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86話

メヒテルト殿がディーのところへ向かうと言うので小生は寝心地の良い場所を探すと言って別れる…つもりだったのですが、姉上に見付かりました。



「ヒロト、出掛けるよ。」


「姉上…、相変わらず横暴です。小生にもお昼寝の自由を下さい。」


「何言ってるの。放っておいたらアンタずっと寝てるでしょうが。」



…返す言葉もございません。

猫は古くから寝子(ねこ)と呼ばれるのですよ。眠っているのが普通なのです。姉上に言っても一蹴されるだけだと分かっていますので、黙っておきますけど。


ディーたちと会話を重ねた結果、一ヶ所気になる街があるというので出向く事になったそうです。

王都程ではないそうですが大きな街で、カナタ殿も出向くのだそうです。フレッド殿とメヒテルト殿は部下を率いて王都の護衛なのだとか。メヒテルト殿は今聞いたばかりだというのに既に分かっていたかのように部下たちを集めに向かいます。



「…小生も行かなければならないので?」


「私一人で行けって言うの?」


「小生は待機でも…。」


「ダメ。お手伝いに来たんだから、働いて貰うからね。…テラちゃんとギスギスしたままっていうのもヤだなって。」


「食事の分は働いても良いですが、兎は関係ないでしょう。第一、仲良くしたいとも思いませんよ。」


「もう少し人との繋がりを大事にして欲しいの。無理にとは言わないけど…、話してみたら良い子かも知れないじゃない?」


「姉上、どちらに向かえば宜しいので?」


「…もう、聞く気ないな?…取り敢えずディーのところに行くよ。」



姉上はどうして誰とでも仲良くなれるのでしょう。好き嫌いがあっても良さそうなのですが…。

何時でも真っ直ぐで間違った事は正そうとして、誰にでも優しくて仲良くなって…それでいて言葉だけではなく戦う力もお持ちの姉上。憧れる人が多いのは傍で見ていて分かりますが…倒れてしまわないかが心配です。何時だって姉上は綺麗なのです。

誰かの悪口を言ってみたり、怠けてみたり…そんな姉上を見た事がありません。



「ん?どうしたの?」


「いえ…、髪に葉が付いていたので。」


「ありゃ、何時付いたんだろ。ありがと。」



…まぁ嘘ですけど。

少し不安になったので姉上に触れたかったのです。歩く度に揺れる髪を少し掴んでみたかっただけなのです。



小生は上手く戦えませんし、皆さんが褒めて下さる程の能力を使いこなせません。ですが、母上と姉上は守りたいと思っています。母上は基本的に町から出ませんし教会には戦える神官も多く居るので不安はありません。

姉上はご覧の通り自ら首を突っ込んでいきますし、何かと頼られる事が多いので心配です。といっても小生より強いのですがね。素直に守らせてくれるようなお人ではありませんし、小生に出来る事など無いと思いますが…危険な事はしないで頂きたい。



「お待たせ。」


「お帰り。レイチェルも一緒だったのか。じゃあ話は聞いた?」


「えぇ、カナタ。でも詳しくは聞いていないんだけど…取り敢えずガラックに行くって事だけは。」


「そうか。まるで戦力を誘き寄せるみたいに街を襲っているっていうのは聞いたよね。その中でガラックが無事なんだけど、サーシャが気になるって言って視察に行く事になったんだ。」


「気になる…?無事ならそれで良いのでは…ないの?」


「うん、良いと思うんだけど…。此処だけ避けてるみたいに感じたんだよね。何かあるかも知れないし、見に行きたいんだ。」


「…それならカナタ殿たちにお任せしてお留守番でも…。」


「いけません。…本当は私だけでも良いかなって思ったんだけど、魔族が出て来たら勝てそうにないし不安なんだよね。付き合わせてごめんね?」


「い、いや、良いよ。街を守る事に繋がるかも知れないしね。」



カナタ殿、レイチェル殿とテラが見ていますよ。


姉上が強い事は知っていますが魔族というだけで恐怖を感じるのをこの目で見ました。魔族ではない上に姉上よりも弱い奴等に、姉上は恐怖と勝てないという諦めを抱いたのです。

グレオノール王国周辺で暴れているのは自称魔族のようですので姉上が後れを取るとは思えませんが、苦手意識から動きが鈍ってしまうかも知れません。

全てを理解しているとは言いませんが、小生はリゼンのお蔭で魔族の特徴が分かります。姉上を守る要素の一つにでもなれば僥倖(ぎょうこう)



「サーシャには残って欲しいが、どうしても気になるのであろう?」


「うん。ディーが心配してくれるのは嬉しいけど、人を使うより自分で動きたいんだよね。何もなければ直ぐに帰って来るから。…最悪ヒロトを盾にすれば大抵の攻撃は何とかなるしねっ。」


「…言うと思いましたよ。」



そんな冗談を言う癖に、本当に危険になったら姉上は小生の前に出るのでしょうが。何年一緒に居ると思っているのですか。それくらいお見通しなんですよ。

姉上よりも背は高くなりましたが、まだまだ追い付けそうにないですね。


ガラックの街までの移動が出来る人が魔法の詠唱をしていますが、やはり聞き慣れない呪文でした。半獣と人間とでは言葉が違うのでしょうか。

会話は普通に成り立っていますし、人間の言語と同じように思えるのですが。



『クロガネ、お腹空いた。』


『これから別の街に移動するのだそうです。そこで買いましょう。…あ、小生から離れないで下さいね?』


『人間の街だから?』


『それもありますが、あの魔法…離れると痛い目に合います。』


『痛いのはヤだな。』


『最悪死んでしまうそうなので、しっかりとくっついていて下さい。』


『ん、分かった。』



小生は運良く繋ぎ目から生還出来ましたが、永遠に彷徨(さまよ)い続ける事もあると聞いていましたのでヒスイにも忠告しておきました。

ヒスイの爪が肩に刺さって少し痛いですが無事に移動を済ませて一安心です。…そういえば、今も《女神の加護》とやらは発動しませんでした。ヒスイは魔物ですし、その爪が刺さったので肩が痛みます。

まぁ発動してしまったらヒスイが弾かれてしまうので、繋ぎ目に落ちてしまう可能性が高くなりますから発動しなくて良かったのですが。


《女神の加護》は攻撃から身を守ってくれる、滅多に発現しない希少な加護と聞いています。何度も痛い思いをしていますので、信用出来ませんがね。

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