表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神Killerー錆色の処刑人と贖罪のタルタロスー  作者: スギセン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/9

5話 双子②

「さあ、選べ……ドッチを生かし、ドッチを殺す? お前が、選ぶンだ」


 双子トゥーマンが、母親に迫る。

 ドス黒く、愉悦の感情に溢れた男の声が低く響く。

 

 彼の片腕には、最愛の我が子が二人、苦しそうにもがいている。

 次の瞬間、母親は崩れ落ちそうになりながら叫んだ。


「やめて……!お願い、助けて……子どもたちを返して……!子どもだけは……許して……!!」


 恐怖と絶望に歪んだ母親の顔を見て、双子トゥーマンはニタリと下卑た笑みを浮かべる。

(ああ、あ……最高、だ。この、醜い顔ォ!子どもが二人とも、シ、死んだらどんな顔をしてくレるンだろぅか?ねェ、()()()()()……!)


 双子トゥーマンは興奮気味に頭を揺らすと、懐に忍ばせていた巨大な鉈を取り出した。

 血と脂でぬらりと汚れた刀身は、母親に一瞬で最悪の未来を想起させる。


「あ……ぁ……」

 母親はサッと血の気が引いて、青白い顔で双子トゥーマンの男を見上げた。

 双子トゥーマンは、母親のその表情にブルブルッと体を震わすと、口の端を吊り上げてナタを振り上げ――。


 ガオンッッ――!!


 地響きのような排気音に、双子トゥーマンは思わず手を止めた。

 濁った瞳は、鬼気迫る勢いでこちらに向かって来るバイクと――赫怒の視線を向ける男の姿を確かに捉えていた。


 * * * 


「じゃ、じゃ、ジャマをぉぉッ――するなァッ――!!!」

 

 双子トゥーマンは吠えると、再びナタを振り上げる。

 しかし、アグロとキャシーはまだ距離があった。

 このままでは間に合わない――アグロは()()()()()()()()()()()、次の手を打っていた。


「久々に――”コイツ”の出番だ」


 アグロはキャシーの車体から身を乗り出し、掌を双子トゥーマンへ向ける。

 次の瞬間――


 ジャララララッ!!

 

 掌から黒い鎖が溢れ出した。

 蛇のようにうねりながら一直線に伸び、そのまま鉈を握る腕へと食らいつく。


 ギャリリリッ――!!

 鎖は双子トゥーマンが振り上げた腕へと正確に伸び、激しく巻きついた。


「グゥッ……!?」


 金属が軋む音と共に、鉈を振り下ろそうとした腕が空中で止まった。

 双子トゥーマンは子どもたちを放り投げると、右腕へ絡みついた鎖を掴み、全身の筋肉を膨れ上がらせる。


「グッ……ギィィィッ!!」


 灰色の腕が盛り上がる。

 しかし――鎖は微動だにしない。


「おっと。そう簡単にほどいてくれるなよ」

 アグロは鎖を腕へ巻き付けながら、一歩、また一歩と歩み寄る。


「そいつは俺の能力――【繋ぎとめるもの】(バインド・アンカー)。 そこいらの鉄なんぞより、よっぽど頑丈なんでね」


 その間にキャシーは、親子と双子トゥーマンの間へ車体を横向きに滑らせた。


『ほら、今のうちよ! ごめんだけど、お買い物はまた今度お願いね!』

 母親は何度も頭を下げ、泣きながら子どもたちを抱えて走り去っていく。

 それを見届けると、キャシーはゆっくりと車体を反転させた。


 青い炎を纏ったヘッドライトが、双子トゥーマンだけを照らす。

 戦場が切り分けられた。


 守る者は去り、残ったのは――狩る者と狩られる者。

 死神と異形だけだった。


「初めまして……だな、双子トゥーマン

 アグロはハットのつばをクイッと上げる。


「死神様が、わざわざゴミ掃除に来てやったぞ」

「グギギギッ……!! 邪魔を……したなァァァッ!!」


 双子トゥーマンは鉈を左手へ持ち替え、怒号を轟かせた。


 鎖で繋がれた二人の視線がぶつかる。

 ――死神の執行(ショータイム)の始まりだ。


 * * *


 ギリリッ――。

 黒い鎖が、アグロと双子トゥーマンの右腕を固く繋いでいた。


 互いに数メートルの間合いを保ったまま、じり、と足を滑らせる。

 先に動いたのは双子トゥーマンだった。


「ギィィィッ――!!」


 左手の巨大な鉈が、横薙ぎに唸る。

 ブォンッ――!!

