第一部:共鳴する業(ごう)と契約 8話 【地図の上の目的地】
「これからどうする気だ」
ジークの問いかけに、クロエは言葉を詰まらせた。ギルドの追手については問題ないと言われたが、生活していくためには「収入」が必要だ。そのためには再びギルドの窓口へ戻り、依頼を受けなければならない。しかし、手配中の身でそれは自殺行為に等しい。
「……収入源の確保に頭を悩ませているようだな」
ジークには、まるで腹の中を見透かされているようだ。会ったばかりだというのに、なぜここまで筒抜けなのかとクロエが眉をひそめると、彼はこともなげに言い放った。
「お前は顔に出やすい」
どうやら、すべてが表情に書いてあったらしい。クロエは少し不貞腐れながら正直に答える。
「私の仕事は異形を倒すことだよ。それ以外の方法は知らない」
「なら、俺のところで傭兵の請負をすればいい」
「傭兵……?」
「腕の立つお前なら容易だろう」
その提案は、今のクロエにとって渡りに船だった。しかし、どうしても納得がいかない点がある。
「……なぜ、貴方がそこまで私に心を砕く必要があるの?」
クロエはまっすぐにジークを見据えた。
死地であるあの隔離区域へわざわざ迎えに来たことも、この最高級ホテルのことも、ここまでやってもらうほどの接点はこれまで皆無だったはずだ。
「俺は、お前のことを知っていた。かなり前からな」
ジークの淡々とした告白に、クロエは驚きを隠せない。
「いつから……?」
「おいおい、気が早いな。教えてやるから焦るな。今は傭兵でもやって銭を稼いで、先に進むぞ」
ジークは質問を遮るように、一枚の地図をテーブルの上に広げた。そこには赤く×印が付けられた地点がある。
「目的地はここだ」
「ここは……?」
「この国のギルドもきな臭くなってきたからな。国を移動する」
国を跨ぐ――その言葉の意味する重さに、クロエは息を呑んだ。ただの「逃亡」ではなく、もっと大きな「何か」に巻き込まれようとしている予感。
それでも、今の自分にはジークという導き手以外に道はない。クロエは地図の上、彼が指し示した遥か彼方の地を見つめ、静かに頷いた。




