第三部 最期の純愛 45話 【聖域の果て、微笑みの輪廻】
閃光がすべての闇を焼き尽くし、世界から音が消えた。
崩落する地下拠点の瓦礫の中で、二人は力尽きるようにして沈黙の海に投げ出されていた。
視界が晴れると、そこには怪物だった残骸はどこにもなかった。ただ、二人の周囲には、まるで星屑のような柔らかな光が漂っていた。
その光の中に、かつて「プロジェクト・イヴ」としてポッドの中で眠っていた彼女の姿が、幻影のように浮かび上がっていた。
変貌していた面影は消え、そこにはただ、穏やかな少女の姿がある。
彼女は、クロエをじっと見つめていた。その瞳には、もはや憎しみも、兵器としての虚無もない。ただ、自分を縛り付けていた長い永劫の檻から解き放たれた、安堵だけが宿っている。
「……ありがとう」
声には出ない言葉が、クロエの心に直接響いた。
彼女はクロエに優しく微笑みかける。それは、自分自身を救ってくれたもう一人の自分へ、あるいは、愛する人と共に生きる運命を手に入れた者への、心からの祝福のように見えた。
「――おやすみなさい」
彼女の姿が、光の粒子となって淡く溶けていく。
クロエは無意識に手を伸ばしたが、それは風の中に消えてしまった。けれど、その指先には確かな温もりが残っていた。
「……終わったんだな」
傍らで、ジークが力なく、しかし安堵に満ちた声で呟いた。
彼はクロエの肩を抱き寄せ、倒れ込む。戦いの果てに訪れた静寂。天井が崩れ、地上からの光が差し込み始めている。
サリエールの闇を牛耳った野望は消え、クロエを縛っていた「前世」の呪縛も、こうして終わりを告げた。
クロエはジークの胸に顔を埋めた。聞こえてくるのは、彼自身の力強い鼓動。
あんなに苦しめられた過去の記憶は、今はもう遠い夢のように霞んでいる。
「……ねえ、ジーク」
「ん?」
「私、もうどこにも行かないわ」
ジークは何も言わず、彼女を抱きしめる腕に力を込めた。
外ではアキラとカグヤが合流し、瓦礫の山を乗り越えてくる気配がする。だが、今の二人にとって、それはただの日常の続きでしかなかった。
ただ一つの真実。
呪いを焼き払い、魂を救い、二人はようやく「自分たちのもの」としての未来をその手に掴んだのだ。
降り注ぐ陽光の中で、クロエは目を閉じ、ジークの腕の中で深い休息へと落ちていった。
それが、終わりの始まり――二人だけの、新しい物語の幕開けだった。




