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第352話 集結! 七姉妹

「シルヴィア!」


「グロリアお姉さま!」


二人は手を取り合って再会を喜んだ。抱き合わなかったのは、グロリアがシルヴィアの大きなお腹を慮ったからである。


「あなたからカトゥスに立ち寄ると連絡をもらったときは、本当に嬉しかったわ。またこうして会えるなんてね」


「こう言ってはルプスに申し訳ないけど、ガブリエルが王宮を襲ってくれたおかげよね」


「まあ! シルヴィアったら。そんなこと言っては駄目よ。―でも、本当にその通りよね」


姉妹は、目と目を見交わすと、笑い転げた。まるで花が咲いたような華やかさだった。


「グロリアお姉さま。いつまで妊婦を立たせたままにしておくつもり?」


ティアナが声をかけてきた。グロリアは、ふわりと笑った。


「あら、ごめんなさい。気がつかなかったわ。シルヴィア。とにかく中へ入って。みんな揃ってるの」


「みんな…?」


「いいからいいから」


「……お姉さま、ずいぶんご機嫌ね」


グロリアは、不審そうなシルヴィアを介添えしながら、王宮の奥へと先導していった。


「……グロリアお姉さまったら、珍しく舞い上がっているわね。リオネル陛下もいらっしゃるのに」


ティアナが憤慨する。それへ苦笑いしながらリオネルが言った。


「構わないさ、ティアナ義姉上。ご姉妹の仲の良さは、承知している」


リオネル以下、ティアナに案内されて、ぞろぞろと王宮の奥へと進んだ。彼らにとっては、例の大事件で年末に訪れて以来ということになる。


リオネル、シルヴィアに従うは、ギー、ギャスパル、ピエールの禁軍三人衆。更に、サンドラ、エーヴ、サイノス、ジュスタン、アイラの至宝天。そしてジョゼの総勢9人。リオネル軍精鋭中の精鋭である。


なぜ彼らがカトゥスにいるかと言えば、要するにリオネルがまたしてもシルヴィアに説得されたからである。


一触即発の口喧嘩から、頭を冷やして再度二人は話し合った。その結果、リオネルは折れて『迷いの森』へ訪れることになったのだ。


そこで問題になったのは、軍である。同盟国とはいえ、1万もの兵を連れて他国へ足を踏み入れるわけにはいかない。


それで軍はトリュフォーに任せてリシャールへと返し、側近だけを連れてカトゥスの王都へ立ち寄ったというわけであった。


「予定日は、あと3か月くらいだったかしら」


グロリアが尋ねた。シルヴィアは大きくうなずいた。


「ええ。あと2か月半かな」


「楽しみね。名前は考えたの?」


「旦那さまと話し合い中。候補は絞ったんだけどね」


「何か問題でも?」


「実は、意見が割れてるの。旦那さまが譲らなくて」


「……それは、あなたも同じでしょう」


「まあ、そうとも言うよね」


「まっ…!」


二人はまたお互い見交わすと、笑い崩れた。そのまま、食堂へと足を踏み入れた。


「おお、シルヴィア。待ちかねたぞ」


父王ティーノが嬉しそうに声をかけてきた。しかしシルヴィアの笑顔は凍りついていた。


食堂にずらりと並んだ顔、顔、顔…。


「ちょ、ちょっと、グロリアお姉さまっ。何よ、これ? 聞いてないわよ!?」


「あら? 私、言ったわよね? み(・)ん(・)な(・)揃(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)、って」


シルヴィアは姉に食ってかかったが、姉はふわりと笑っただけだった。


「聞いてないっ。姉(・)妹(・)が(・)全(・)員(・)揃(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)、なんて!」


