第一部:共鳴する業(ごう)と契約 7話 【領域(テリトリー)での夜】
天国のような風呂上がり、テーブルには見たこともないほど贅沢な食卓が広がっていた。立ち上る湯気と香辛料の香りに、クロエの胃が素直に反応する。
「ねぇ、貴方いったい何者なの?」
料理への感嘆と混ざり合い、どうしても拭えない疑問が口をついて出た。ジークはワイングラスに手をかけながら、冷めた瞳でクロエを見る。
「俺がどこの誰でも、お前には関係ないと思うが?」
「でも……」
「とりあえず今は、その空腹を満たすことを考えろ。それが済んだら、これからのことを話し合うぞ」
ジークが静かに料理に手を付け始めた。クロエは納得がいかないものの、目の前の料理に罪はないと言い聞かせ、夢中で平らげていく。空腹が満たされると、先ほどまでの張り詰めた警戒心が少しだけ緩んだ。
食後、ジークに案内された一室へ入ると、そこには隔離区域でも見かけたフードの二人組が控えていた。
「だいぶ血色よくなったんじゃないか、アンタ?」
「ボスに迷惑かけんなよー」
右の男が言えば、左の男が茶化すように続く。
「貴方たちって……」
「ん? 名前か? アンタに区別が付くなら教えてやるぞ」
クロエは挑戦的な響きを受け取り、力強く頷いた。
「俺はアキラ」
「俺はカゲト」
「「双子なんだ」」
どうやら双子らしい。
「潜入任務の時なんかは楽だぜ」と右のアキラが笑い、「入れ替わってもバレないしな」と左のカゲトが続ける。
あまりに淡々と語られる非日常的な会話に、クロエが頭を痛めていると、ジークが鋭い声で割り込んだ。
「頼んだことは終わったのか?」
「はい、ボス。終わってます」アキラが答え、「ギルドには裏から手を回してあります。手出しはしてこないと思いますよ」カゲトが続けた。
ジークは満足そうに頷くと、さらに問いかける。「なら、例の件は?」
「現在調査中です。分かり次第報告します」
二人は手短にそう言うと、影のように部屋を出て行った。クロエはその背中を見送りながら、ぼんやりと呟く。
「……中々個性的な側近を持っているのね」
「アイツらは子供の頃から俺に従っているから、使いやすいだけだ」
ジークはそう言ってカップを置いた。
「使いやすいだけ」という言葉。だが、逃亡者である自分をあえて彼らに引き合わせ、手の内を見せるような真似をした。それは彼なりの「信頼」、あるいは「信用」の証なのだろうか。
クロエの胸の奥で、ジークという存在に対する輪郭が、少しだけ鮮明に、そして深く刻まれていくのを感じた。




