エピローグ ただの人として 48話 【最期ではなく「最初」の純愛】
──それから季節がいくつ巡っただろうか。
人里離れた湖畔、木漏れ日が窓から差し込む小さな小屋。
ジークが目を覚ますと、隣には「兵器」としての緊張感から解き放たれた、無防備で柔らかい表情のクロエが眠っている。かつては殺気と死の匂いに満ちていた二人の空間が、今は穏やかな陽だまりの匂いに満ちていた。
ジークは静かに彼女の頬をなぞる。
クロエは微睡みの中で、ジークの手のひらに頬をすり寄せた。
シーツから覗くクロエの滑らかな肌には、昨日――いや、今朝方まで互いの存在を貪り合うようにして愛し合った、熱い愛の痕跡がいくつも刻まれている。
それは戦いの傷跡とは違う、二人が「生きている」ことを証明する、極めて人間らしくて甘美な証だった。
「……おはよう」
かつて監視者と兵器として、あるいは呪われた運命の二人として呼び合っていた呼称は、そこにはない。ただ、名前を呼び合う。
クロエは誰かに怯えることなく、ただジークの愛だけを感じて深く息を吐く。彼女の吐息はジークの肌に触れ、二人が昨夜、そして今朝分かち合った温もりの記憶を呼び覚ます。
「兵器としての私は、もういないわね」
「ああ。今はただの、俺の女だ」
ジークは愛しげに、その痕跡の一つ一つを指先でなぞる。
呪縛から解き放たれた肉体は、今は互いを求め合うためだけに存在する。死線を乗り越えた先で見つけたのは、終わりではなく、二人にとっての「最初」の純愛だった。




