第三部 最期の純愛 37話 【闇の中の侵入者】
サリエールの心臓部である最大拠点の周辺は、深い静寂に包まれていた。
アキラとカグヤは、施設外郭の送電施設へ潜り込み、事前に仕込んだウイルスを一斉に起動させていた。
「……送電網の遮断完了。全域、停電確認」
アキラの無機質な報告が無線に入る。その瞬間、サリエールの巨大な施設群を支えていた街灯や外壁の照明が一斉に消え、拠点は闇の底へ沈んだ。
「アキラから合図が来た。いくぞ」
ジークの短い言葉に、クロエは力強く頷いた。二人はあらかじめ用意していた暗視ゴーグルを装着し、漆黒に染まった拠点内へと滑り込む。アキラとカグヤの工作は完璧だった。警備兵たちは突如訪れた暗闇とシステムの混乱に翻弄され、二人がすぐ傍を通り抜けていることにも気づかない。
二人は影のように渡り廊下を駆け抜け、地下研究所へ続く専用エレベーターへと辿り着いた。扉が閉まり、下降を始めるのを感じて、ようやくクロエは小さく息を吐いた。
「アキラとカグヤのおかげで、侵入はバレてないね」
クロエの言葉に、ジークはゴーグルを調整しながらわずかに笑った。
「ああ、上出来だ。だが、問題はここからだ。研究所は外部とは独立した電源系統を使っているはずだ」
ジークの予見は的中していた。
エレベーターが地下深くで停止し、扉が開いたその先は、先ほどまでの闇が嘘のような光の世界だった。蛍光灯が白く冷たい輝きを放ち、どこまでも続く無機質な白い廊下が、二人の行く手を阻むように真っ直ぐ伸びている。
「……煌々と明るいな」
ジークの表情が、一瞬で「支配者」の冷徹な仮面へと戻る。
二人は、事前にカグヤがハッキングで入手していた施設の地図を脳内で反芻しながら、目的地である「プロジェクト・イヴ」の深部へ向けて足を速めた。白い廊下に響く二人の足音だけが、警戒すべき敵たちへの合図のように、冷たく響き渡っていた。




