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交わる思慕 2


続きます。


楽しんでいただけると嬉しいです。




 駅から歩くこと10分ほど、俺達は遊園地に到着する。


 入園口には既にそれなりの列が出来ていて、いくつかあるゲートの内、電子チケット専用口に並んだ。


「昨日送ったやつ、ちゃんと準備できてる?」

「ああ、陽奈から受け取ってる」

「モチ。あ、そういえばカップル用のペアチケットって、なんか証明が必要なんだっけ?」

「らしいよ。簡単なアピールでいいみたいだけど、代わりに園内のフードとか割引になるんしょ?」

「ホームページにはそう書いてあった」

「へー、お得じゃん」


 俺も情報収集にあたって少し調べたが、手を繋いだり、軽くハグしたり、それこそカップルだと言うだけでも十分だとか。

 それを聞いた陽奈は、ふとまた何かを思いついた表情でこちらを見上げてくる。

 

「ね、どうする? またキスでもしちゃう?」

「またって、その言い方だとちょっと語弊があるだろ」

「えー? でもほんとじゃん」


 どっちかといえばされたというか、奇襲というか。

 ついつい、髪が短くなったことでよく見えるようになった首元へ目線が吸い寄せられそうになる。


 しかしまあ、普段なら恥ずかしがりそうなものを、さっきので調子が出たのか随分と強気な様子だ。


「あの時のお返し、してくれてもいいんだよ?」

「……まあ、機会があればな」

「じゃあ楽しみにしてよーっと」


 言葉とは裏腹に、本気にはしていない軽やかな口ぶりで陽奈はそう言う。

 何かと不器用な俺がそんなことをできるとは思ってないのだろうが……俺だって、いつまでも同じじゃない。




 話している間にも徐々に列は進んでいき、しばらくして先に並んだ谷川達の番が来た。


「チケットを拝見いたします……はい、カップル用ですね。では証明をお願いします」

「はーい、私ら付き合ってまーす」


 するりと躊躇いなく腕を組み、頭を肩に預ける谷川に進藤の背中が目に見えて強張る。

 が、すぐにぎこちない動きながらも空いた手をピースさせたのは、天晴れと言うべきだろうか。


「これでいいすか?」

「はい、ありがとうございます。それでは当園を是非お楽しみください」

「あざーす。ほら、行くよ」

「……ああ」


 二人がゲートを通り、園内に入る。


 次はいよいよ俺達の番だ。陽奈と一緒に係員のお姉さんの前に進む。


「チケットを拝見いたします」

「これでお願いします」

「お願いしまーす」

「カップル用ですね。証明をお願いします」

「はーい♪ ほら、聡人」


 華奢な手が指を広げて差し出される。察するに恋人繋ぎをして証明しようということだろう。


 これ幸いと、俺はその手を取り。

 そうすると陽奈が何かを言う前に、くるりと手をひっくり返すと、指のあたりに軽くキスをした。


「へっ………?」

「えっと、これでいいですか?」

「ふふっ、ありがとうございます。是非当園をお楽しみください」


 微笑ましいものを見る眼差しになったお姉さんに気恥ずかしさを噛み殺しながら、陽奈の手を引いてゲートを潜った。


「お、来た来た」

「待たせた。というか、進藤は大丈夫か?」

「あー、いいから。こいつ照れてるだけだし」

「お、おう。分かった」


 よく見れば、耳が心なしか赤くなってる。

 クラスマッチの時はかなり積極的だったが、どうやら身体的な接触は慣れてないようだ。


「もうデート二回目なんだし、これくらい慣れろっての」

「……すまない。異性と触れ合う経験には乏しいんだ」

「ふーん? ウブなやつ」


 とはいえ愚痴りながらも笑ってる谷川を見るに、これ以上突っ込むのは野暮か。


「ほら、入り口で溜まってんのも時間の無駄だしさっさと回るよ。ここアトラクションの数多いんだから」

「一番近いのはメリーゴーランドだな」

「うわなっつ。メリゴラとか小学生以来じゃん」


 近場のアトラクションに向けて移動する谷川達について行こうとすると、後ろから手を引っ張られる。

 振り返れば、陽奈がじぃっとこっちを見ていた。


「どうした? 置いてかれるぞ」

「……さっきの何? 超びっくりしたんだけど」

「さっきのって、カップル証明のことか。言っただろ、機会があればって」

「あ、あんなすぐだと思わないじゃん。心の準備できてないっつーの」


