↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
368/370

第365話 退魔成聖

「これが、ガゼルの聖剣…」


一見、普通の長剣である。特殊性も神秘性も感じられない。大きな岩に突き立った剣は、柄にもどこにも装飾はなく、宝石の類も何もない。


ただ、剣の周りには、不可思議な圧力を感じた。人を拒む大いなる意志のようなものが。


「なんだよ。ガゼルの聖剣というから、どれだけ凄い宝剣かと思えば、普通の駄剣じゃねえか」


圧力を感じないのか、カリーナはつかつかと近づいた。が、何かにぶつかったように跳ね返された。


「な…!?」


驚いて手を前にかざした。見えない壁でもあるかのように、その先へ手を伸ばせない。


「なんだ、こりゃ!?」


「結界ですよ」


アベニールが前に出た。


「ガゼルの聖剣を護るために、二重の防御を施しました。一つは、六将星を揃えること。もう一つは、この結界です」


「……相当強力な結界だな。私でも破れそうにない」


ドラードが愛妻に寄り添いながら、結界に触れた。


「この結界を解けるのは私だけです。力付くで破れるのはガゼルのみ。セヴィルでも五分五分でしょう」


「王宮の地下にこんなものがあるなんて、初めて知りました」


シルヴィアが感嘆した。


「お父さまにも聞いたことがないし、王家の伝承でもこんな話はなかったです」


「それはそうです。そもそも、ここに聖剣があることは誰一人知らないのですから」


「伝承に残ってたら、大変だよ」


訳知り顔でアヴァンシアが言った。


「それこそセヴィルに漏れてみな、すぐに奪いに来るぞ」


アベニールは、何やら空中に字のような模様を描いた。すると、空気を満たしていた圧のようなものが綺麗に消えていた。


「結界を解きました。さあ、シルヴィア。聖剣を手に取りなさい」


「その前に、あたしに抜かせてくれないか」


またしてもカリーナがしゃしゃり出た。


「聖剣は、持ち主以外手に取ることができないというじゃねえか。本当かどうか試してみたい」


「……いいでしょう。カリーナが抜いてみなさい」


何を思ったか、アベニールは、あっさりと認めた。


カリーナは、恐れ気もなく聖剣に近づき、柄に手をかけた。力任せに引き抜こうとするが、びくともしない。


「―へえーっ! あたしじゃ、ダメみたいだな」


これまたあっさりと諦めて、カリーナは下がった。


「面白そうだね。僕もやってみようかな」


ジュスタンが悪乗りして名乗り出た。そのころには、彼女らの意図を理解したシルヴィアが、苦笑いを浮かべていた。


これは、シルヴィアへの箔付けだ。


どれほどの勇者が挑んでみても、ことごとく抜くことができない伝説の聖剣。それを、シルヴィアがものの見事に一度で抜いてみせれば、まさに正統者の証しとなる。


当然のように失敗したジュスタンのあとに、サイノスまでが挑戦した。力自慢の彼でもやはり微動だにしなかった。


「……ほかに試してみたい者はいますか?」


アベニールの呼びかけに、誰も応えない。


「では、シルヴィア。あなたの番です」


シルヴィアは、ゴクッと唾を飲み込んだ。静かに前に出る。なぜかアヴァンシアも腕を取ったまま離そうとしない。


二人が聖剣の前に立った。空いた手で柄を掴む。力を込めて抜いた…抜こうとした。が。


「あれっ!? 抜けないっ」


皆、一斉にズッコケた。


「―おい! 話が違うじゃねえか!」


カリーナが激しくツッコミを入れた。


「ここで綺麗に抜いてみせるのが聖剣の持ち主なんじゃねえのかよ!」


「あたしに言わないでよっ!」


シルヴィアは怒鳴り返す。


「勝手に盛り上げたのは、そっちでしょっ!」


「姉妹喧嘩は、やめなさい!」


オクタヴィアが一喝した。


「アヴァンシア。こちらに戻りなさい」


「えっ!? わたし?」


心外そうに姉を見返した。それでもオクタヴィアは断固として言った。


「ガゼルの聖剣を手にできるのは、世界に唯一人。あなたに付き添う資格はありません」


「わたしが悪いって言うの?」


「……」


全員の白い視線が突き刺さった。アヴァンシアは、頬を膨らませながらシルヴィアから離れた。


「―では、シルヴィア。改めて聖剣を手に取りなさい」


アベニールに促されて、両手を添えた。


「……ふんっ!」


シルヴィアは、気合を入れて剣を引っ張った。今度こそ、ものの見事に岩から抜けた。期せずしてどよめきが起こった。


「……ぬ、抜けたわ」


シルヴィアは、剣を掲げてみせた。その途端、剣が黄金色に輝き出した。光は、神々しく周辺を照らし出した。すると。剣身に、文字が浮かび上がった。


それは、古代王朝時代の古文字だったので、誰も読めなかった。しかし、アベニールや六将星には、はっきりと読み取れた。それには、こう書かれていた。


『退魔成聖』、と。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「……ふうーっ」


シルヴィアは、自室のソファに座ると、大きく嘆息した。


「何だか、疲れたわ」


「ずっと立ちっ放しでしたから」


サンドラは、ひざ掛けをかけたり飲み物を用意したり、甲斐甲斐しくシルヴィアの世話をして動き回っていた。


「……サンドラも疲れたでしょう。こっちへ来て一緒に休もうよ」


「ありがとうございます」


それでもサンドラは、何やら片付け仕事をしていて、一向に休もうとしない。


「サンドラ。片付けは後でいいから、こっちへ来て」


「はいはい」


シルヴィアに強く促されて、サンドラは幼子をなだめるように優しく返事をしながら、ようやくソファへ落ち着いた。


