第一部:共鳴する業(ごう)と契約 13話 【境界の彼方、箱庭の果て】
装甲車が、獣の咆哮のようなエンジン音を轟かせる。国境を封鎖する巨大な鉄壁へ、一切の減速なしにその先端が突き刺さった。
凄まじい衝撃が車体を襲う。壁がひしゃげ、火花と鋼鉄の破片が夜空に舞う。上部のハッチから半身を出して乱射を続けていたクロエは、その激しい揺れに身体が宙へと跳ね上げられた。
「っ……!」
吹き飛ばされそうになった彼女の腰を、運転席のジークが片手で掴み、強引に車内へと引き戻す。そのまま座席に押し込むと、ジークは荒々しく告げた。
「舌を噛むぞ。口をふさいでおけ」
ジークの言葉と同時に、装甲車のエンジンが一段と高い悲鳴を上げた。限界を超えた加速が、壁の残骸を塵に変える。破壊の音が重なり合い、異形も、立ち塞がった国境守備隊の精鋭たちも、車体によって無慈悲に跳ね飛ばされていく。
轟音、硝煙、そして降り注ぐ鉄の雨。
すべてを蹂躙し、装甲車は境界の向こう側へと躍り出た。
サリエールの冷たい夜の空気が、車内に流れ込む。
後ろを振り返れば、鉄壁に大穴が開いた国境線が遠ざかっていく。追手たちの怒号も、異形の咆哮も、今はもう遠い過去のようにかすんで聞こえる。
ジークはアクセルを緩めない。彼は冷徹な瞳で、闇の深まる前方を見据えていた。
「越えたか……」
クロエが肩で息をしながら、荒れた髪を払う。その眼差しは、先ほどまでの激昂とは違う、どこか虚無的な輝きを帯びていた。
二人は今、管理者たちの箱庭を抜け出した。
だが、それは安息への入り口ではない。ここから先は、彼らを待ち受ける真実と、果てなき追跡の始まりの地。
装甲車は、夜の闇に吸い込まれるようにして、何もない荒野の向こうへと走り去っていった。
【第一部:共鳴する業と契約 完】




