71話
小生が移動魔法の繋ぎ目に落ちた折、目覚めた森はゴートランドの森である事から話し始めたのですが…そこからもう驚かれてしまいました。そしてお二人とも身を乗り出すように心配して下さったので落ち着くように促しました。
こうして元気ですし、もう6年近くも前の話なのですから…。
恐らく、とても運が良かったのだと思います。繋ぎ目に落ちて無事に何処かに出られる事自体が幸運と言えるそうです。その上、落ちた場所が危険なゴートランドだったというのに魔物に襲われる事も無く保護して頂いた。今だからその有難みが分かるというものです。
小生が別の世界で生きていた頃、吏漸という男の家で厄介になっていたと話しました。
鬼だとか家というよりは砦のような、城のような場所だとまではお話しませんでした。此方で言うところの魔族というか…寧ろ魔王ですね、アレは。
その男にとても良く似ていたので、魔族とも知らずに呼び掛けたところ気絶したとお話するとまた心配されてしまいました。魔族は人間を襲うという認識の強い此方の方々にとっては魔族の前で倒れるなんて殺されたも同然ですからね。
リゼンの家には人間の兄妹が居て親切にしてくれたのだとお話しました。シオドア殿に虐められたと言いたかったですが、姉上が怒りそうなので黙っていてあげました。今度お会いしたら感謝して頂きましょう。
リアム殿とシオドア殿がゴートランドに居る理由は不明だと言っておきました。幾ら信頼しているお二人とはいえ、リアム殿の事はお話すべきではないと判断しました。
それでも魔族であるリゼンと恋仲である事はお話してしまいましたが。恋人と一緒に暮らしているというのは自然に感じられたので。
「魔族と、恋人…?魔族に飼われてるとか…。」
「いえ、そんな感じではありませんでした。なんでも、転生者たちとお二人が魔族の討伐にゴートランドに向かって出会ったのが切っ掛けらしいです。」
「そんなに強い人達なんだね…。」
「さぁ、強さの程はよく分かりませんが…、リゼンとシオドア殿が相打ちになったので回復するまで魔物からリアム殿が守っていたそうです。それから愛でも芽生えたのでしょうかね。」
「さらっと話してるけど、それ…あんまり人に言わない方が良いよ?」
「何故でしょう?」
「魔族と仲良くなんてなれないのが当たり前だと思われてるから。私だって怖いもん。…ヒロトを助けてくれた魔族にはお礼くらい言いたい気持ちはあるけどさ。」
やはり魔族と人間は相容れないのでしょうか?
皆さんに魔法の事や戦い方などを教えて頂いたと言うとまたも驚かれてしまいました。ゴートランドでのお話はお二人にとって驚きの連続らしいです。
シオドア殿に聞いた、魔族に名を与える話もしましたが大層驚いていらっしゃいました。
そもそも敵だと認識している魔族相手に名前を与えるなど有り得ない話らしいですからね。使役の際に魔物には名前を与えるというのにどうして魔力を取られないのかが謎です。
「気持ちの問題じゃないかしら?」
「気持ち…?」
「例えばほら、このカップ。誰が見てもカップでしょ?だけど自分のだと分かるようにしておきたい場合は目印を付けるじゃない?それが、使役する時の名付けなのよ、多分。」
「では、小生が行ったのは…?」
「私が、サーシャの名前を付けたようなもの…じゃないかな。」
「それじゃあ母様…つまり、使役の時の名付けは所有物として他と識別する為だけにするもので、ヒロトがしてるのは相手を個人として認めて名前をあげてる…って事?」
「学者さんじゃないから分からないけど、そうじゃないかなって。」
母上のお話で幾らか納得出来たような気がします。それが真実なのかどうかは別として、そういう事なら小生はリゼンを吏漸と思ってしまっていた訳ですし、ヒスイにしても所有物だなどとは思っていませんでした。
…シオドア殿の言葉を思い返してみると、リゼンと同じようにヒスイも能力が上がったのでしょうか?小生は鑑定する事は出来ませんし、以前の能力を知っている訳でもないので比べようがないのですがね。
「思ったより逞しくなって帰ったと思ったら…、ゴートランドに居たのね。それならちょっと納得。…でも、ヒロトが生き抜けるなんて…ゴートランドって案外怖くないのかな?」
「姉上、とても怖かったですよ。リゼンたちが居なければ小生は生きて帰れませんでした、えぇ本当に。」
「あ、はは…、ごめんってば。そんな顔しないで、ね?」
魔物も此方に居るよりもずっと強かったですし、鬼ババアも怖かったです。…リアム殿の料理は絶品でしたので幸福でしたが。
ゴートランドでの事を多少ぼかしつつも全てお話したところで来客があると神官殿が扉の向こうから声を掛けてきました。
姉上ではなく小生に来客だと言うのです。自室に居なかった為に此方に声を掛けて下さったそうですが、小生を訪ねて来るような人物など心当たりがありません。
姉上も一緒に来て下さるというので甘える事にして部屋を出ました。
教会の外に出たところ見覚えのある人達が居ました。
「あ!本当に居た!」
「…あ。」
「確か、ヒロト君だったかな。ちゃんと名乗っていなかったよね、俺はカナタ。彼女たちと共に行動をしている…転生者だ。」
昨日ヒスイの母君を切り伏せた冒険者。カナタと名乗るこの方は転生者だったようです。
ギドに頼まれてコルの実を届けて下さったのも彼等だというのでお礼を言っておきました。
「その節はご迷惑をお掛けしました。それと、コルの実を届けて下さり有難うございました。…では。」
「ちょっと!話は終わってないんだからねっ!?」
「はて、その話ではないのですか?此方からお礼に伺うべきところをわざわざ足を運ばせてしまって申し訳ありません。…これで宜しいか。」
「ちょ…、何なのコイツ!失礼にも程があるっ!」
「……用件があるなら手短にお願い出来ますか?」
「何よ、その態度は…っ!!」
「テラ、落ち着いて。君の態度も良いとは言えないよ。」
「ん…、だってカナタ…。」
カナタ殿が兎の半人との間に入って下さり、改めて用件をお話下さいました。
転生者である小生の事をギドから聞いたので話をしてみたかった、という事らしいです。




