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死神Killerー錆色の処刑人と贖罪のタルタロスー  作者: スギセン


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6話 双子③

 ギィィンッ――!!

 金属が悲鳴を上げた。


 双子トゥーマンが振るったバス停の看板は、まるで巨大な鉄槌のようにアグロへ叩きつけられる。

 アグロはハンティングナイフを横に滑らせ、その軌道をギリギリで逸らした。


 火花が散る。

 ガリッ――と石畳が削れ、看板の一部が街路を抉った。


「……っ」

 一撃でもまともに受ければ即死級。

 それを理解しているからこそ、アグロは反撃に転じられない。


 ガィンッ!

 再び振り下ろされる横薙ぎ。

 アグロは体を沈め、刃のように走る風圧を紙一重でやり過ごす。


 だが――。


 ガァンッ!!

 次の一撃が、逃げ道を塞ぐように叩き込まれた。

 看板が地面にめり込み、アグロの背後にコンクリート片が飛び散る。


「チッ、馬鹿力がっ……!」


 後退。

 さらに一歩。

 また一歩。


 気付けば、アグロの背は建物の壁際へと追い詰められていた。


『アグロ……!』


 キャシーの声が、焦りを帯びる。

 しかし、バイクの彼女にできることは少ない。

 下手をすればアグロの足を引っ張ることを理解しているからこそ、彼女は介入できずにいた。


「……ハァッ」

 双子トゥーマンが笑う。


「お、オデは……も、もう、勝ッてる」


 ゆっくりと看板を肩に担ぎ直す。

 歪んだ笑みが広がる。


「終わりだァ……!!」


 ――ブォンッ!!


 一際大きく振りかぶった一撃。

 もはや回避の余地すら潰す、決定的な殺意。


 その瞬間だった。


「……ふっ」

 アグロの口元が、わずかに歪む。


「素人が……!」

 

 アグロは右手から放出した鎖を左手との間に幾重にも束ね、さながら()()()()を紡ぎだした。


 ガギィィンッ!!


 束ねた鎖に、看板が叩き込まれる。

 ギャリギャリと金属と金属がぶつかり合い、耳を裂くような衝撃音が走った。


 だが――。


 ガリガリ――ガゴンッ。

 看板の先端が、石レンガの壁を貫いた。


「なァっ……!?」

 双子トゥーマンの動きが、一瞬止まる。

 先端が完全に食い込み、抜けない。


 その一瞬の“硬直”――アグロは見逃さなかった。

 アグロは鎖をほどきながら一気に踏み込む。


 ザシュッ!!

 ナイフが走る。


 左脇腹――。

 太もも――。

 膝裏――。


 どれも致命ではない。

 だが、動きを奪う最低限の軌道が鮮血を描いた。


「いでェッ……!?」


 双子トゥーマンの体勢が崩れる。

 アグロはそのまま間合いを抜けるように回転し、背後へ滑り込んだ。


 ジャラッ――。

 鎖が空を走る。

 それは双子トゥーマンの胴体へと巻き付いた。


「借りるぜっ!」

「うグッ!?」


 アグロは鎖を掴み、そのまま地面を蹴る。

 跳躍。

 鎖を引き寄せ、背中を蹴り上げ、双子トゥーマンを見下ろした。


 狙うは――うなじ。


「終わりだ」

 アグロの体が沈むと同時に、ナイフが振り下ろされる。


 その瞬間。


 ボグゥッ!!

 双子トゥーマンから不自然な“逆関節音”。

 瞬間、アグロの視界がガクンと跳ねた。


「――ッ!?」


 双子トゥーマンの腕が、あり得ない方向へ折れ曲がっている。

 背後――まるで関節そのものを裏返すようにして、右腕がアグロの首を掴んでいた。


 ギリリッ――!!

 破壊的な握力がアグロの首を締め上げる。


「が……ッ!」


 空中で動きが止まる。

 鎖が揺れる。

 視界が揺れる。


 そして――。


 双子トゥーマンは、ゆっくりとフードへ手をかけた。


「おでにはなァ……」


 ずるり、とフードが外れる。

 そこから現れたのは、異様にいびつな後頭部だった。


 いや、“後頭部ではなかった”。


 そこにあったのは――


 不自然な程に巨大な“胎児のような顔”。

 皮膚は薄く、血管が透け、目も口も、耳も見当たらない。


 それは、かろうじて顔のように認識できるだけで、およそ生物とは思えない異質さを放っていた。

 

「おでには、超ア、頭のいいお兄ちゃんがいるンだ」


 胎児の口らしき部分が、()()()()動く。

 

