第一部:共鳴する業(ごう)と契約 9話 【残響と誓い】
深い夜の帳が降りる中、クロエが寝静まっている隣の部屋で、ジークは静かに携帯を耳に当てていた。その声は低く、昼間の傲慢さは鳴りを潜め、鋭い切迫感を帯びている。
「ああ、その将軍の動きを止めろ。こちらに感づかれるな」
ジークの視線は窓の外、国境の向こう側へと向けられている。
「アイツのことが露見するのは避けたい。奴らが動き出す前に、国を抜ける……。ああ、そのとおりにやれ」
淡々と、しかし容赦のない命令を告げて電話を切った。
部屋は静寂に包まれる。ジークはゆっくりと寝室へ足を踏み入れた。そこには、長い逃亡と死闘の疲れを癒やすように、クロエが深く静かな寝息を立てている。
ジークは彼女のベッドの脇に立ち、その華奢な肩からこぼれる髪を指先で梳いた。そのまま、そっと彼女の頬に触れる。隔離区域で荒れた肌は、ようやく滑らかさを取り戻しつつあった。
「今度こそ、守って見せる」
彼が吐き出した声は、誰の耳にも届かない小さな呟きだった。しかし、その瞳に宿る熱量は、かつて愛した女性を失った時の後悔を糧に、より深く、より執拗に燃え盛っている。
「お前は、誰にもくれてやる気はない」
誰にも拾われることのない、彼自身の執着と誓い。
クロエの無防備な寝顔を、ジークは慈しむような、あるいは獲物を品定めするような眼差しで見つめ続ける。
夜の時間は、彼らの運命をより深く絡め合わせるように、残酷なほど静かに過ぎていった。




