第二部 真実の対峙 18話 【語り始められた永遠の罪】
無数のモニターが青白く輝く指揮室の中、クロエは努めて平静を装いながら問いかけた。
「ねぇ、ジーク。なんで貴方は、そんなふうに……『監視者』なんていう、終わりのない役目をしているの?」
ジークは即答を避けた。彼はゆっくりと指揮椅子の背もたれを引き寄せ、まるで重い歴史を背負うかのように深く腰を下ろす。
「……長い話になる。信じられないかもしれないぞ?」
その言葉に、クロエは迷わず胸を張った。
「貴方には命も救ってもらったし、ここまで守ってもらえているのに。貴方の過去に何もないなんて、逆に信じられないわ」
クロエの屈託のない言葉に、ジークの瞳が一瞬だけ細められた。彼は傍らにあったもう一つの椅子を引き、そこに座るようにクロエを促した。
「そうか。……なら、まずはこの世界の在り方から教えよう。今や知る者もほとんどいない、歴史の裏側の話だ」
ジークはコンソールを指先でなぞり、地図上に浮かぶ赤い点――異形生成地帯――をすべて一つに繋ぎ合わせた。画面上に浮かび上がったのは、不気味な幾何学模様だった。
「かつてこの世界には、限界を超えた『知』を追い求めた時代があった。神に等しき力を手に入れようと、人間は己の魂すらも研究材料にしたんだ。その研究は失敗し、制御を失ったエネルギーが大地に染み込んだ。それがあらゆる異形を産み出す呪いとなった」
ジークは一度言葉を切り、重苦しい空気を纏って続けた。
「残酷なことに、この世界に存在する能力者はすべからず『討伐』という形でしか、異形を消し去ることができない。だが、お前は違う。お前にあるのは、異形を引き寄せる力と、その存在を直接消し去る力だ。討伐などというまどろっこしい手順はいらない。お前が触れれば、異形は根こそぎこの世から消滅する」
クロエは息を呑んだ。幼い頃、一度だけその力を暴走させ、周囲のすべてを消し去ってしまった恐怖が脳裏をよぎる。ジークはクロエの表情を覗き込むようにして言葉を継いだ。
「異形にとってお前は脅威だ。そして、各国には研究所の跡を継ぐ意思を持つ者もいる。そいつらにすれば、お前は『宝』だ。異形を消すことができるということは、その力を別の形で利用できるかもしれないということだからな」
クロエは震える自身の手を見つめた。掌に意識を集中させると、指の隙間からじわりと黒い霧が溢れ出し、手のひらの周りを渦巻くように回転し始める。
「私の力は、なんなの……? なぜ、貴方がそこまで知っているの?」
ジークが口を開こうとしたその刹那、要塞中にけたたましいアラーム音が鳴り響いた。モニターの群れが赤く点滅し、指揮室の空気が一変する。
『ボス、侵入者です。それも複数います』
スピーカーから流れてきたのは、聞き覚えのある忠実な部下の声だった。ジークは迷いなくコンソールを叩き、通信に答える。
「アキラ、全員殺せ。生きて返すな」
『はい、ボス』
即座に了承の意が返される。ジークは立ち上がり、クロエに向き直った。
「続きは邪魔者を消してからだな。お前はここに――」
ジークの言葉を遮るように、クロエは椅子を蹴って立ち上がった。その瞳には、かつての迷いはなく、むしろ熱を帯びた闘志が宿っている。
「もしかして、私関係の侵入者なの? なら、私も出るよ!」
やる気満々に身体をほぐし始めるクロエを見て、ジークは短くため息をこぼした。彼女をここに隠し通すことは不可能だと悟ったからだ。
「……拠点を壊すなよ」
それだけ言い残すと、ジークは腰のホルスターに手を掛け、侵入者たちが待つ要塞の深部へと大股で歩き出した。クロエはその後を追うように駆け出し、二人は硝煙の予感に満ちた廊下へと飛び込んでいった。




