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第三部 最期の純愛 35話 【決意の夜】

境界を越え、身分証を偽造してサリエール国内へ。ジークたちが拠点とするホテルの一室で、作戦会議が行われていた。

クロエは会議の喧騒を背に、先にお風呂へと向かった。湯気で満たされた浴室で、彼女は鏡の中に映る自分の身体を見つめる。そこには、昼間の出来事を証明するように、肌に異形特有の禍々しい刻印が薄く浮き上がっていた。


「……私は、どうなるの?」


自分の力の正体も、その終わり方も知らない。

その恐怖が、ふと過去の記憶を呼び起こす。かつて剣を教わった師範の、厳しくも哀しげな言葉。


『お前はいつか、その力に飲み込まれる時が来るだろう。抗うためには、鋼の精神が必要だ』


師範は最初から、この結末を予見していたのだろうか。

今はもうこの世にいない師範に問う術はない。しかし、クロエは鏡の中の刻印を指でなぞりながら、自分に言い聞かせた。

かつては孤独だった。けれど今は、ジークがいる。一人じゃない。そう思えるだけで、恐怖は静かな決意へと変わった。


身支度を整え、クロエは作戦会議が行われているリビングへ戻った。


「アンタ、顔色悪いけど大丈夫か?」


アキラが鋭い視線を投げかける。クロエは小さく首を振り、彼に微笑んで見せると、地図を囲むジークの正面へと歩み寄った。


「ジーク、私にも教えて」


彼女のまっすぐな瞳に、ジークは短く頷いた。


作戦の全容。明日の夜半、アキラとカグヤが送電施設を無効化する合図を皮切りに、一気に拠点を制圧する。

ターゲットは、サリエールの闇を牛耳る将軍ガイル。彼こそがクロエの力を喉から手が出るほど欲し、異形を兵器として操り、他国への侵略を画策している元凶だった。


「この国は……私が育った場所だから」


ギルドからは追放され、異形としての力に怯える身の上となっても、クロエの心にはこの国への愛着が残っていた。

守れるものなら、守りたい。


「……命がけの任務になる。いいんだな?」


ジークの問いかけに、クロエは迷いのない瞳で答える。二人の決意は重なり、静かなホテルの部屋に、これから始まる嵐の前の重苦しくも力強い空気が流れていた。 


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