↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
353/367

第350話 紅蓮の炎の中で

「キさマーっ! 絶対に許さンゾぉーッ!」


セリナの挑発に、ジュディは激怒した。 長く鋭い爪で襲いかかった。セリナは人技とは思えない速さと正確さで攻撃の尽くをかわす。かわすだけではなく、徐々に押し返し始める。


「クソーっ! クソーっ! 何なンダお前っ!」


ジュディは必死になってセリナのカイザーナックルを受け止める。攻撃するどころか、防御で精一杯だ。あまりの速さに尻尾の蛇が介入できない。


「あっ―!?」


拳の一撃で爪が一本、折れて飛んだ。一瞬、ジュディは怯んだ。セリナにとっては、その一瞬で充分だった。


渾身の一発がジュディの顔面にヒットした。もんどり打って地面を転がる。驚異的な脚力でジュディに追いついたセリナは、馬乗りになって殴りつけた。


突然、セリナは横に跳んだ。寸前までいた空間を鎌が斬り裂いた。


「―ジュディ。生きてるか?」


それは、ランディだった。闘っていたはずのゼストはどうしたのか?


「……」


ジュディからの返事が、ない。彼女の顔が変形していた。全体が青黒く腫れ上がり、目を開けていられないほどだ。歯も何本か折れているようだ。


「―いた、いた!」


大声(たいせい)を放ってカリーナが現れた。後ろからは、ゼストに肩を貸しながらドラードが続く。どうやらゼストは脚を痛めたらしい。片足を引きずっている。


「ほんとにセリナが闘ってるよ。生きてたんか」


カリーナは、大剣を肩に担いで仁王立ちした。セリナは、無言で頭を下げた。これでは、どちらが姉かわからない。


激しい羽音が耳を叩く。みると、ランディがぐったりしたジュディを抱えて宙を飛んでいた。


「……ありゃ。逃がしたか」


カリーナは、手をかざして魔獣たちを見送った。


「―カリーナ。我々もいったん引き上げるぞ」


ドラードが妻に声をかけた。


「怪我人の治療が先決だ。カトゥスの王宮へ行こう」


「はいっ! 旦那さまぁ」


カリーナは甘えた声で夫に抱きついた。ゼストに肩を貸していることなどお構いなしだ。


ドラードは苦笑いを浮かべながら、二人を抱えて歩き出した。


何を思うのかセリナは、ただ無言でその後について歩くのであった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ジェルヴェの城館は、紅蓮の炎に包まれていた。


フランベルジュの火焔弾で、崩壊寸前だ。広間と思しき部屋に集う若者たちにも、火の手が迫りつつあった。


「リュカ。私は本当にあなたのことを愛していた。一時は、すべてを捨ててあなたとの愛に生きようかとまで思ったこともある」


「……今さら何を血迷いごとを。私は初めからあなたのことなど何とも思ってはいない。ただの調略相手だ」


「そのとおりだ。所詮、私たちは敵同士。願いが叶うはずもない。であれば、せめて我が手で決着をつける!」


マノンは、短剣を持つ手に力を込めた。刹那。リュカの長い脚がマノンの手を蹴り上げた。短剣が飛び、火の中へ落ちた。


ほんの一瞬。マノンは気を緩めた。それを見逃すはずはなく、リュカは脱兎のごとくその場から逃げ出した。


「あっ…!? 待てっ!」


マノンは思わず手を伸ばした。しかし到底間に合うはずもなく、リュカは逃げおおせた…と思われたそのとき。


鉄棒が唸りを上げ、リュカの頭を殴りつけていた。血を引きながら、リュカの身体が横転した。


ルウが、血よりも赤い鉄棒を手に仁王立ちしていた。


「リュカぁーっ!?」


マノンは、悲鳴を上げながら床に転がるリュカに駆け寄った。一目で事切れていることがわかった。


血まみれの頭をその胸に抱いた。声もなく慟哭した。


穢れを焼き払う業火に囲まれながら。生涯で初めて愛した男をかき抱きながら。


「……団長。もう、ここは保ちません。早く脱出しないと危険です」


ルウが傍らに立った。しかしマノンから反応が返ってこない。


「マノンっ!」


ルウは、マノンの胸ぐらをつかんだ。


「今のお前は、紅烏団の団長でも何でもない! 恋に腑抜けた、ただの女だっ! ここは、ただの女がいていい場所じゃない! 力尽くでも連れ出すぞ!」


涙を流したまま虚ろな表情のマノンを背負うと、ルウは、力強く走り出した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


