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第三部 最期の純愛 31話 【嵐の前の甘い夜】

暖炉の部屋で鳴り響いた携帯を、クロエはすぐさまジークの元へと届けた。受話器を耳に当てたジークは、鋭い眼光で何かを淡々と話している。


「平穏っていうのは、本当に続かないものね……」


クロエが少しだけ肩を落として呟くと、通話中のジークは大きな手でクロエの頭を優しく撫で、そのまま自然な動作で彼女の腰を引き寄せた。あまりにも流れるような愛情表現に、クロエの頬は一瞬で熱を帯びる。だが、彼が腕の中に包み込んでくれるだけで、胸の奥底でざわついていた不安が嘘のように消えていくのを感じた。


ジークは通話を切ることなく、そのままクロエを連れてソファへ向かうと、彼女を自身の膝の上に乗せた。そして、自分の肩にクロエの頭を預けさせ、その頬に自身の頬を擦り付ける。あまりの甘い行動にクロエが頭の中をパニックにさせている間に、通話は終了した。


「……ジーク、わざとやってる?」


羞恥で真っ赤になった顔で抗議の視線を向ければ、ジークは楽しそうに彼女の鼻先を指先で軽く突いた。


「そんな可愛い顔をしても、逆効果だぞ」


「まずは、飯にしよう」


ジークは名残惜しそうに、もう一度だけ強くクロエを抱きしめてから、膝の上から解放した。キッチンへ戻った彼は、出来上がっていた料理を器に盛り付け、手際よくテーブルに並べていく。


「味は、まぁ……大丈夫だろう」


並べられた料理の数々は、彼が牛耳る裏組織の冷徹な長とは思えないほど、繊細で美しい飾り付けが施されていた。クロエがそっと口に運ぶと、口いっぱいに豊かな風味が広がり、思わず頬が緩む。


「美味しい……!」


嬉しそうに次々と口へ運ぶクロエを眺め、ジークは優しく微笑んだ。


「急いで食べなくても誰も取らない。ゆっくり食え」


その言葉に、クロエはまたしても恥ずかしさがこみ上げ、顔を伏せた。


食事が終わると、ジークはクロエを別の部屋へと招き入れた。壁一面にモニターが並ぶ、作戦指令室のような空間だった。


「これは……?」


「少し待ってろ」


ジークは椅子を引いてクロエに差し出すと、自身はキーボードに向き直る。彼が打ち込むと、中央のメインモニターが切り替わった。映し出されたのはサリエールの詳細な地図だ。武器庫、食料庫、コントロール室、司令室、研究所……主要な拠点が網羅されている。


「仕事が早いな……。後、そこは……そう、気をつけろ」


ジークは画面を見ながら、双子のアキラとカグヤへ即座に的確な指示を飛ばしていく。


「こうして情報が集まってきたものを精査する。突入までもう少し時間がかかるが、ここなら奴らにも見つからない。安心しろ」


先程のクロエの不安を汲み取ったようなその言葉に、胸が温かくなる。


「今日は疲れただろう。寝室を案内する」


ジークに案内された寝室で、クロエはふと立ち止まり、問いかけた。


「ねぇ、貴方はどこで寝るの?」


「……一緒に寝る気か?」


その言葉に、クロエは一瞬で顔を赤く染め上げた。


「あ、いや……あ、うん。その、そのほうが安心できるなって……」


だんだんと声が小さくなる彼女を見て、ジークは笑いが止まらなくなっていた。


「そんなに笑う?」


「いや、あまりにも可愛くてな。なら、この部屋で待ってろ。仕事を終えたら戻ってくる」


ジークはそう言うと、扉に手をかけたまま身を屈め、クロエの唇に触れるだけの淡い口づけを落とした。


「先に寝てても構わないからな」


彼がモニターのある部屋へと戻っていく背中を見送りながら、クロエは高鳴る鼓動を抑えられなかった。


「サリエールに乗り込むことになるんだから、しっかりしないと……」


自分にそう言い聞かせるが、指先が自然と、先ほど唇に触れた彼の感触をなぞる。


「……起きて、ようかな」


再びの口づけを淡い期待と共に夢見て、クロエは寝室の扉の向こうへと足を踏み入れた。

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