いていてくれ」
ブルーさんがまとめ係なのか、ブルーさんのスマホの通知音がぴこぴこと鳴る。「ちょ、また自分まとめるんスかあ! レッドさん! あんたリーダーなのに俺に押し付けないで下さいよ!」と抗議しているが、レッドさん含め全員無視している。
メッセがどんどん届いているんだな。
きっと、個人個人の希望のドーナツが書いてあるのだろう。おいおい、こういったものは団結も強く集中力もものすごいな。操作も早い……全く。
「はあ……後でリストを作成し送信します」
ブルーさんは顔を青にして僕に告げた。
「了解した。明日任務の者は、うさぎの着ぐるみを着てティッシュを配ってくれ。いつものやつで頼むよ。正式にバイトとして働きながら沖田さんの待機と警備を兼ねている」
「えー! あれ着るんですかあ」
「あつーい! バイトやだー」
二人からブーイングが飛んでくるが、仕事はきっちりこなしてくれる。
「沖田さんがうさぎの着ぐるみを見て『かわいいです』って抱きついてくると思うのだが――」
「やります」
「沖田様のためならやります!」
楽しい人達だ。
「じゃあ引き続き楽しんでくれ」
「いや、目が疲れたから次はトランプです」
「そうか。体も鍛えるように。お邪魔した」
「本当にお邪魔でした!」
「邪魔でしたー!」
睨むような視線が僕を刺す。
「おい! ドーナツ買ってこないぞ!」
笑顔の花びらがひらひら舞って僕を包んだ。
なんだこの切り替えの早さは!
「弓月様ありがとうございました」
「弓月様一生ついていきます」
「弓月様今日も顔が良いです」
「……!!!」
ったく……。息ぴったりだな!
***
――翌日。編入予定の高校の見学に行く沖田さんは、ガチガチに緊張していた。
「う、フリル姉さん……自分、その……」
「ワタクシも行きますから大丈夫ですのよ」
さっきからこの調子だ。僕は「準備できたらすぐ来てくれ」と着ぐるみ隊にメッセを送った。
そして、「そーちゃん世界一」とタスキをかけたうさぎがリビングに飛び込んできた。
「きゃあっかわいい! ねえ、沖田さん、うさちゃんだよ!」
ベルは気がつくのが早い。もう既にスマホで写真を撮っている。
「わ……!」
沖田さんに手を振るピンクさん達は、うさぎのお守りを渡して、手を広げた。
「くすくすっ……えいっ! ですわ」
フリルさんが一人に抱きつくと、沖田さんは倣ってうさぎの着ぐるみに抱きついた。
「ふかふかだ……」
うさぎは、ぽんぽんと背中を叩いて、激励してくれた。
沖田さんは名残惜しそうに離れて、綺麗に礼をした。
「お守りありがとうございます。自分……これから学校の見学なんですけど、頑張れそうです」
沖田さんは、肩の力が抜けて年相応の笑顔になっていた。