 困惑と羞恥が入り混じったような顔になった陽奈に、俺はいつも自分が向けられているような悪戯げな表情を浮かべて答える。


「陽奈が言ったんだろ、お返ししてもいいって。不意打ちには不意打ちだ」

「むぅ、ぶきっちょ聡人のくせに」

「嫌だったなら、流石に謝るが」

「……嫌なわけないじゃん。むしろちょっと嬉しかった、っていうか」

「それなら良かった」


 嬉しかった、か。その返事が聞けただけで渾身の勇気を出した甲斐がある。

 むしろここで嫌なんて言われたら、冗談抜きに一生もんの黒歴史と化すところだったので助かった。


「じゃあ行こうか」

「あ、待って」


 指先だけ触れている状態の手を繋ごうとすると引っ込められてしまう。


 かと思えば、今度は反対の手を差し出された。


「こっちにして」

「えっと、分かった」


 改めて手を取り合い、谷川達を追いかける。




(聡人のばか。あんなことされたら、今日ずっと意識しちゃうじゃん)

 

 


 その時、陽奈の浮かべていた何かを堪えるような顔には、正直こっちも一杯一杯だったので気付かなかった。


 


 直近の会話からメリーゴーランドの所に行ったが、二人の姿は見当たらなかった。

 

 どこに行ったのかと周辺を探した結果、ジェットコースターの列に並ぼうとしているところを発見する。


「いたいた。探したし」

「二人ともおせーし」

「ちょっと話しててな。というか、最初からこれに乗るのか?」

「テンション爆上げでスタートにはもってこいっしょ」


 まさかの物理的に? 否が応でも精神的に揺さぶられることは確かだが。


「聡人はジェットコースター平気系?」

「そこそこだと思う。そう言う陽奈は?」

「あたしもぼちぼち? 月奈がチョー苦手だから、小さい頃あんま乗んなかったんだよね」

「あー、そんなイメージかもな。俺はむしろ美玲が好きすぎて耐性付いたな」


 同伴者無しだと乗れないから、満足するまで付き合わされたっけ。おかげで高い場所への恐怖心は克服できたが。


 谷川達は、と聞こうとして、さっき以上に肩が力んでる進藤が目に入る。


「おい、大丈夫か?」

「…………………平気だ」

 

 にしてはだいぶ間があったぞ。


 サングラスで表情から読み取りにくいのか、谷川が気付いてる様子はない。なので小声で話しかける。


「キツいならやめた方が……」

「いや。谷川が乗りたいなら、付き合うさ」

「……そうか。ならその、頑張れ」

「ありがとう、高峯」


 こいつも根性あるというか、谷川のこととなると一際頑固というか。同じ男として心の中で応援しておこう。


 そんな進藤の覚悟を決める時間を奪うかのように、一度に乗る客数が多い性質上どんどん列は進んでいく。

 並び始めてからはや15分ほど、あっという間に俺たちを含めたグループの番がやってきた。係員さんがパーテーションを外す光景が、まるで処刑場への扉が開かれたように感じられる。


「あ、そこのお客様。危ないので乗車中はサングラスを外してくださいね」

「……分かりました」


 注意されてぎこちなく取ったサングラスの下からは、眼光だけで人を殺せるんじゃないかという眼差しが現れる。

 事情を知ってる人間からすれば、もはや哀れにすら思えた。


「どこ座るー?」

「モチ先頭っしょ」

「ッ………!!」


 間髪入れずの死刑宣告。進藤が絶句する。

 それでも無言でついてくのは、はたして恋心のなせる技か。


 座席数は一列ちょうど四人分。意気揚々と谷川が一番乗りで最奥の席に座り、その隣に進藤が座る。


「あたし真ん中寄りでいい? 風が当たって楽しいんだよね」

「いいぞ。端っこは少し怖いけど」

「あー、ね。景色見えちゃうもん」


 激しく乱高下する乗り物の中で、外に近い場所ほど頼りなく思えてしまう。

 けどまあ、あそこで半ば屍と化してる男のことを思えば、これくらいの居心地の悪さは我慢できる範疇だろう。


「安全バーを下ろしますので、動かないでください」


 大きな音を立て、太く分厚いバーが肩から胴体にかけて体を席に固定してくる。

 

 更に自分達でシートベルトを巻き、二重にセーフティをかければ発進準備完了。後方からの不安と期待が入り混じる声が、いよいよ始まることを予感させた。


「それでは皆様、行ってらっしゃい♪」


 どこか薄ら寒さを醸し出す係員の明るい言葉と共にブザーが鳴り、がこんとロックが外れてコースターが動き出す。

 

