88話
宝飾店を後にして一先ずの宿へと向かいながら、シオドア殿に此処に居る経緯をお話ししました。小生たちがこの国に居る事よりもシオドア殿がゴートランドを出ている事の方が意外なのですが…。
「面倒な事してんのな。」
「シオドア殿はどうして此方に?」
「あー…。」
「姉上にはお話ししてあります。リアム殿の深いところだけはしていませんが。」
「そりゃ助かる。」
小生が問い掛けるとシオドア殿は姉上を見ながら言葉を探しているようでした。
先程は当たり障りなく知人と言ってくれたので、ゴートランドの話をすべきか黙っておくべきか悩んだのだと察しました。姉上にはリアム殿の加護以外は話してあるとお伝えしました。
小生が別の世界では猫として生きてきた事も、リゼンが魔族である事も、リゼンとリアム殿が恋仲である事も全て隠さずにお話ししてあると付け加えて。
「そうか、良かったな。受け入れて貰えて。」
「はい。…で、何故シオドア殿がこの街に?」
「リアムが行方不明なんだ。」
「……は?」
「一ヶ月くらい前だったか、洗濯に行くって出て行ったきり戻らねぇんだ。魔物に襲われたのかも知れねぇけど、そこまで弱くねぇし…死体も襲われた痕跡も見付からなかった。」
「それは…どういう…?」
「アイツが黙って出て行く訳がねぇんだ。リゼンと喧嘩しても俺には行き先を言ってから出て行く奴だしな。…ゴートランドじゃ家出も命懸けだからよ。」
小生がお世話になっている時も極めて稀に、リゼンと喧嘩しているリアム殿を見ました。まだ子供である小生の前で口付けたり、触ったり…叱っても改善されない事が募ると稀に爆発してしまうのか家出をしました。
その時もシオドア殿に何処に行くかを伝えていましたし、結局は仲直りして戻ってきていたのです。
洗濯や釣りなどで出掛ける際も必ず声を掛けて行くか、シオドア殿かリゼンと一緒に出掛けていました。
そんなリアム殿が黙って居なくなったりしないと、一年弱しか一緒に居なかった小生にも分かります。
リゼンとシオドア殿が探しても見付からないということは、魔物に食べられてしまったという最悪の想定をしたので口には出せませんでした。俺もそう思う、などとシオドア殿の口から聞きたくなかったのです。
「恐らく、人間だ。」
「…人間…?」
「魔物に一飲みにされたとしても、今のリゼンなら魔力を辿れる。噛み殺されたなら痕跡が残る。…綺麗さっぱり、まるで居なかったかのように消えるってのは、移動魔法だろうよ。」
「ゴートランドに、人が…?」
「経緯は知らねぇ。けど、転生者は偶に来るんだ。ほら、アイツ等にとって魔物や魔族は問答無用で倒す敵だからな。」
「ですが転生者がどうしてリアム殿を…。」
「知るか、俺が聞きたいわ。…まぁ、チビの不注意でアレが知られたか…、ゴートランドから助け出したつもりでいる…とかな。」
盛大な溜息と共に面倒臭そうに頭を掻いているシオドア殿ですが、心配と苛立ちが混在しているのは目に見えて分かります。
経緯がどうであれ、人間に連れて行かれたのであれば人間の国を探す必要があると判断したのだそうです。
リアム殿の魔力を探ると血色宝石の魔力も探知してしまう為に難航しているのだとか。
眠っている時や、怪我や病気で弱っている時は魔力が弱く感じられるのだそうです。血色宝石の放つ魔力もそれほど強くないので判断が難しく、血色宝石が一ヶ所に多く集まっていると元気なリアム殿と同じかそれ以上に強い魔力となって検知してしまうのだとか。
結局のところ、出向いてみるまでリアム殿なのか宝石なのか分からないのだそうです。
宝石の事についてなど幾らか伏せながら話して頂きましたが何となく理解は出来たつもりです。姉上は首を傾げていましたが、シオドア殿が妹を探しているという事は理解したらしく可能な限り協力したいと申し出ていました。
「ヒロトの恩人だもの。水色の髪でリアムさんって言うんですよね。知り合いにも声を掛けてみます。」
「おぉ、助かる。サーシャ、手…貸して?」
「…?はい。」
シオドア殿が姉上の手を取るとふわりと空気が動き、柔らかな光に包まれたような感覚がしました。
「これが俺の魔力の波長。それ、使って教えてくれや。」
「あ…、はい。」
シオドア殿がそれ、と指差したのは耳飾りでした。姉上に差し上げる事は話していましたし、同じ細工の物ですから気付いたのでしょう。シオドア殿の魔力の波長が分かれば姉上からシオドア殿へと連絡できる、との事なのですが…。
「シオドア殿…、今の光で波長が分かるのですよね?」
「あ?おぉ、他人に伝えるのにこの方が楽だからな。察知能力が高い奴は見ただけでも分かるだろうけどよ。」
「…小生に魔力の流れを教えて下さった時と随分違うようですが…。」
「当たり前だ。流れを教え込むのと波長を感じさせるのじゃ方法が違う。…つっても、ガキとはいえ男相手に優しくする趣味ねぇからな。」
「贔屓だ…。」
「ははっ、拗ねんな。焼き鳥でも奢ってやるから。」
「最低二本ですよっ。」
「はいはい。」
宿に向かう最中に露店が幾つか出ていたので良い香りだと視線を奪われていた事に、シオドア殿は気付いていたのでしょうか。
姉上がリアム殿の捜索は良いのかと心配していましたが、他の街を探しているリゼンからの連絡待ちだそうなので少しは時間があるのだそうです。焼き鳥は三本買って貰いました。
「本当に好きだね。私のも食べて良いよ。」
「有難う御座います。」
「サーシャ、これでも飲んでろ。」
「これは…?」
シオドア殿は姉上にも焼き鳥を買って下さったのですが、姉上は小生に譲ってくれました。好物なので遠慮はせず有難く頂きました。
シオドア殿が姉上に差し出した飲み物は牛の乳のようでしたが、甘い香りがします。
「凍らせた果物が入れてあるんだと。甘くて美味いってさ。」
「有難う、ございます…?」
「下に居ると、好物はくれてやりたくなるんだよな。俺もチビの好物はくれてやる。…そんなお姉ちゃんにご褒美だ。偶には甘えとけ。」
「あ…、はい、有難く頂きます。…ん、本当に甘くて美味しい。ヒスイも飲む?」
果物の甘い香りに誘われてヒスイが小生の肩から姉上の方へと移動しました。姉上に分けて貰って凍った果物を頬張っています。
…確か、シオドア殿は女性に困った事が無いとリアム殿に聞いたような気がします。姉上もあっさり陥落してしまうかも知れません…、…シオドア殿が兄なら構いませんか。




