表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/50

第三部 最期の純愛 30話 【つかの間の幸福と、鳴り響く警鐘】

「とりあえず、日用品と食材を買い足すか」


暖炉の火を眺めながらゆったりとした時間を過ごしてしばらく経った頃、ジークが立ち上がりそう言った。クロエは小さく頷き、外套を羽織ると、車へ向かうジークの背中を追った。


拠点から一時間ほど車を走らせると、活気ある街が見えてきた。街の入口にクラシックカーを停め、二人は石畳の露店通りへと足を踏み入れる。


「あら、ジーク様じゃないかい。彼女連れなんて、長生きするもんだねぇ」


通りすがりの露店のおばちゃんが、目を丸くして声をかけてきた。ジークは顔をほころばせ、隣に立つクロエの肩を抱き寄せる。


「ああ。やっと手に入れた宝だからな。見せびらかしたくなったんだ」


おちゃめに笑って返すジークに、おばちゃんは「こりゃあお似合いだ!」と感嘆の声を上げた。クロエは頬を真っ赤に染めながら、露店に並ぶ瑞々しい野菜に目を向けた。ジークと何気ない会話を交わしながら、新鮮な食材を選んでいく。


肉屋、魚屋と回り、最後には衣料品店にも立ち寄った。気づけば車の後部座席は、二人にとっての新しい生活を象徴するような戦利品でいっぱいになっていた。


帰りの道中、助手席に座るクロエは、穏やかな景色を眺めながら楽しそうに歌を口ずさんでいた。


「あまり聞き覚えのない歌だな」


ジークがハンドルを握りながら尋ねると、クロエは少しだけ微笑んだ。


「これは故郷の詩なの。もう歌える人はいないけどね、私以外」


一瞬、彼女の瞳が遠い過去の記憶をなぞるように翳ったが、すぐにまた明るい表情に戻る。


「……ねえ、ジーク。今度、あなたにも教えてあげるね」


楽しそうに提案するクロエに、ジークは短く「ああ」と頷いた。


拠点に戻り、買い出したものを片付けていた時のことだ。クロエは目を丸くした。


「ジークが、ご飯を作ってくれるの?」


キッチンには、エプロンを腰にしっかりとくくりつけ、どこか気合の入った様子のジークが立っていた。


「まぁ、楽しみにして待ってろ。極上のものを食わせてやる」


ジークに背中を押されるように、クロエはキッチンを後にした。二人の温かな生活が、今まさに始まろうとしていた。


食卓が並ぶリビングを抜け、暖炉のある部屋に戻ったクロエ。火の揺らめきを見つめながら一息ついたその時、部屋に置いたままになっていたジークの携帯電話が鋭い音を立てて鳴り響いた。


静寂を引き裂くような着信音。それはまるで、二人に許された幸せな時間はここまでだと告げる、残酷な警鐘のように聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