 最初はゆっくりと、緩やかに乗り場を出てレールの上を登っていく。

 徐々に高度を上げていき、ピークに達するまでのこの時間が一番怖い。同時にこれがジェットコースターの醍醐味とも言える。


「やば、めっちゃ空近いんだけど」

「うちの学校は屋上に入れないから、こんなに高いのは滅多にないな」

「ねー。なんかソワソワしてくんね」


 いつものお楽しみモードに入った陽奈は、嬉々として前方を見つめている。

 一方でその向こう側にいる進藤はといえば、己の死期を悟ったかのように一周回って無の表情に至っていた。どんなコントラストだよ。


「お、もうすぐ来んね」

「わぁ……! 絶対ぐわってなるやつ……!」

「──高峯」

「ど、どうした?」

「人は何故、翼もないのに空に憧れるのだろうな」


 全く感情が乗っていないセリフに、アッこいつヤバいと思ったのも束の間。


 少しずつ角度を上げていた傾斜がいよいよ終点に迫り、青空しか見えなくなった瞬間──俺達は地に落ちた。


「うぉおおおっ────!?」

「きゃぁああ────っ!!」

「あっはは────!!」

「────────ッッ」


 重力に従い、何かの糸が切れたみたいに最高速度で落下していくコースター。


 びゅうびゅうと全身を打ちつける突風に内臓が太鼓のように叩かれ、その奇妙な感覚から逃れるように声を上げた。


 そうして速度が落ち切る直前、曲がりくねったレールによって遠心力が与えられ、再び跳び上がった車体は上下を入れ替え走行を続ける。


 右から左、上から下、天から地。縦横無尽に駆け巡る様はさながらドッグファイトを繰り広げる映画の戦闘機のよう。

 



 そんなことが引き延ばされた体感時間の中で何十度と繰り返され、実際にはほんの数分間で空の旅を終え、俺達は乗り場へと戻ってきた。


「お疲れ様でした〜! 皆様、お忘れ物のないようご降車ください。またジェットコースターと乗り場の間に隙間があるため、お父様お母様はお子様の手を引いて──」


 和気藹々とした周囲の声を聞きながら、若干おぼつかない足取りでコースターから降りる。

 

 やばいな、久しぶりに乗ったけど腰から上と下が別々になったみたいだ。感覚のズレを治すために腰を捻ってみる。


「っはー、めっちゃ速かった! 髪短くして良かった、セットしても絶対台無しだもん」

「乗ってる途中の写真を撮られてるみたいだから、後で見てみるか」

「あーっ、また意地悪しようとしてるでしょ。見ちゃダメですー」

「はいはい、どうせ二人仲良く怒髪天っしょ」

 

 陽奈の髪が長いままだったら、きっと某漫画作品の主人公みたくなってたに違いない。


 少しの怖さと多分な爽快感に包まれながら、そんなことを思い浮かべて……降車してからずっと真っ白になってる進藤の姿で現実に引き戻された。


「あれ、進藤くん平気? めっちゃやつれてない?」

「……問題ない…………」

「あんた、体調悪いなら言いなよ? 無理して遊ぶ必要ないんだしさ」

「俺は……大丈夫だ。何も心配することは、ない」


 ふるふると若干震える指で、サムズアップしてみせる。

 きっとこいつにとって、谷川が楽しんでいるのなら無理の範囲に入らないのだろう。俺は思わず心の中で進藤に敬礼した。


「そ? なら次はあっちのフリーフォールに……」

「っ! な、なあ! 俺、コーヒーカップとか乗ってみたいんだけど、そっちでも良いか?」

「コーヒーカップ? んー、まあこっから近いし、それでもいっか。陽奈は?」

「さんせー。遊園地って言ったらコーヒーカップも外せないっしょ」

「なら行くかー」


 よし、なんとか軌道修正できたぞ。男のプライドにも限界値ってもんがあるからな。


 コーヒーカップのゾーンに向けて陽奈と谷川が歩いていくのを確認し、多少距離が離れたところで固まっていた進藤の肩に手を置いた。


「ナイスファイト。カッコよかったぞ」

「…………人間とは、地に足をつけて生きていかなければならない生き物なのだと改めて理解した」

「うん、元陸上部のお前が言うと妙に説得力あるわ」


 何だろう。今までヒロしか男友達が居なかったが、こいつとは仲良くなれそうな気がした。






ここから後半へと入ります。


読んでいただき、ありがとうございます。

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