フランベルジュの火焔弾が雨のように降り注ぐ。トカゲ兵を燃やし尽くし、城館は壊滅した。


リオネルや天馬隊は上手く逃げたようだが、多少、兵に犠牲が出たかもしれない。


「もういいわ! 止めて、フランベルジュ!」


悲鳴のようなシルヴィアの制止に、ようやく火焔弾の雨が止んだ。


「あの喋る魔獣がいない。ミラベルも逃げちゃったみたいだわ」


「肝心のガブリエルは、結局一度も姿を現さなかったね」


剣身のフランベルジュが言った。


「……あなた、本体になっても言葉が喋れるのね」


「当たり前だろ。ボクたちは宝剣だよ?」


「六将星だっけ? 初めて聞いたわ、その話」


「ガゼルに直結するからね。何も知らないときに話しても信じてもらえないでしょ」


会話をしながら、二人は地上へと降りてきた。あちらこちらで紅蓮の炎が噴き上がっている。人影一つない。城館前は、廃虚と化していた。


「シルヴィア、これからどうする?」


「にゃ…どういう意味? ガブリエルもミラベルもいないのだもの。リシャールへ帰るわ」


「アベニールさまは、『迷いの森』を目指せと、仰ったんだよね? ここから近いよ?」


「冗談言わないで。ただでさえ約束を破ってしまって、旦那さまにどう言い訳しようか考えてるのに、『迷いの森』へなんて、行けないよ」


「だったら、リオネルも含めて、みんな連れていけばいい。一緒ならいいんだろ?」


シルヴィアは少し考える素振りをしたが、すぐに頭を横に振った。


「やっぱり駄目よ。これ以上は、お腹の赤ちゃんに障るわ」


「ボクが守ってあげるよ」


「にゃあ…?」


シルヴィアが小首を傾げたときだった。


突然、目の前の空間がパカっと開いた。漆黒の闇の中に星々が見える。


「な、なに、これ!?」


息を呑んで見守っていると、闇の中から、ぬっと人が現れた。


「―ガブリエル!?」


「おやおや、義姉上。ご無沙汰しております。ご機嫌伺いにもあがれず、どうか非礼をお許しください」


ガブリエルは、優雅にお辞儀をしてみせた。シルヴィアは、柳眉を逆立てた。


「よくも今まであたしのことを騙したな!」


「騙す? 人聞きの悪い。義姉上を騙した記憶はありませんが?」


「あたしの味方みたいなフリをして、その実、裏ではミレーユさまをけしかけたり、従者をマノンに近づけたりしただろうが!」


「これはしたり! みんなの幸せを願ってちょっと背中を押しただけですよ」


「幸せが聞いて呆れる。逆に不幸にしているじゃないの!」


「彼らが愚かなだけです。機会を生かせなかった低脳どもだ」


「何だって…!」


怒り心頭のシルヴィアは、フランベルジュを握り直した。


「許さない…! 人の想いを簡単に踏みにじるお前だけは、絶対に許さない!」


「おっと…! ここで義姉上とやり合うつもりはありません」


ガブリエルは、漆黒の闇の中へ戻った。


「挨拶をしておこうと顔を出しただけなのです。僕が『迷いの森』を手に入れるための時間稼ぎで、サムディと闘っていたとは露知らぬ間抜け面にね」


「逃げるなっ! ガブリエル!」


後を追おうとするも、身体が重い。思うように動けない自分に腹立たしくなった。


「―では、義姉上。『迷いの森』でお待ちしています」


高笑いを残してガブリエルは完全に闇の中へ溶けるようにして消えていった。


「待てーっ! ガブリエルっ」


地団駄を踏むも、空間が折りたたまれ、跡形もなく消え去った。


「くそーっ!」


シルヴィアは、フランベルジュを力任せに振り下ろした。炎が一際派手に燃え盛った。


城館の躯体が、大きな音をたてて崩れた。炎はしばらく鎮みそうになかった。

【裏ショートストーリー】

パトリス「あっ、ルウ! 無事だったか!」

ルウ「脱出するぞ! ここはもう、保たない」

パトリス「団長…? まさか、怪我をされたのか?」

ルウ「怪我はされていない。でも今は、役立たずだ」

パトリス「何があった? ターゲットは?」

ルウ「説明は後だ。今はここを逃れるのが先決だ」

マノン「……ルウ。降ろせ」

パトリス「団長っ!? 気づかれましたか?」

マノン「聞こえなかったのか? 私を降ろせ」

ルウ「……はい」

マノン「私はもう、大丈夫だ。走るぞ」

ルウ「……! はいっ」

マノン「……ルウ。ありがとう」

ルウ「えっ…!?」

マノン「お前のおかげで助かった。お前が断ち切ってくれなかったら、あのまま逃がすところだった」

ルウ「いえ…私は職務を全うしただけです。むしろ、余計なことをしてしまい、申し訳ありませんでした」

マノン「言っただろう? 感謝しているんだ。私はまだまだ弱い。頼りにしているぞ」

ルウ「滅相もございません。団長についていくのが精一杯の不肖の身」

パトリス「団長! 俺は? トカゲ兵を全滅させたんですよ? 頼りになりませんか?」

マノン「もちろん、お前のことも頼りにしている」

パトリス「へっへー。だってよ、ルウ」

ルウ「いらん口を挟むな、パトリス」

パトリス「俺もまぜろ。ずるいぞ、二人だけで仲良くするなんて」

ルウ「子どもか、お前は」

マノン「ふふ…。私はいい部下を持った」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。