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お局女官と妖精王~宮廷の不正、暴きます~  作者: しの


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第6話:お局様の逆襲! 査問会の大逆転劇

「――ちょっと待ちなさいよ、豚貴族!!」


静まり返った地下大講堂に、私の怒声が雷鳴のように響き渡った。


壇上に並ぶ貴族たちも、取り囲む近衛兵たちも、何が起きたのか理解できず口をあんぐりと開けている。

その中央、証言台に立っていたキースだけが、目を丸くして私を凝視していた。


「ク、クララ……?! お前、一体何やって――」


「あんたは黙って見てなさい!」


私は床を踏み鳴らし、カツン、カツンと乾いた靴音を響かせながら講堂の中央通路を大股で進んだ。

徹夜の潜入捜査で髪は少し乱れ、目の下には薄い隈ができているけれど、今の私の気迫は王宮のどんな高位魔導士にも負ける気がしなかった。勤続十年、なめ腐った貴族どもの書類の粗を何千枚と暴き立ててきた「王宮書記課の古狸」を怒らせたらどうなるか、その身に刻み込ませてやるわ。


「な、なんだ貴様は! ここは神聖なる特別査問会ぞ!」

壇上からヴァルガス財務卿が、二重顎を震わせて唾を飛ばした。

「警備兵、何を突っ立ておる! その無礼な女官をつまみ出せ!」


衛兵たちが槍を構えて駆け寄ってくる。

私は怯むことなく、小脇に抱えていた分厚い黒革のノート――昨夜、金庫から奪還した本物の裏帳簿を高く掲げた。


「動かないで! この帳簿に記された数字を見ても、同じことが言えるかしら?!」


その表紙を目にした瞬間、ヴァルガスの顔から一瞬で血の気が引いた。

豚のように肥え太った頬が痙攣し、目が泳ぎまくる。


「そ、それは……! 昨夜盗まれた……?!」


「ええ、そうよ! 盗まれたんじゃない、あんたが隠していた国家反逆の証拠を、私が回収して差し上げたのよ!」


私は証言台の脇を通り抜け、壇上の議長席の真ん前までずかずかと歩み寄ると、重厚な机の上に裏帳簿をドォォォンッ! と叩きつけた。


「査問会議長、ならびに監査官の方々! 財務課キース・ヴァレンタインの横領容疑は、すべてそこのヴァルガス財務卿とヘンリー係長による悪質な捏造です!」


「で、出鱈目を申すな!」

ヘンリーが金切り声を上げた。

「そ、そんなものは偽造された帳簿だ! キースの罪をなすりつけるための――」


「偽造? あら、随分と滑稽なことをおっしゃるのね、ヘンリー係長」


私は冷笑を浮かべ、懐からもう一枚の羊皮紙を取り出して広げて見せた。


「今朝一番で、書記課の公印管理室から照合してきたわ。この裏帳簿に押されている特殊な印影は、ヴァルガス卿が私用で特注した『ロシュフォール派閥専用の私印』の魔力波長と完全に一致。さらに帳簿に記された送金先――『東方交易商会』の隠し口座の名義人は、ヘンリー係長、貴方の実弟の名前よね?」


「なっ……?!」

ヘンリーが喉を詰まらせ、泡を食って後ずさる。


「過去三年間にわたり、資材購入費と砦補修費の名目で国庫から引き出された金額は、金貨にして八万枚以上! それを穴埋めするために、キースが独断で横領したかのように偽の決裁書を仕立て上げ、彼をスケープゴートにして辺境砦へ追放しようとした……これが、この事件の全ての真相です!」


講堂中が蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。

「金貨八万枚だと……?!」「なんという額だ!」「あの帳簿の魔力印、本物だぞ!」と、監査官たちが次々に帳簿へ群がり、青ざめていく。


「お、おのれぇぇぇっ! たかが平民のお局女官風情がぁぁぁっ!」

完全に追い詰められたヴァルガスが逆上し、懐から護身用の短銃を引き抜いて私に銃口を向けた。


「消えろ、小娘がぁっ!!」


引き金に指がかけられた、その刹那――。


ダンッ! と石畳を蹴る凄まじい音が響いた。


「クララに触るんじゃねえよ、豚野郎!!」


証言台を飛び越えたキースが、疾風のような速さで壇上へ躍り出た。

華麗な回し蹴りがヴァルガスの手首を的確に捉え、短銃が宙を舞って床に転がる。続けざまに繰り出されたキースの強烈なストレートが、ヴァルガスのぶよぶよした鼻面へ深々と突き刺さった。


メキリッ、と鈍い骨の折れる音が講堂に響き渡る。


「ぐぎゃあぁぁぁぁっ?!」


巨躯を誇る財務卿が、吹き飛んで書棚をなぎ倒し、白目を剥いて卒倒した。

返り血を浴びることすらなく、優雅に着地したキースは、息を荒らげながら拳を振るい、呆然とへたり込むヘンリーを見下ろした。


「……言っておくがな。俺はこれでも、実家の借金取り相手に毎日喧嘩慣れしてんだよ。書類仕事しかできない軟弱文官だと侮るな」


キースの鋭い眼光に、講堂中の誰もが息を呑んだ。

いつもの軽薄な遊び人の面影はどこにもない。そこには、愛する居場所と仲間を守るために牙を剥いた、冷徹で誇り高い一人の男の姿があった。


「衛兵ッ!」

監査長が立ち上がり、雷鳴のような号令を下した。

「ヴァルガス財務卿、ならびにヘンリー係長を反逆および巨額横領の現行犯で即刻拘束せよ! 家宅捜索を行い、一味を全員地下牢へぶち込め!」


「「ひ、ひぃぃぃっ?!」」


衛兵たちが雪崩れ込み、失神したヴァルガスと腰を抜かしたヘンリーを縄で縛り上げて引きずっていく。


嵐のような大逆転劇が幕を閉じ、静まり返った講堂の中央で、私はどっと足の力が抜けてその場によろめいた。


「……っと」


倒れそうになった私の肩を、たくましい腕がしっかりと抱き止めた。

見上げると、キースがいつもの飄々とした、けれどどこか泣き笑いのような柔らかい瞳で私を見下ろしていた。


「……無茶しやがって。お局様、心臓に悪すぎるぜ」


「誰が無茶したって? あんたがだらしないから、私が一肌脱いであげたんじゃないの」


私が強がりを言って眼鏡を押し上げると、キースはふっと吹き出し、額を私の肩にぽすんと預けてきた。

耳元で、掠れた囁き声が落ちてくる。


「……ありがとな、クララ。本当に……お前がいなきゃ、俺は終わってた」


至近距離で伝わってくる、男の熱い体温と息遣い。

いつもふざけ合っていた悪友の、初めて見せる剥き出しの感謝と脆さに、私の胸の奥がトクンと激しく跳ね上がった。

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