「シルヴィア。何を四の五の言っているのですか。ちゃんとみんなに挨拶なさい」


オクタヴィアがピシャリと言った。途端、電撃が走ったかのように背筋を伸ばすと、シルヴィアは、姉たちに膝折礼をした。


「……ご、ご機嫌麗しゅう、お姉さま方」


姉たちは、多種多様な反応で挨拶を返した。


長女オクタヴィアは、満足そうにうなずいた。


二女セリナは、無言で小さく頭を下げた。


四女カリーナは、ニヤリと笑った。


そして、もう一人…。


「いやあ〜、シルヴィアかぁ。懐かしいぃ〜」


濃藍色の髪と瞳をした美女が、満面の笑みで席を立った。驚くことにその場で跳躍してシルヴィアの前に立った。すると、膨らんだお腹を無遠慮に撫で回した。


「うわぁ〜、でっかい腹してんなぁ〜。マジ受けるぅ〜」


「……」


シルヴィアは、助けを求めるようにグロリアの腕を取った。グロリアは眉根を寄せた。


「シルヴィアが驚いているわ、おやめになって、アヴァンシアお姉さま」


彼女は、カトゥス王家第三王女アヴァンシア。見慣れない服装をしている。シルヴィアは知らなかったが、極東の国、セリカのドレスであった。


「いやあ〜、最後に会ったのは、わたしが結婚したときだから、まだ10歳のときだもんなぁ。大きくなったもんだ」


「……9ですわ、アヴァンシアお姉さま」


グロリアが訂正した。


「シルヴィアは、お姉さまと9つ違いだから、9歳でした」


「細かいこと気にするなよ。あの小さかったシルヴィアが、いまや大国ブランシャールの皇后陛下なんだぞ。驚いて当然だろ?」


「驚いているのは、シルヴィアのほうですっ」


「二人とも、控えなさい」


オクタヴィアが口を挟んだ。


「とにかく席に着くように。これでは落ち着いて話ができません」


「はぁ〜い、姉さま!」


「―あれ? こんなところで何の立ち話?」


元気よくアヴァンシアが返事したところへ、ティアナが顔を覗かせた。


「ティアナを待っていたのです。早く席に着きなさい」


「あ…オクタヴィアお姉さま。リオネル陛下が一言ご挨拶したいと参られているのです」


「陛下が…」


「―失礼する」


リオネルが礼儀正しく入ってきた。途端、


「おお〜!? これがブランシャールの皇帝!?」


アヴァンシアが素っ頓狂な声を出した。


「イケメンじゃんかぁ。おい、シルヴィア。いいオトコを掴まえたな!」


アヴァンシアは、シルヴィアの肩を小突いた。ますますシルヴィアはグロリアに抱きついた。


「アヴァンシア!」


オクタヴィアの叱声が飛んだ。アヴァンシアは、ペロッと舌を出すとまたその場で跳躍し、席に戻った。


「―ゴホン。ブランシャール帝国皇帝、リオネルです」


彼女を尻目に、リオネルが挨拶した。


「カトゥスの皆さまには、日ごろから世話になっています。故あって近くまで通りかかったので、一言感謝を申し上げようとまかり越した」


「いやいや、そのような堅苦しい挨拶などよいではないですか」


いつの間にか席を立っていたティーノが親しげに握手を求めた。


「どうです、リオネル陛下? 一杯やりながら国際情勢でも語り明かし―」


「お父さま! まだ昼日中です。お控えください」


オクタヴィアの叱声が飛んだ。さすがにアヴァンシアのような返事はしなかったが、首はすくめて、何度もリオネルに謝罪しながら席へ戻った。


「リオネル陛下。末妹シルヴィアがお世話をおかけし、こちらこそ恐縮の至り」


オクタヴィアが席を立ち、丁寧に頭を下げた。


「初めて御意を得る妹もおりますが、見ての通り、今は久しぶりの家族水入らず。ご挨拶は改めて後ほどとさせていただくご無礼をお許しください」


「いや、こちらこそ、ご家族お揃いのところをお邪魔した。では私は、これで失礼する」


リオネルは、まっとうに挨拶を終えると身を翻しかけた。その彼に、オクタヴィアが追いかけるようにして声をかけた。


「リオネル陛下。別室にて昼食の用意をさせております。家臣の方々とごゆるりとお過ごしくださいますよう」


「心遣い、痛み入る」


「シルヴィアを少々お借りいたします」


「よしなに頼む」


リオネルは、今度こそ退出していった。その間際、シルヴィアにウインクしていった。シルヴィアは、真っ赤になりながら睨みつけた。


「―では、三人とも、席に着きなさい」


オクタヴィアに促されて、シルヴィアたちは各々着席した。


改めて姉妹たちを見回したシルヴィアは、密かにため息をついた。


七姉妹が全員揃うなど、ほとんど記憶にない。グロリアが妙にハイテンションだった理由がわかった。


オクタヴィアが嫁入りする前には、何度かあったに違いないが、シルヴィアは幼くてはっきりとは覚えていない。彼女にとっては事実上、これが初めてであった。


「こうして姉妹全員が顔を揃えるなど、滅多にありません」


オクタヴィアが話し始めた。長姉として何か思うことはあるだろうが、少なくとも表面上は、いつもと変わらぬ『黒の女王』であった。


「偶然が重なったとはいえ、せっかくこうしてみんな集まったのです。お互い、近況を伝え合って姉妹の絆を深めま―」


「―ちょっと待った!」


オクタヴィアを途中で遮って発言したのは、アヴァンシアだった。


「姉さまは姉妹全員揃ったと言うけどさぁ、一人、部外者がいるよねぇ?」


「……部外者とは、誰のことです?」


漆黒の瞳が冷たく射抜く。しかしアヴァンシアは、一向に動じない。『黒の女王』を前にして平然としていられるのは、カトゥス広しといえど、アヴァンシアと『筋金入りの常識人』ティアナくらいのものであろう。


「決まってるじゃんか。姉さまの隣にしれっと座ってる女のことだよ」


一斉に注目が集まった。淡紅藤色の瞳を伏せているセリナに。


アヴァンシアは、容赦なく糾弾を始めた。


「その女は、お父さまから勘当されたんだ。もう王女でも何でもない。この場に座る資格なんかないはずだろ? 追い出してくれよ。部外者がいたら、せっかくの家(・)族(・)団(・)ら(・)ん(・)が台無しだよ」

【裏ショートストーリー】

ギー「リオネルさま、お疲れさまでした」

リオネル「ああ…」

ギー「……本当にお疲れのようですね。王家の方々へのご挨拶で何かありましたか?」

リオネル「何も。だから、疲れた」

ギー「……」

リオネル「見たところ、姉妹が全員揃ってたようだ。でも、和気あいあいというより、緊張感がみなぎってたな」

ギー「シルヴィアさまも、年長の姉君たちとは疎遠だと仰っていました」

リオネル「理由はそれだけじゃない気がするな」

ギー「……7人もいると、いろいろあるのでしょう」

リオネル「俺たちは、二人きょうだいだからな。きょうだいの多い感覚がよくわからん」

ギー「……リオネルさまは、5人兄妹ですが」

リオネル「そうだったけ?」

ギー「……まあ、いいですが…」

リオネル「シルヴィアは大丈夫かなあ。あいつ、表情が固かったから、相当緊張してるぜ」

ギー「グロリアさまやティアナさまとお会いするときと、だいぶ様子が違うようですね」

リオネル「戻ってきたら、くつろがせてやりたいな」

ギー「みんなで慰めて差し上げましょう」

リオネル「だな。目一杯甘えさせてやろう」

ギー(普段からシルヴィアさまには甘いけど)

リオネル「……なんか、言ったか?」

ギー「いえ、何も」

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