 人間なら胴体ごと両断される一撃。


 だがアグロは半歩だけ身を引き、その斬撃を紙一重で躱した。


「……遅い」


 コートの裾をかすめた刃が空を裂く。

 同時に、アグロは背中へ手を回した。


 ギラリ――。

 腰の背面から引き抜かれたのは、鈍い銀色に輝く大振りのハンティングナイフだった。


「そっちが力任せなら――」


 ガキィンッ!!


「俺は技でいく」


 鉈とナイフが正面から噛み合い、激しい火花を散らした。

 金属音が通り中へ弾け飛ぶ。


 ギィンッ!

 ガガッ!!

 ジャラララッ!!


 鎖が暴れ狂い、鉈が唸り、ナイフが火花を咲かせる。

 双子トゥーマンは怪力任せに鉈を振り回し、アグロは最小限の動きでいなし続けた。


 一撃ごとに鎖が張り詰め、二人の距離を強引に縮める。

 アグロはその張力を待っていた。


「……そこだ」

 

 ジャラッ!


 左手で鎖を強く引く。

 双子トゥーマンの体勢が、わずかに前へ崩れた。


 その瞬間。


 アグロは懐へ潜り込み、肩をぶつけるように踏み込む。


「ッ!」


 ガキィィィンッ!!


 ハンティングナイフが鉈の柄元を正確に叩き上げた。

 さらに鎖を引き絞る。

 グイッ――!!


 双子トゥーマンの右肩が強引に引かれ、左腕の軌道が大きく乱れる。


「ガァッ!?」


 ガランッ!!

 巨大な鉈が高々と宙を舞い、石畳を転がった。


『やった!』

 キャシーがヘッドライトを明るく瞬かせる。


 だが。


「……ギ、ギぎギひィひィィ」


 双子トゥーマンは笑っていた。

 不気味な笑みを浮かべたまま、右腕に巻き付いた鎖をガシリと掴む。


「……?」

 嫌な予感が走る。


「ラァァァァッ!!」


 ブォンッ!!

 次の瞬間、双子トゥーマンは鎖ごとアグロを豪快に振り回した。


「なっ――!」


 アグロの視界が一回転する。

 建物、空、道路、空。


 景色が目まぐるしく入れ替わった。

 そして――。


 ブンッ!!


 アグロの身体が砲弾のように投げ飛ばされた。


「チッ!」

 空中で右手を握る。

 ジャラッ――。


 黒い鎖が霧のように崩れ、消え去った。

 拘束が解けた勢いを利用し、アグロは体を捻る。


 ドンッ!

 両足から着地。

 石畳が蜘蛛の巣状にひび割れた。


 その直後だった。


 ガオンッッ――!!

 キャシーが爆音を轟かせ、双子トゥーマンの背後から一直線に突っ込む。

 五百キロを超える鋼鉄の体当たり。

 まともに食らえば、人間など跡形も残らない。


 だが。


 双子トゥーマンは異様な身のこなしで体を捻り、その突進を紙一重で躱した。


『えぇっ!?』


 キャシーはそのまま数メートル先まで走り抜け、大きく旋回する。

 そしてアグロの隣へ滑り込むように停車した。


『アイツ……見た目よりずっと速い……うぅん、()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……ふっ、だから言っただろう?()()()()()()()()ってな」

『もう、こんな時まで!』


 二人が視線を向ける先。

 双子トゥーマンは転がった鉈を拾おうともせず、無言でバス停へ歩み寄った


 そして。


 ギシッ……。

 金属製の案内看板へ手を掛ける。

 嫌な音が響いた。


 ミシッ――。


 ググググッ……!!

 コンクリートが砕け、地面が盛り上がる。


 次の瞬間。


 バキィィィンッ!!

 根元から引き抜かれたバス停の看板が、巨大な金属棍棒となって双子トゥーマンの肩へ担がれた。


『うそでしょ……』


 キャシーが思わず呟く。

 アグロは静かにハンティングナイフを握り直した。


「キャシー」

『……うん?』

「少し下がってろ」

『でも――』

「アイツの一撃は、お前でも無傷じゃ済まない」


 静かな声だった。

 だが、有無を言わせない響きがあった。


 キャシーは一瞬だけ黙り込み、小さくエンジンを鳴らす。


『……分かった。でも、無茶だけはしないで』

「ああ」


 アグロは短く答えると、一歩踏み出した。


 カツッ。


 乾いた足音が響く。

 巨大な金属看板を担ぐ異形へ向かって、死神はゆっくりと歩き始めた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

少しでも面白い!と思っていただけたなら、ブクマ、評価、感想等いただけたら励みになりますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