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第三部 最期の純愛 36話 【残り香と、愛の誓い】

明日の決戦を目前に控え、夜の帳が降りたホテルの室内。静寂を破るように、ジークの寝室の扉を控えめなノックの音が叩いた。


「どうした? 眠れないか?」


扉を開けたジークが問いかけると、クロエは言葉を返さず、背後から彼を強く抱きしめた。ジークの体躯が小さく震える。


「……ジークにお願いがあって」


ジークは背中を包み込むクロエの小さな手を握り、それを解くようにして彼女と向き合った。その瞳には、すでに隠しようのない熱が宿り始めている。クロエに手を引かれるままソファに腰を下ろすと、二人の視線が甘く絡み合った。


「ジーク」

「クロエ」


名前を呼ぶ声は、祈りにも似ていた。導かれるように重なる唇。触れるだけの淡い口づけは、やがて甘い音を立てる濃密な接吻へと変わり、二人は互いの存在を確かめるように深く、激しく求めあった。


「ジーク……お願い。あなたの跡を残して。あなたで満たして」


潤んだ瞳で見上げ、吐息混じりにねだるクロエ。その言葉は、ジークの理性という理性を焼き尽くすには十分すぎた。


「……言っている意味が、分かっているのか?」


問いかける声は掠れ、意志とは裏腹に身体は火照りを増していく。クロエは答えの代わりに、しなやかな両腕を彼の首に絡みつかせた。


「あなたと、一つになりたい」


その耳元での囁きに、ジークは言葉を失った。彼は何も言わず、その逞しい腕でクロエを軽々と抱き上げると、寝室のベッドへと優しく、しかし抗いがたい力で押し倒した。


「……待てはできないぜ?」

「言わないよ」


クロエは迷いなく、彼の肩に指を這わせた。

「優しくしてやれないかもしれない」


そう言って自嘲気味に目を伏せるジークの睫毛に、クロエは愛おしげに口づけを落とす。


「いいの。あなたでいっぱいになりたいの。……一つになって」


その純粋な渇望を、ジークは再びの口づけで封じた。

顎を手に取り、呼吸すら奪うほど深く絡め合うキス。シーツが擦れる音が静かな室内に響き、二人の影は薄暗い寝室の中で幾重にも重なり合う。


ジークは彼女の鎖骨から肩へと、まるで刻印を刻むように熱い吐息と痕跡を残していった。クロエの肌は羞恥と興奮でバラ色に染まり、抗うことのできない熱の中に溶けていく。


力強い抱擁と、細やかな愛撫。二人は互いの体温を貪り、肌と肌を密着させることで、明日という不確かな未来への不安をすべて塗りつぶしていった。


支配する側と、される側。そんな境界などとっくに消え失せていた。そこにあるのは、ただ互いを求め、互いの存在を刻み込みたいという、極めて人間的で、抗いがたい情愛だけだった。


銀糸のように絡まり合う吐息。二人は互いの心臓の鼓動を、皮膚を通じて一つに重ねていく。外の冷たい空気とは対照的な、むせ返るような愛の香りと熱が、その小さな聖域を支配していた。


明日、世界がどうなろうと構わない。この瞬間の絆だけが、今の二人にとっての全てだった。

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