「だから、()()()()()()。 何を、ど、どうすれば、相手をこ、殺せるかって、ね、ね」


 ぐにゃり。

 双子トゥーマンの首が百八十度ねじれて、アグロと目が合った。

 その顔は、何度も叩き潰されたかのようにボコボコと歪んでいる。


「――へっ、そんなツラしてたら、顔も隠したく、なるわな」


 ミシッ――。

 アグロの軽口に、首を握る腕の力がさらに強くなった。

 首へ食い込む五本の指が、鉄枷のように締め上げる。       


「そ、それが、最期の、言葉だねェ」

「ぐうぅッ――」


 アグロの視界が揺らぎ、色褪せていく。

 肺から空気が押し出され、息ができない。


「……ッ、この……!」


 アグロは朦朧とした意識の中、ハンティングナイフを双子トゥーマン の腕に突き立てた。

 だが双子トゥーマンは、自身の腕に刺さったナイフなど意にも介さずに、ギリギリと締め上げる。


「へ、へへ……お兄ちゃん、なンでも教えてくれる。お前ハ、もウ……終わり、ダ」


 視界が暗く染まっていく。

 耳鳴りだけが大きくなり、身体から力が抜け始めた。


(……まずい)

 意識が――落ちる。


 その瞬間だった。


 ガオンッッ――!!!

 爆発のような排気音が街を揺らした。


『アグロォォォッ!!!』

 轟音と共に、鋼鉄の塊が横合いから飛び込む。


 ドゴォォォンッ――!!

 五百キロを超える車体が、双子トゥーマンの脇腹へ容赦なくえぐり込んだ。


「グガァァァッ!!?」

 双子トゥーマンの巨体が宙へ浮く。

 握られていた首が解放され、アグロは地面へ転がった。


「――ッ、ゲホッ、ガハッ……!」

 アグロは、無理矢理空気を吸い込み激しく咳き込んだ。

 空気が喉を押し広げ、肺いっぱいに溜まっていく。

 意識が途切れる寸前で、脳に酸素が行き渡る。


 一方、吹き飛ばされた双子トゥーマンは、金属看板を抱えたまま数メートル先まで転がっていた。


 しかし――。


「……ギヒぃッ」

 すぐに起き上がる。

 その濁った瞳が、横倒しになったキャシーを見据えた。


『……しまっ――』


 双子トゥーマンは躊躇なく看板を振りかぶる。

 まるで巨大な槍でも投げるように。


「ラァァァァァァッ!!」


 ブォォォンッ!!

 金属看板が空気を裂き、一直線に飛来する。


「キャシーーーッ!!」


 アグロが叫ぶ――だが、間に合わない。

 ガギィィィィンッ!!

 直後、鋭い衝撃音が響いた。


『――ッ!!』


 巨大な看板がキャシーの車体を深々と切り裂いた。

 黒い塗装が裂け、その傷口から青黒い液体が地面へ滴り落ちた。


 ポタッ――。

 ポタ、ポタ……。

 キャシーの周りに紺色の水溜まりが形成されていく。


「キャシー……!」


 アグロの瞳が大きく見開かれる。

 双子トゥーマンは、ゆっくりと笑った。


「ギ、ギヒヒ……。あ、あれ……血ィ?」


 その瞬間。


 ジャララララッ!!

 黒い鎖が双子トゥーマンへと撃ち込まれる。


 ガギンッ!!

 さらに鎖は街灯へ絡みつき、そのまま双子トゥーマンを、ギリリッと引き寄せた。


「ガァッ!?」

 街灯が大きくしなり、異形の動きが止まる。


「そこで待ってろ……!」


 アグロは叫ぶと、キャシーの元へ駆け寄った。

 膝をつき、傷口へ手を伸ばす。

 アグロの手には、青黒い体液が糸を引いた。


「キャシー、大丈夫か!?」

『……ふふ』

 弱々しく、それでも彼女は笑った。


『私なら……平気よ』

 ヘッドライトが小さく明滅する。


『それより……()()


 カコンッ。

 骸骨を模したフロントフェイス――その口がゆっくり開く。


 中から滑り出してきたのは、一丁の短筒散弾銃ソードオフ・ショットガンだった。


 アグロは無言で受け取った。

 冷たい鉄の感触が、掌へと伝わる。


()()……済みよ』

 キャシーは小さくエンジンを鳴らす。


『あんな奴……思いっきり、ぶっ飛ばしちゃって……!』

「……ああ」


 アグロは静かに立ち上がり、トレンチコートが音も無く揺れた。


 右手には、短筒散弾銃ソードオフ・ショットガン

 左手には、ハンティング・ナイフ。


 彼の瞳には、ただただ冷たい激情が宿る。


 ジャララッ――。

 鎖が両腕に、胴体に――全身に……まるで蛇のように絡み付いていく。

 もはや彼の意思とは関係なく、怒りに呼応するように鎖が無尽蔵に溢れ出していく


 錆色の死神、アグロ。

 無数の漆黒の鎖を引きずり、一切の情け容赦もなく標的を叩き潰すことから――誰が呼んだか地獄を呼ぶ者(ヘイル・キャリアー)


 ガジャリッ、ガジャリッ――。

 鎖を軋ませながら、ゆっくりと双子トゥーマンへ歩き出す。

 死神の足音だけが、静かに街へ響いていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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