交わる思慕 1
皆様、遅ればせながら明けましておめでとう御座います。
一月は何かと忙しく、投稿が遅れてしまう形となりました。申し訳ありません。
前回のあらすじ:真里に聡人との進展、そして告白について相談した陽奈は遊園地でのダブルデートを計画するのだった。
では、楽しんでいただけると嬉しいです。
日曜日、陽奈からデートに誘われ、俺は出かけていた。
行き先である遊園地の最寄駅で待ち合わせということで、家を出発して電車に乗ること一時間と少し。
無事に到着して改札を出ると、目印になりそうなオブジェの前に来た。
「時間は……うん、平気だな」
集合時間の9時30分より少し早め。これなら問題ないだろうと独りごちた。
それにしても、ダブルデートとはまたしても人生初の体験だ。思わずそわそわしてしまう。
けどその理由は、未知のデート形式に対する緊張だけではない。
今回、俺にはある目的がある。
それは──陽奈に告白すること。
わざわざヒロに相談に乗ってもらってまで決めた覚悟を、早速実行するチャンスが巡ってきた。
決意が鈍らないうちにとは考えていたが、その矢先にデートに誘われたのはまさに渡りに船。
大まかな計画としては、遊園地内でアトラクションを楽しみつつ、二人きりになるタイミングがあればアプローチを重ねていき、最後に告白スポットで有名らしい観覧車に乗って、そこで想いを伝える。
そのための段取りや、告白の言葉を考えてまた若干寝不足だが、むしろ目は冴えているくらいだ。
「……やべ、なんか不安になってきた」
意中の相手に好意を告げる、という事実に体が震えそうになる。
前はただ自分の感情に従うままに告白して失敗した。だから、今回は出来る限りの準備をしてきたつもりだ。
それでも今日この場に至ってなお、ほんの少し弱気が顔を出す。
大丈夫だ、と自分に言い聞かせる。これまで陽奈と培ってきた、恋人としての時間を信じれば可能性はあるはずだ。
ひとまず、気持ちを落ち着ける為にも一旦セリフを確認して……
「みーつけた」
メモアプリに書き連ねた告白計画を見るため、スマホを取り出そうと下を向いた時だった。
聞き覚えのある声と一緒に、前からベージュ色のミュールが視界に映り込む。
どうやら、悩むには少し遅かったようだ。
「陽奈、おは──よ、う」
ポケットに伸ばした手を戻し、顔を上げる。
そうして目の前に現れた恋人を見て、俺は言葉を失った。
「おはよ、聡人。やっぱ一番乗りだ」
「………あ、ああ」
「やー、今日もいい天気だね。ノースリーブ選んで正解。昨日のあたしマジグッジョブって感じ」
「そう、だな」
いつもみたいに、朗らかな陽奈。
しかし胸の内から全身に広がる衝撃を無視することはできなくて、たまらず俺はその原因について尋ねた。
「ていうかお前、その髪……」
「ん? へへ、さっぱりしたっしょ」
はにかみながら、陽奈は顎の辺りまで短くなった毛先を指で弄る。
この間の金曜まで背中に届くほど長かった髪は、見事にショートボブへと様変わりしていた。
日差し対策だという袖無しのトップスに明るめな色のフレアスカートと合わさり、以前に増して活発な雰囲気になっている。
「短いのめっちゃ久しぶりなんだけど、変じゃない?」
「……正直かなり驚いたが、その長さも似合ってるよ」
「そ? 中学からずっとあの長さにしてたんだけどねー。どうせならバッサリいっちゃおうと思って」
「随分と思い切ったんだな」
これほどの変わりようだ、谷川達も見たらきっと同じように驚くんじゃないだろうか。
そんなことを考えていたら、突然陽奈が勢いよく人差し指を立てた。
「はい、ここで問題です。あたしが髪を切ってきたのはどうしてでしょう?」
「え? こ、これからもっと暑くなるから、とか?」
「確かに短いと色々楽だけど、ぶっぶー。違いまーす」
「じゃあ、今になって失恋の念から……なんて」
「ぶっぶー。そんなベタなことしないって。や、まあある意味そうってちょっとだけ言えなくもないか」
わ、分からん。
ファッション雑誌に影響されたり、テレビで見たタレントが良さげで、っていうタイプじゃないだろうし。
中学の頃からずっと同じ髪型にしてたって言うなら、よっぽどじゃないと変えないはずだが。
「どうしてもわかんない? なら、ヒントあげる。あんたはさ、もうちょっと自分が誰かの行動の理由になってるって思ってもいいんじゃない?」
「俺が?」
どういうことだ。それじゃ陽奈が髪を切ってきたのは、俺が理由みたいな……
「………あ」
ふと、脳裏をよぎった可能性に声を漏らす。
まさか。いくらなんでも、そんな都合のいいこと……でもそれ以外には心当たりがない。
どこか自分の勘を信じきれず、何か確証が欲しくて、ふと陽奈を見れば笑っている。まるで俺が、その答えにたどり着くのを待ってるみたいに。
……ああもう、しょうがねえ。間違ってたらその時は笑い飛ばせばいいんだ。
半ば自爆覚悟で、俺は頭に浮かんだ答えを口にした。
「俺がこの前、髪が短い方が好きって言った……から?」
「せーかい。でも、三つ目でやっとかー」
「っ! わ、悪い。そうとは思わなくて」
「もっと自信持てし。あんたはあたしの彼氏でしょ」
だって、この前の約束だけでも驚いたのに、ここまでしてくれるなんて予想外にも程がある。
誰かが……好きな相手が、俺のために自分を変える。そんな夢みたいなことが起こるなんて思いもしなかった。
「まあ、ぶっちゃけ重いーとか言われたら流石に凹むけど。あんた的にこういうのって、アリ? ナシ?」
「なんつーか、その……色んな意味ですげえ可愛いです」
「やたっ。へへ、あたしの勝ちぃ」
掲げられたVサインに、負けたと言わんばかりの表情を浮かべてみる。
陽奈の自分自身への賭けは間違いなく勝ったと言うべきだろう。だって、こんなに嬉しく感じているんだから。
ていうか、さっきの〝ある意味そう〟って言葉……それに中学の頃からずっと同じ長さにしていたって、もしかして大門先輩と出会った時から、だったりするのか?
