第二部 真実の対峙 26話 【残響と、愛の言霊】
「お前が予想外のことを言うものだからな」
ジークは大きな手のひらで自身の顔を覆い、言葉を詰まらせた。クロエは彼を覗き込むようにして、少しだけ意地悪く微笑む。
「返事になっていないけど、まあいいや。……ただ、貴方が私を、クロエという人間をどう思っているのか、知りたかったのよ」
彼女は照れ隠しにジークへ背を向け、ぽつりと呟いた。次の瞬間、ジークがその小さな肩を背後から優しく、しかし強く抱きしめる。
「俺は、お前を。クロエを――」
ジークが愛の言葉を紡ごうとしたその時、クロエが素早く振り返り、彼の唇を指先で押さえた。
「やっぱり、いいや。聞きたくない」
「なぜだ?」
ジークはその大きな手で、彼女の指先をそっと握りしめる。
「自分に都合のいいように聞こえちゃうかもしれないから……」
顔を真っ赤に染め上げるクロエを見て、ジークは心底愛おしそうに目を細めた。彼は彼女の耳元で、甘く、しかし確固たる意志を込めて囁く。
「ああ、都合のいいように解釈すればいい。俺は、お前を愛している」
足元には先ほどの将校の亡骸が転がり、背後には時を刻む爆弾が備え付けられたサーバーがある。あまりに異常で死の匂いに満ちた状況。だが、クロエはそんなことなど気にも留めなかった。
「ほ、本当に?」
「ああ。お前は? 俺は、お前のものなのだろう?」
先ほど彼女が口にした言葉をなぞるように問うと、クロエは恥ずかしさを捨て、ジークの深いダークルビーのような瞳を真っ直ぐに見つめ返した。
「私は、貴方のものよ。貴方が私を見ない時も、ずっと……クロエという個人を見てほしいって、願っていたわ」
ジークの手が優しく彼女の顎をすくい上げる。二人の唇が重なり、甘い口づけが交わされた。過去という亡霊から解き放たれ、今はただ、目の前のクロエだけが彼の世界のすべてだった。
――そこへ。
「ボス!! 準備はできましたか!?」
空気を一切読まない双子の声が響き渡った。クロエは驚いてジークの胸から飛び退き、しどろもどろになる。
「あ、こ、これは……」
ジークは動じることなく、淡々と答えた。
「あとは外に出て爆破するだけだ」
「……なんで貴方は、そんなに飄々としていられるの?」
クロエの問いに、ジークはニヤリと不敵に笑う。
「ああ、続きか? それならここを出てからにしよう」
見当違いの、しかしあまりに幸せそうな返答。クロエは赤くなった顔を両手で抑え、双子を突き飛ばすようにしてサーバールームを足早に去った。
残された双子は顔を見合わせ、ボスであるジークを見やる。
「……ボスの探し人、見つかったんすね」
アキラの茶化すような言葉に、ジークは短く、しかし噛みしめるように答えた。
「ああ」




