第二部 真実の対峙 25話 【排除と、愉悦の綻び】
破壊された扉の向こう、舞い散る粉塵と瓦礫を掻き分け、二人は中央サーバーへと到達した。爆発の衝撃にも耐え抜いたその部屋は、冷ややかな静寂と鈍い金属の輝きに満ちていた。
「ああ、これを取り付けてくれ」
ジークに託された爆弾を、クロエは迷いのない手つきでサーバーの要所へと設置していく。最後の一個をセットし、二人がその場を離れようとした刹那――乾いた銃声が響いた。火花がクロエの足元で弾ける。
「……ネズミが、深くまで入り込んでいたか」
煙の向こうから現れたのは、数多の勲章を胸に飾った将校だった。男はクロエを視界に捉えると、品定めするように目を細める。
「見たことのある顔だ。……ああ、貴様か。連中が血眼になって探している『特異点』というのは」
将校が傲慢に一歩、また一歩と距離を詰めてくる。ジークはクロエを庇うようにして一歩前へ出た。
「お前は知らない顔だな。まあいい、死にゆく者に語る言葉はない。おい女、こっちへ来い」
クロエは将校を鼻で笑い、挑発するように舌を出した。
「これが、見えないのかしら?」
無造作に銃を弄びながら、クロエはジークの背後から将校の足元のパソコンを正確に撃ち抜いた。「別に、武器なら持っているのだけれど?」
クロエのあからさまな挑発に、将校の目が血走る。
「態度がなっていないな。俺が徹底的に矯正してやる。研究施設で、自ら実験体に志願するほどにな」
その言葉を聞いた瞬間、今まで沈黙を守っていたジークが冷笑した。
「……逆だな。今、お前が俺たちに頭を垂れるんだ」
ジークの掌が宙を舞うように動くと、赤と黒の渦巻く霧が奔流となって将校の脚に絡みついた。男は無様に転倒し、そのまま霧の鎖に全身を縛り上げられる。カエルが潰れたような無様な声を上げる将校に対し、男はなおも醜悪な言葉を吐き捨てた。
「……お前の前で、その女を……殺して、犯して――ひひひ」
その瞬間、場の空気が凍りついた。クロエはジークの肩越しに足を踏み出し、将校の額に銃口を押し当てた。
「これは対異形用。お前の頭なんて、木っ端微塵になるわ」
普段の彼女からは想像もつかない、底冷えするほど冷徹な声音だった。
「……ねえ。誰のものに向かって、そんな口を利いているの?」
将校が喉を鳴らし、恐怖に引き攣る。
「お前らに、私のものをやるわけないでしょう。……死ね」
躊躇なき引き金。炸裂した銃声と共に、将校の頭部は原形を留めぬほどに砕け散り、クロエの白い頬にも鮮烈な血飛沫が飛び散った。
静寂が戻った部屋で、クロエは銃を下ろしてジークを見上げた。
「……何、その顔」
ジークは自身の表情を自覚できていなかった。愛する者の容赦なき強さに、そして自分への絶対的な執着に、喜びのあまり顔の筋肉が制御を失い、完全に崩れた笑みを浮かべていたことにすら気づいていなかったのだ。




