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第二部 真実の対峙 15話 【静かなる檻の軋み】

要塞での生活が数日を過ぎた。張り詰めていた神経が、少しずつこの無機質な贅沢に馴染んでいく。食事は一流のシェフが供し、設備も申し分ない。かつて隔離区域で灰色の粥を啜っていた日々が嘘のようだ。


身体を動かしている間だけは、あの得体の知れない不安を忘れられた。クロエはトレーニングルームで重厚なサンドバッグを叩き続け、滴る汗を拭う。この拠点は、確かに守られているという実感が湧く場所だった。


だが、その安らぎを塗りつぶすように、ジークの異変が影を落としていた。あの日、「誰と重ねているのか」と問い詰めて以来、ジークの態度は揺れ動いていた。視線を絡ませたかと思えば急に背を向け、かと思えば、まるで何かにすがるような眼差しでクロエを見つめていることがある。


ある夜のこと。クロエは喉の渇きを覚え、キッチンへと向かった。薄暗い廊下の先、開け放たれた指揮室の扉から、かすかな灯りが漏れている。ジークの背中が見えた。彼は椅子に深く腰掛け、手の中にある小さなペンダントを、まるで祈るように握りしめていた。その背中は、支配者としての冷徹さを欠き、ただただ深く、出口のない苦悩に沈んでいるように見えた。クロエの気配に、ジークは素早くペンダントを懐に仕舞い込み、振り向いた。


「……こんな時間まで起きているのか」

「寝付けなくて。……ジーク。ずっと避けているでしょう」


クロエは一歩踏み出し、真っ直ぐに彼を見据えた。ジークは深いため息をつき、逃げ場のない視線をクロエに固定した。


「誰と重ねているかと聞いたな」


ジークが椅子から立ち上がると、夜の冷気に触れたのか、冷たい手でクロエの頬に優しく触れた。


「お前は転生を信じるか?」

「転生?」

「魂が巡るということだ」


ジークの言葉に一瞬目を丸くするクロエ。補足の説明に少し頭をひねる。その姿を愛おしく思ったのか、ジークから笑みがこぼれる。


「あるんじゃないかな。人は死んでも魂は残ると思う」


クロエの出した答えに満足そうに頷き、ジークが続けた。


「その答えだけで十分だ。避けていてすまなかったな。籠ってばかりだと疲れるだろう、明日は街にでも行ってみるか?」


ジークの提案に大きく頷くクロエ。


「行きたい」

「お前が想像しているような場所かはわからないが、この辺りでは比較的安全で大きな街だ。さあ、もう寝ろ」


ジークに追い出されるように、キッチンを後にしたクロエ。残された指揮室で、ジークは静かに呟いた。


「魂は巡るか、そう、だな」


その呟きは、重厚な要塞の闇に吸い込まれ、空気に掻き消えた。

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