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72話

話をするにもある程度の広さが必要だという事で、彼等が泊まっている宿へと向かいました。

姉上も同行して下さるそうで少し安心しました。知らない人と話すのはあまり好きではありませんから。



「さっきも言ったけど、俺はカナタ。こっちの兎の半人がテラ。で、ヒロト君は覚えているよね?彼女はレイチェル。」



にこやかな表情でお話していますが、レイチェル殿を紹介する際には棘のようなものを感じました。分かっています、あの時声を掛けてしまった事でレイチェル殿は怪我をしました。カナタ殿の魔法で傷は癒えたようですが、一歩間違えば死んでしまっていても可笑しくなかった。


立場が逆で、カナタ殿の行動に因って姉上が怪我をしたら…小生もきっと怒ります。だからカナタ殿には文句も言えません。



「勝手について来てごめんなさい。私はヒロトの姉のサーシャです。」


「え……あ、うん、宜しく…。」



流石(さすが)姉上。微笑んだだけでカナタ殿も虜にしてしまわれたようで。テラとレイチェル殿が睨んでいますが気付いておられないのでしょうね。


彼等の泊っている部屋に通して貰い、促された椅子に腰を下ろしました。小生の隣に姉上、小生の前にはカナタ殿、カナタ殿の後ろのベッドにテラとレイチェル殿が腰掛けています。



「さて、君は記憶があるんだよね?」


「えぇ、あります。」


「初めて会えたよ、記憶持ちの転生者。俺もなんだけど、君は幾つくらいで死んだのか聞いても良いかな?俺は30歳だったんだ。」


「さて、幾つだったでしょうか?」


「その辺りは覚えていないのかな?…俺も死んだ時の事はうろ覚えなんだ。刺されて死んだのは覚えているんだけど、…場所を思い出せなくてね。」


「…死んだ折、女神にお会いになったので?」


「あぁ、綺麗な女神様だったよ。世界を救って欲しいと言われたんだ。君もだろう?魔王から世界を救うなんて、ホント…ゲームみたいで思わず興奮したよ。」


「げーむ?」


「あれ、知らない?俺は彼女も居なくてさ、友人も多くはなかったから仕事から帰るとずっとゲームばっかりだったよ。休みの日も朝から晩までゲーム漬けで…って、あぁごめん、俺の話ばっかり。」


「いえ、お気になさらず。」



その後もカナタ殿は前の世界の話をして下さいました。げーむだとかは知りませんが、この世界がその世界観に似ているという話でした。

そのげーむとやらは主人公が勇者となって魔王を倒し、世界を平和に導くのだそうです。確かに、女神の言っていた事とそっくりのような気がします。



「それにステータスも見易いし、魔法まで使えるなんて興奮するなって方が無理な話だよ。」


「…はぁ…。」


「あ、ヒロト君はゲームとかやらないんだよね。それじゃあ大変だったんじゃない?この世界に生まれて。」


「えぇまぁ…かなり苦労していますよ、今も。」


「良かったら、ステータス見せて貰えないかな?転生者のステータスは見た事あるけど、記憶のある転生者のステータスは見た事無いんだ。」


「はぁ、面白いものでもないと思いますが。」



カナタ殿は何だか今も興奮していらっしゃるように感じます。

ですが隠すようなものでもありませんし、すてーたすというものが神官長殿に確認されている能力の事でしたら構わないのでカナタ殿の問いに頷きました。


やはり能力値の事でした。何時もの感じです。…あぁ、相撲が見たい…。



「うわ…っ、何だコレ…。凄いな…、ヒロト君、何処でレベ上げした訳?」


「れべ上げ…?」


「あ、分からないか。えーと、修行?」


「まぁ、厳しい師匠が隣に居ますから…。」


「ちょっと、そんなに厳しくしてないでしょっ。」


「……綺麗なお姉さんに教えて貰うのは羨ましいな。あ、いや…そうなんだね。」


「あの、カナタさん。ヒロトって、凄く弱いんですけど…能力は高いんですか?」


「…は?弱い!?」



姉上は至って真面目に聞いています。その為カナタ殿は戸惑っているようでした。

何でも、とても高い能力だったようです。神官長殿はそんな事仰っていませんでしたが…。それに模擬戦で未だに姉上には勝てませんし、魔物相手にも逃げる方が良いと思っています。それで強い訳が無いじゃないですか。



「正直、俺よりも高い能力だよ。更に上げられる分までこんなに残っているなんて…。」


「はぁ!?こんな奴がカナタより強い訳ないよっ!」


「テラ、本当なんだよ。まぁ魔法は俺の方が強いけど、全体的にどれも敵わない。弱いなんて言って、油断でもさせるつもりだった?」


「いえ、小生は姉上に勝てません。それに魔物ともまともに戦えません。」


「そんな筈…、…いや、待てよ。俺も初めは…。」



小生の言葉を聞いて何やら悩み始めてしまった様子。どうしたというのでしょうか?思わず姉上と顔を見合わせてしまいました。



「そうか、ヒロト君は実戦経験が足りないのと、あとは振り分けポイントをそのままにしているからだ!」


「……はぁ。」


「折角使えるんだから、振り分けないと。何でもこっちの人達には無いみたいで、色々覚えたり能力を底上げしたり出来るんだよ。こんなに貯めておくなんて、何か上げたいスキルでもあったのかな?」


「すみません、カナタ殿。仰る意味が全く分かりません。」


「えぇ…、……あぁでもゲームをした事が無いと難しいか…。この数字は見えるよね。」



カナタ殿は頭を抱えてしまいましたが、一度大きく深呼吸をしてから小生に向き直りました。

不思議に思っていると何だか先程よりも丁寧に説明を始めて下さいました。


確かに気にはなりますが、今からお勉強に突入しようというのではないでしょうね…?

小生のお昼寝時間を削る価値があるというのでしょうか…。



小生には見えていてシオドア殿には見えていなかった項目の一つ。

振り分け可能分、というものは能力に追加で数値を振り分ける事が出来るそうです。【すきる】なるものを覚えたり属性が違う魔法を覚えたり出来るのだそうです。姉上とカナタ殿のお連れの方々は言っている事が分からないといった表情でした。


…小生にも分かっていません。



「カナタ殿、大変申し訳ないのですが、さっぱり分かりません。」


「うーん、そうか。やっぱりゲーム経験ないと難しいか。今時珍しいね、ゲームに触れた事が無いなんて。やり込んだ事は無くてもやった事あるって子多いと思ってたからさ。」



カナタ殿の仰る【げーむ】が何なのか、いまいち分かりません。恐らく人間がやるものなのでしょう。

小生は猫ですから、触れた事はありません…恐らく。

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