73話
全くもって話が見えないままでしたがカナタ殿はあれこれと悩みながら話して下さっていました。
何となく、ではありますがこの世界の方々と転生者とを隔てるのは能力値をある程度任意で増やす事が出来るところにあるようです。
修練を積んで強くなるのは勿論の事、振り分け分として任意で底上げしたい能力を増やしていく事も出来て本来なら使えない属性の魔法も使えるように出来るのだとか。
何だか、真面目に修練を積んでいる方々と比べると狡いような気もしますが…それが転生者は強いという認識に繋がるのでしょう。
「カナタ殿、その辺りはよく分かりませんのでそのままで構いません。」
「え、勿体ない。強くなれるんだよ?」
「小生は今のままで十分です。のんびりと暮らせたらそれで、幸せです。」
「まぁ、人に因って…って事かな。俺はこの世界で依頼をしたり魔物と戦ったり、迷宮に入って探索したり凄く楽しいけど…ヒロト君は今のままが幸せなんだよね。」
「はい。…どころで、折角なので幾つかお聞きしても?」
「俺で分かる事なら幾らでもどうぞ。」
移動魔法について気になっていたので、カナタ殿なら分かるかと思い聞いてみる事にしました。
カナタ殿はどのように移動魔法を使っているのかを聞いてみたところ、姉上たちと同じようでした。知っている場所への移動だというのです。
「そうですか。では、別の方に移動魔法で見知らぬ土地に連れて行って貰った場合、帰る事は出来ますか?」
「うん?どういう事?」
「例えば、カナタ殿が行った事のない土地に他の方の移動魔法で移動したとします。そこから、此処へ戻ってくる事は出来ますか?」
「うーん、やった事が無いから何とも言えないなぁ。ヒロト君はそんな経験をしたんだね?」
カナタ殿の問い掛けに肯定をしました。
小生が移動魔法を使えない時でしたので、姉上の話になると前置きをしてから以前の事をお話しました。
姉上は自分の足で移動していない場所から王都へは戻れなかった為に、行った事のあるカランまで移動してから移動魔法を使用した、と。
「自分の足で行った場所しか行けない…か。知らない場所への移動は出来ないけど…、誰かに送って貰った帰りがどうかは分からないな…。」
「姉上たちは、その場所まで掛かる距離や時間を理解した上でないと移動が出来ないからと言っていましたが…。」
「そうなんだ。…今度試してみるよ。ヒロト君はどうなの?移動魔法。」
「有難うございます。…小生ですか?どうにか最近使えるようになりました。」
「そうじゃなくて、さっきの質問と比べて…どうなの?」
「姉上に連れて行って貰って、帰る事が出来たので実際に移動していなくても知っている場所へは移動出来るようです。」
試しにカランやガリアにも行ってみましたが、やはり移動出来ました。
実際に移動したのはガリアからカランの間だけですし、それを考えるとわざわざ歩かなくとも知っていれば移動は可能という事のようで。
姉上にご報告した際は狡いと言われました。
それに加えてリゼンのように誰かの魔力に向かって移動する事も出来るようで、その事もお話してみました。勿論、リゼンの事は伏せた上で…ですがね。
「魔力に合わせて移動?…やった事ないけど…ちょっと試してみるよ。」
そう言ってカナタ殿は部屋を出て行きました。足音からして一階に向かったようです。
それから少し待ってみたのですがカナタ殿は現れません。テラやレイチェル殿も気になってそわそわし始めた頃、階段を駆け上がって来る足音が聞こえました。
「ダメだ、出来なかった。何度か試してみたんだけど…無理だったよ。」
「カナタ殿にも出来ないのですか…。」
「ヒロト君は凄いね。どうやるのか教えて貰えないかな?」
「小生も、理屈を理解している訳ではないので何とも…。」
人様に教えられる程理解している訳ではありません。ですが、魔法なるものは想像力が大事だとシオドア殿に教えて頂いたので、小生が何を考えて移動しているのかをお話しました。
「その人の魔力と、個人として知っているかが重要なんだなってのは分かったけど…。そもそも魔力の違いを細かく理解出来ないんだ。ヒロト君は出来るんだね?」
「どうやって、と問われるとお答えし難いのですが…。この魔力は姉上だ、といった具合に分かります。」
「ヒロト…、それって前も言ったけど、探知魔法を一人で出来ちゃうって事になるんだよね…。」
姉上の言葉にテラとレイチェル殿まで大きく頷いていらっしゃいました。
カナタ殿は軽く首を傾げている様子でしたが、小生は探知魔法なるものを少し知っています。小生を探して下さった魔法です。
なんでも宮廷魔術師の方々が複数人で行う大掛かりな魔法だったと聞きました。個人の魔力の探知などそう簡単なものではないとも聞いています。なので姉上には、何でもないように言うなと叱られました。
小生がゴートランドで魔物に追われて迷子になった折、リゼンが探して下さったので普通に出来るものなのだと思っていました…。
「凄いな、流石《女神の加護》があるっていう事かな。こっちではかなり貴重なんだよね、確か。」
「《女神の加護》!?」
「うん、ヒロト君は持ってるよ。それ以外にも幾つか。俺なんて霞んじゃうくらいだよ。」
「カナタは勇者様だよっ。少なくとも私とレイチェルはカナタに救われたんだもんっ。」
「有難う。でも別に落ち込んでなんていないよ?彼は彼なりに、俺は俺なりに戦えば良いんだからさ。」
「カナタ…。」
……小生は戦うつもりなんてありませんがね。
やはり魔王なるものを倒すのが目的、という事なのでしょうか。しかし魔族であるリゼンは魔王など知らないと仰っていた…。それをお話したいのは山々ですが、リゼンの事やゴートランドの話もしないといけなくなりそうなので黙っておきましょう。
「ねぇカナタさん、もし良かったら収納魔法の使い方を教えて貰えないかな?」
「サーシャさんに、ですかっ?」
「ううん、ヒロトに。私が教えても全く使いこなせなくて…。同じ記憶持ちの転生者であるカナタさんなら教える事が出来るかなって思ったんだけど…。」
「あぁ、なるほど。分かりました、構いませんよ。…でも、どうか呼び捨てにして下さい。他人行儀であまり好きではないんです。」
「じゃあ、カナタ。お願いします。」
「は、はいっ。」
最近気付いたのですが、姉上は猫で言うところのミュー殿のような方のようです。ミュー殿はお美しくて色っぽくて、優しい上にお強くて…それでいて女性らしい。誰もが自分の子を産んで欲しいと思う程の方です。
人間の中では姉上はきっとそんな風に見えるのでしょう。ミュー殿を見る雄猫の視線と、姉上を見る男性の視線は似たようなものですから。




