第一部:共鳴する業(ごう)と契約 5話 【灰色の荒野と分岐点】
一週間という時間をかけて、ようやく隔離区域の出口へと辿り着いた。
鉄錆と死臭が混じった空気が、ようやく澄んだ風へと変わる。クロエは大きく深呼吸をすると、積もり積もった疲労と汚れを払うように肩を回した。
「まずは街を見つけないとね。あと、シャワー浴びたい」
ひとりごちていたクロエの耳に、乾いた足音が届く。ジークだ。彼は何のためらいもなく、荒野の先へと歩みを進めていた。
「ねぇ、待って。まだ、貴方についていくとは言ってないんだけど?」
クロエが立ち止まると、ジークは振り返りもせず、不敵な笑みをこぼした。
「好きにしろ。次の街までは最低でも10キロはある。それでもいいなら、自分で何とかするんだな」
彼の言葉は冷淡だが、確かな事実だった。足はすでに限界を超え、震えている。この荒野で一人で生き抜くのは、今の自分にはあまりに過酷だ。クロエは小さく舌打ちをすると、仕方なく彼の背中を追った。
少し歩くと、一台の車が砂塵にまみれて停まっていた。
「これを使えば街まですぐ行けるが……どうするんだ?」
ジークが意地悪な質問を投げかける。車がなければこの距離を歩き抜くのは不可能だと、彼も分かっているはずだ。クロエは喉の奥で言葉を転がし、努めて冷静に言葉を絞り出した。
「……悪かったわよ。乗せてください」
素直に頭を下げると、ジークは鼻で笑った。
「そういうのはいらない。乗れ」
ジークは鮮やかな手つきで運転席に身体を滑らせ、クロエは助手席に腰を下ろした。エンジンが荒々しく唸り、車は舗装すらされていない荒れた道へと突き進んでいく。
窓の外を流れるのは、どこまでも続く灰色の風景だ。確かに、歩いていたら何日かかっても辿り着けなかっただろう。
(この人は、どこまで計算してるの……)
クロエは助手席で、窓の外をぼんやりと眺めた。
荒野を進む車の揺れに身を任せながら、彼女はこの先、自分がジークという「観測者」にどこまで深く引きずり込まれていくのか、その予感に胸の鼓動を早めていた。




