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第三部 最期の純愛 39話 【器の反逆】

扉の向こうに広がっていたのは、地獄の光景だった。

無数の生物ポッドが、巨大なホールを埋め尽くしている。空のものもあれば、その中には異形たちが所狭しと詰め込まれ、不気味な胎動を繰り返していた。視線を下ろせば、深い奈落のような地下へと続くパイプラインが伸びている。


「ここで作って、各国に流していたのね……」


クロエは冷たく濁った液体に満たされたポッドを指先で叩き、苦々しく吐き捨てた。ジークは言葉を発する代わりに、いくつかのポッドの接合部に何やら怪しげなデバイスを次々と仕掛けていく。その意図を瞬時に察したクロエもまた、ランダムに爆破用の起爆装置を配置していった。


静かな破壊工作を終えた二人は、さらに奥へと続く重厚な扉を抜ける。


その瞬間、広大な空間に高らかな声が響き渡った。


「よく来たな。まさかわざわざこちらから出向いてくれるとは、ご苦労なことだ」


将軍ガイルだった。彼は軍の威信を象徴するかのように胸を張り、ホール中央にあるひときわ巨大なポッドの前に立ちはだかっていた。


「せっかく来たんだ。この最高傑作を観光していってはどうかね?」


ガイルは背後のポッドを愛おしげに叩きながら、ニヤリと歪んだ笑みを浮かべる。


「これなど見頃だと思わんか? ……分かるかね、クロエ?」


唐突に名前を呼ばれ、クロエは眉をひそめて首を横に振った。


「これは君だよ。といっても、前世のものだがね」


その言葉に、クロエは心臓を掴まれたかのように目を見開き、隣に立つジークを見た。ジークの表情は氷のように冷めきっているが、その瞳の奥では、将軍を今すぐ叩き潰さんとばかりに怒りの炎が渦巻いている。


「男の方は見覚えがないね。まぁ構わん。君の前世はよく働いてくれた。彼女の細胞のおかげで、我々は異形を自在に生み出せる。だがね、致命的な欠陥がある。……魂がないのだよ」


ガイルはジークなど存在しないかのように、クロエだけに焦点を合わせて饒舌に語り続ける。


「魂がないとどうなると思うかね?」

「……ただの、器」


クロエが短く答えると、ガイルは快哉を叫んだ。


「そうだよ! 器にすぎんのだ! 制御が効かず、兵器としては三流に成り下がる。今は各国に流して戦争を誘発させるという回りくどい方法を取っているが……君だ! 君がいれば全てが変わる!」


ガイルは熱に浮かされたように大きく手を広げた。


「君という魂があれば、ただの器は『完全な兵器』へと進化するのだよ!」


その合図とともに、ホール中の隠し扉が開き、重武装の兵士たちがジークとクロエを完全に包囲した。ガイルは勝ち誇ったように、クロエを見下ろす。


「さて、ここまで言えば分かるな? 大人しくその女を渡してもらおう」


死の包囲網の中で、クロエは静かに、そして皮肉な笑みを浮かべて口を開いた。


「貴方の誇るその『器』たちは、無尽蔵なわけではないのよね?」

「……何を言う。このプロジェクト・イヴの製造には途方もない手間と時間がかかっておるのだ!」


ガイルの言葉を聞き、ジークとクロエは同時に笑みを深くした。クロエが躊躇うことなく、懐から取り出したスイッチを掲げる。


「なら、これは何だか分かるかしら? そう、貴方の大事な『器』たちを、根こそぎ破壊する合図よ」


クロエが親指を押し込む。次の瞬間、先ほどまで二人が通ってきたホール後方から、凄まじい爆発音が響き渡った。ポッドが砕け散る乾いた音と、異形たちの絶叫が、サリエールの心臓部を支配し始めた。

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