野暮な疑問だから口に出すことはしない。
けど……純粋な喜びの中に、ほんの少しの優越感が混じる。
それがあまり良くない感情だと分かってても、どうしてか手放す気になれなくて。
ただ、自分に向けられるその笑顔だけを見つめることにした。
「てかさてかさ、前にした髪型試すって約束、アレってこれでも平気?」
「あー、正直レパートリーは多くない。美玲は昔から髪長かったし、だからこそ色々弄ってたのもある」
「そっか。じゃあ、やる時のために今から髪型調べてみない?」
「別にいいけど、もうすぐ谷川達も来るんじゃ……」
「平気平気。集合時間、実は聡人には30分早く伝えたんだよね」
「え? なんでそんなこと……」
「んー?」
「あっ、えーっと………俺に一番にその髪を見せるため、か?」
「正解。これで二回当たったからトントンだね」
そこから計算されてたとは……なんだろう、一歩何かをリードされた気がする。
あっちも告白してくるためにアピールしてきてる、なんてのは、流石に飛躍しすぎてるか。そうじゃないにしても、デート中は予想以上に気合い入れないとだな。
「なら、二人を待ってる間に調べてみるとするか」
「さんせーい。面白いのあるかな?」
「面白いのが良いのか?」
「どうせならそういうのも一個は試してみたいじゃん?」
「はいはい、仰せのままに」
気ままな彼女の要望に応えるため、スマホを取り出すと検索を始めた。
調べてみると案外色々あるもので、これがいい、あれもいい、なんて二人で画面を見ながら雑談に興じる。
そうしていると不意に通知が入って、そっちを見るとトークアプリの受信メッセージだ。
「谷川からだ、もう着くって」
「ほんとだ。あれ、もう10時じゃん。あっという間だったね」
「やりたい髪型は絞れたか?」
「んー、それは次へのお楽しみってことで」
「なんだそれ、ドキドキするな」
「ふふっ、何がくるか分かんない方がワクワクするっしょ?」
「ははっ、かもな」
ここで候補を絞っておいた方が練習とかもできるんだろうが、四苦八苦しながら一緒にやるのを想像して悪くないと思う自分がいる。
きっとそれも、陽奈となら良い時間になると確信できるからだろうな。
メッセージが入ってから数分後、駅に電車が入ってくる。
程なくして改札を出てきた乗客の中に、遠目からでも雰囲気のある二人組を見つけた。
「おーい! こっちこっち!」
陽奈の呼びかけに彼らは気がつき、こっちにやって来る。
「よ。二人とも」
「おはよう、谷川」
「はよー。えー、今日はいつもの五割増しくらい決まってんね」
「ありがと。陽奈こそ何、その髪型イケてんじゃん」
「でしょー。お墨付きだし」
ね?と横から見上げられて、緩慢に頷いてみせる。
谷川は「へえ」と呟くと満足げに口の端を上げた。どうやら前に言ってた、俺が陽奈をちゃんと見てるか判定は継続中らしい。
世話焼きギャルの合格をもらったところで、その隣にいる人物へと意識を移す。
「進藤も、おはよう」
「ああ。クラスマッチ以来だな」
「あー、その……元気だったか?」
「見ての通りだが」
いや、見た目からはあんまり判別つかないというか。
具体的には妙に様になってるサングラスのせいで、余計物々しさが増しているというか。
こうして正面から向き合うと結構身長もあるし、谷川と隣り合ってる状態だと女優とボディーガードみたいになってる。
「不慣れな身だが、今日はよろしく頼む」
「お、おう。こっちこそよろしく」
「終わった? んじゃ行こっか」
顔合わせも無事済んだところで移動を開始する。
さて、いよいよ本格的にデートの始まりだ。
ダブルデート編は3話か4話ほどとなります。
読んでいただき、ありがとうございます。