「―なんだか、凄いことになっちゃったね」


「ええ。まさか聖獣さまがついてくださるとは、思ってもみませんでした」


円形ベッドを振り返った。フランベルジュとアルマトゥーラが仲良く並んで寝そべっている。


「……聖獣、って、暇になるとよく寝てるよね」


「……はい。そうですね。エンリルさまやクサナギさまも寝ていらしたし」


サンドラが笑った。思わずほっこりする。普段あまり笑わないサンドラがそうしていると、自然と心が温かくなる。


「聖剣は、普段は消えてしまうのですね」


「うん。自由に取り出せるのよね」


ふいに、聖剣が浮かんだ。と思ったら、パッと消えた。


「こうなると、セヴィルが聖剣を手に入れるためには、シルヴィアさまごと拐うしかありません」


「嫌なこと言わないで。考えただけでゾッとするわ」


本当に身震いしてみせた。


「それも、ガゼルさまが復活するまでの辛抱ですが」


「初めは、『迷いの森』にいるのかと思ってたわ」


「どこにいらっしゃるのでしょう」


「アベニールさまは教えてくださらないのよ」


「そういえば、そのアベニールさまは、今どちらへ?」


「知らないわ。用事がある、とか何とか言って、どこかへ出かけちゃった」


サンドラは、少し考える素振りをした。やがて口にしたのは、まったく別のことだった。


「エーヴが気になります。六将星の件では、一人あぶれてしまいましたから」


「そうね。こればっかりは、あたしたちにはどうすることもできないけど。下手に慰めるのも、かえって傷つけそうだし」


「アイラが寄り添ってくれていました。サイノスもいるし、大丈夫だとは思いますが、こういうことを殊の外気にする性格なので」


「至宝天のみんなが、上手く盛り立ててくれてると信じてるわ」


「そうですね…」


「ん…? どうしたの? 何か気がかりなことでもあるの?」


浮かない顔のサンドラに心配そうな視線を向けた。


「あ…いえ。申し訳ありません、お心を煩わせてしまいまして」


「そんなことは、いいから。ねえ、何か気になることがあるのでしょ? 何でも言って。あたしたちの仲じゃない」


「いや、本当に些細なことなのですが…六将星は、いずれもシルヴィアさまの配下を選ばれました。ほかにもギーさまやカリーナさま、セリナさまなど、名だたる戦士が揃っているにもかかわらずです」


「そうね…。カリーナお姉さまが入っているのが悔しいけど、実力は認めざるを得ないわ。―それで?」


「聞くところによると、六将星はガゼルさまの手足とも言うべき股肱の臣。器であられるシルヴィアさま麾下の臣がその相手に選ばれたのは、偶然ではない、必然だったのだな、と思ったのです」


「確かに、サンドラの言うとおりだと思うわ」


「であれば、エーヴが選ばれないはずがない、と思ったのです」


「……そうだけど、六将星は、六人だもの。数が足りないわ。誰かが外れるのは仕方がない」


「そうでしょうか。私は初めから数が合っていると思いますが」


「にゃっ!? なんで?」


「至宝天は五人いるのですよ。ジョゼが加わって六人です」


「でもそれは、フランベルジュがあたしについているから…」


「シルヴィアさまには、ガゼルの聖剣がお有りです」


「にゃにゃっ!? それって、つまり―」


シルヴィアが言いかけたとき、大きな音が響いた。


「―何、今の音?」


シルヴィアは、サンドラと目を見交わした。


「―シルヴィアっ! 敵襲だ!」


フランベルジュとアルマトゥーラが飛び起きた。


「敵襲!? ウソでしょ!?」


驚くシルヴィアの目の前で、突如、空間が開いた。暗黒がぽっかりと大口を覗かせている。


「にゃっ…!?」


身構える暇もなく、シルヴィアは、その暗黒空間に呑み込まれてしまった。


「シルヴィアーっ!?」


瞬時にフランベルジュが飛びかかった。しかし無情にも寸前で空間は閉じてしまった。

【裏ショートストーリー】

ジュスタン「へえーっ! そうなんだぁ」

アイラ「どうしたんですか? 急に大声出して」

ジュスタン「いや、それがさぁ、アルミーダと会話できるんだよ〜」

アイラ「えっ、そうなのですか?」

ジュスタン「番になると、人間でも聖獣と会話できるようになるんだって」

アイラ「それは良かったですね。意思疎通ができないと、戦闘時に支障を来す可能性がありましたし」

ジュスタン「ということはだよ、ジョゼもクサナギと会話できるんじゃないか?」

アイラ「……そうなの? ジョゼ」

ジョゼ「は、はい。クサナギさまと会話できます」

アイラ「そういうことは、私に報告してよね」

ジョゼ「す、すみません!」

エーヴ「……わたし、部屋で休んできていいか?」

ジュスタン「ぎゃあ〜っ!?」

アイラ「な、何事ですか、ジュスタンさま?」

ジュスタン「……エーヴは、いつからいた?」

アイラ「初めからいましたよ?」

ジュスタン「びっくりした〜。……あれ? 前にも似たようなことがあった気がするななぁ」

アイラ「……私、これで失礼しますっ。お義姉さまが心配なので、ちょっと寄り添ってきます」

ジュスタン「……あらら。行っちゃった。変われば変わるもんだね。あんなに角突き合わせてたのに、いつの間にか仲良くなっちゃって」

ジョゼ「アイラさまは、もともとお優しい方です」

ジュスタン「ふ〜ん。……ねえ、ジョゼ。暇なら僕とお茶しない?」

ジョゼ「申し訳ありませんが、クサナギさまと剣の稽古がありますので、これで失礼いたします」

ジュスタン「あらら。フラれちゃった。……みんな、いい子ばっかりだなあ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。