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第三部 最期の純愛 41話 【魂の対峙】

クロエの背後で、かつて「前世」と呼ばれた存在が悍ましい怪物へと変貌を遂げていた。もはや面影など欠片もない。ジークは苦悶に身をよじるクロエを軽々と抱き上げ、瞬時にその場から距離を取った。


「ジーク……私を、置いていって」


クロエが震える声を絞り出す。その瞳に浮かぶのは、自分を巻き込んでジークまで亡ぼしたくないという切実な想いだ。


「そんなこと、できるわけがないだろ」


ジークの叱咤。その迷いのない強い響きに、クロエの胸の奥で安堵の灯がともる。

安全圏まで退いたジークは、彼女を床に下ろした。目の前の怪物は、爆破されたポッドから溢れ出した異形たちを、まるで餌のように太い触手で絡め取り、次々と己の体内に飲み込んでいた。


「デカいな……。ちっ、異形共を喰らって肥大化するつもりか」


持参した爆弾類は既に使い果たしている。膠着状態を打破する術を模索するジークの前に、軽快な足音が響いた。


「ボス、遅くなりました」

「これは何事です? 随分と派手なパーティーですね」


駆けつけたのはアキラとカグヤだった。

アキラは苦しそうにうずくまるクロエの肩をポンと叩く。


「アンタ、大丈夫か?」

「引き寄せられているんだ。……あれに」


ジークの言葉に、双子は顔を見合わせると、同時に上着をバサリと広げた。裏地には、軍用から闇市の裏ルートまで網羅した、ありとあらゆる兵器が並んでいる。


「どれがお好みです? ボス」

「派手に爆発するやつで頼む」


双子は意気揚々と準備を始める。

クロエは激痛に耐えながら、ふらつく足で立ち上がった。


「……お願い、ジーク。私をあそこへ連れて行って」


彼女が指差すのは、巨大化の一途を辿る「彼女」の核。ジークは迷わず首を横に振った。


「今のお前では無理だ」

「私なら、止められるの」


ジークは鋭く目を細める。


「だが、それはお前の命と引き換えだ。認めるわけにはいかない」


クロエの言葉通り、怪物はその質量をさらに増し、天井を突き破らんばかりに膨張している。通常の爆発物など、肌を焦がす程度の花火にしかならないだろう。


「俺たちの爆弾は優秀だぜ。よゆーよゆー」


カグヤが強気な笑顔を見せるが、その瞳の奥には隠しきれない動揺がある。それをたしなめるように、クロエは静かに言った。


「……アンタたちが犠牲になる必要なんてない。それに、犠牲になんてならないわ」


クロエはジークを見上げた。その瞳に宿る意志の強さに、ジークは言葉を詰まらせる。


「……ジーク。貴方がいれば」


その一言に、すべてが込められていた。

ジークは観念したように短く息を吐き、腹をくくった。


「……お前は本当に、言うことを聞かない奴だな。いいだろう」


ジークはクロエを片腕で抱き上げると、双子へ鋭い眼差しを向けた。


「アキラ、カグヤ。援護しろ」

「了解」


双子が交差するように走り抜け、怪物の注意を惹きつける。


「……俺を巻き込むぐらいの勢いでやれ」


ジークの不敵な言葉に、クロエはいつもとは違う仕草で、抱えた彼の頭頂にそっとキスを落とした。


「絶対、止めてみせるわ」


二人は戦火の中へと飛び込んだ。魂を分かち合った存在との対峙という、逃れられぬ運命の終着点へ向かって。

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