第三部 最期の純愛 32話 【闇を切り裂く双子の影】
サリエールの路地裏、冷たい石壁の陰に身を隠しながら、アキラとカグヤは手早く食料を口に運んでいた。乾いたパンを咀嚼しながら、アキラが鋭い視線を正面の施設へと向ける。
「次の目標はあれだ。あそこでハッキングすれば、奴らの防衛網の骨格まで情報が取れる」
アキラの言葉に、カグヤは静かにモニターを確認した。
「かなり危険な作業になるわ。ボスに一度報告を入れる?」
カグヤの問いかけに、アキラは首を横に振った。
「いや、結果だけ報告しよう。……ボスのために、最高の手土産を用意するんだ。協力しろよ?」
アキラがいたずらっぽく笑うと、カグヤもまた不敵に唇を吊り上げた。
「もちろんだぜ」
サリエールの主要な施設が集まる区域。張り巡らされた監視カメラと、武装した警備兵の目を完璧な連携でくぐり抜け、二人は目的のコントロール室へと辿り着いた。
カグヤが即座にコンソールをジャックし、外部からの侵入を遮断する。その傍らでアキラがメモリを差し込み、次々と重要機密をコピーしていった。必要な情報を瞬時に判断し、不要なデータは捨てる。二人の息は、もはや言葉を介さずとも完璧に合致していた。
「次はどうする、アキラ?」
カグヤの問いに、アキラは画面を見つめたまま答える。
「ここだ。送電施設がある。こいつを無効化しつつ、制御システムにウイルスを仕込んでおく。警備が混乱している間に、サリエールを暗闇に叩き落としてやるよ」
アキラは全ての作業を終えると、手早くメモリを抜き取った。
前準備がすべて完了した夜、ジークの携帯に一本の連絡が入る。
「ボス、準備は完了です。いつでもいけます」
アキラの報告に、ジークは短く、しかし深い信頼を込めて「よくやった」と労いの言葉をかけた。
「……それで、決行日は?」
電話口のカグヤの問いに、ジークは地図を睨みながら答えた。
「三日後だ。ここから国内へ潜入するにも時間がかかる。それまでに国内へ入るための身分証明と紹介状を用意しておけ」
ジークの新たな任務に双子が頷き、準備へと戻った。
嵐の前の静けさが戻った隠れ家で、ジークは寝室へと足を運んだ。部屋に入ると、クロエは一日の疲れからか、天蓋付きの大きなベッドに体を埋めて深く眠りについていた。
ジークは静かに歩み寄ると、彼女の額にそっとキスを落とす。そして、隣に横たわり、温もりを確かめるようにクロエの体を抱き寄せた。
「必ず、守る」
その呟きは、クロエの体に表れ始めた異形の能力による暴走の予兆に対してか、それともサリエールという強大な敵に対してか。闇の中で目を閉じたジークの決意は、誰にも知られることなく、ただ深く暗い夜へと溶けていった。




