↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
352/368

第349話 紅の剣と紅の烏

「エーヴ! ここに来いっ!」


フランベルジュは怒鳴った。しかし反応がない。


「何をしている!? 早く―」


ぼうっと佇んでいるエーヴを振り返って、はたと気がついた。


「あ…そっか。人間族にはボクの声は聞こえないんだった」


「何のコメディだい? フランベルジュ」


サムディは、ポーズを取りながら嘲笑した。


「やかましいっ! 魔獣が!」


フランベルジュは、気を取り直してキョロキョロと辺りを見回した。


「アイラっ! 聞こえるか?」


サイノスに支えられながら頭を振っていたアイラは、ビクッとフランベルジュに視線を向けた。サイノスと目を見交わすと、慌てて馳せ参じた。


「お呼びでしょうか、フランベルジュさま」


サイノス共々、畏まって跪いた。獣人族にとって、聖獣は神にも等しい。そもそも、馴れ馴れしい口を利いているシルヴィアがおかしいのだ。


「本当はシルヴィアがやるべきなんだけど、ここにいないからしょうがない。特別に許すから、ボクに触りな」


「えっ!? そんな畏れ多いこと―」


「ボクがいいって言ってるんだ」


二の足を踏むアイラを叱咤した。


「躊躇するな、犬牙族の名にかけて、奮起しろ!」


「は、はいっ!」


弾かれたようにアイラはフランベルジュの背に手を乗せた。刹那、巨大な炎が燃え上がった。


「ひっ―!?」


豪胆なアイラも、さすがに手を引っ込めた。しかしそのときには、一振りの大剣を手にしていた。無論、火傷などはしていない。


大剣は、剣身に炎をまとい、猛々しいオーラに包まれていた。


「す、すごい…」


アイラは、大剣を眺めながらため息をついた。


「アイラっ! ぼうっとするな!」


大剣が叱声を放った。


「魔獣を倒すぞ!」


「はい!」


アイラは大剣を構えると、サムディに斬りかかった。


空間が歪んだ。大剣が呑み込まれる。炎が吹き上がった。空間を焼き尽くす。更に空間が大剣を包み込む。紅い炎が青く変わった。刹那。


大爆発が起こった。


炎と風が渦を巻いて周囲を吹き飛ばした。


アイラを中心に、何もなくなった。地面はえぐれ、城館の入り口も崩れ落ちていた。


「うわぁ…」


アイラは、大剣を手に呆然と立ちすくんだ。


「……とんでもない破壊力だわ。これがフランベルジュさまの真のお力なのね」


「―油断するな!」


フランベルジュが叫んだ。


「ヤツは、まだ死んでない!」


ハッとして、アイラは身構えた。


「―やれやれ。凄まじいな」


空(・)間(・)が(・)開(・)い(・)た(・)。中からサムディが現れた。


「咄嗟に空間を閉じて逃れなきゃ、消し飛んでいるところだったよ」


サムディは、またポーズをとった。


「ふ〜ん。そういう使い方もできるんだ」


フランベルジュが感心してみせた。剣が言葉を話すさまは、実に神秘的だった。神話の世界が現出したかのようだ。


「フランベルジュも、さすがは六将星。とてつもない魔力量だね。しかも、まだ全力を出していないのだろう?」


「そりゃそうだ。お前如きに全力を出すわけないだろ」


「ナメられたものだね」


瘴気が爆発的に立ち昇った。その禍々しさは、気の弱い者が見たら気絶してしまうほどの圧倒的なパワーがあった。


「―フランベルジューっ!」


そこへ、馬車が一台、駆け込んできた。御者はサンドラだった。窓から身を乗り出しているのは―


「シルヴィア!?」


フランベルジュが素っ頓狂な声を出した。シルヴィアは、サンドラの介添で馬車から降りてきた。


「今の爆発は何?」


「バカっ! こんなところへ来んな!」


「あれ〜? 炎剣に戻ってる!」


シルヴィアも、声が裏返った。びっくりまなこで、フランベルジュとアイラを見比べている。


「……フランベルジュったら、アイラのこと、認めたのね」


「い、いえ、シルヴィアさま」


アイラは慌てて手を振った。


「シルヴィアさまがここにいらっしゃらないので、緊急措置としてフランベルジュさまに呼ばれただけなのです」


「だとしても、至宝天の中から選ばれたんだから、すごいじゃない」


「―僕を無視しては、困るね!」


道端で出会ったかのように会話を続けるシルヴィアへ向けて、サムディが空気の塊を放った。それは空間を次々と呑み込みながら迫った。


咄嗟にサンドラが身を挺してシルヴィアをかばった。空気の塊が主従を呑み込む!


突如、主従の目の前に炎の壁が現出した。空気の塊と激しくぶつかり合う。炎が空気を、空気が炎を覆う。そして双方が同時に消滅した。


「シルヴィアーっ!」


フランベルジュがアイラの手から離れた。真っ直ぐシルヴィアへと飛んでいき、その手に収まった。


「……なにこれ!?」


身体の底から不思議な力が湧いてくる。今まで感じたことのないような高揚感。圧倒的なパワー。それていて、とても身体が軽い。お腹の子どもの重さがまったく感じられない。


「フランベルジュ! あたし、どうしちゃったの!?」


「やっぱり、ガゼルさまの器は違うねえ。身体中が燃えるよっ!」


シルヴィアの問いには答えず、フランベルジュの剣身が更に燃え上がった。同時にシルヴィアの身体が宙に浮かんだ。高く高く、上へと。


「シルヴィア。力を解放する。ボクに集中して」


「うん。わかった」


シルヴィアが意識を大剣に集中した。すると、シルヴィアの身体が黄金色に輝き出した。その輝きは四方へと広がる。まばゆい光は、地上を照らした。


「―旦那さまーっ! 天馬隊のみんなーっ! その場からすぐに逃げてえぇーっ!」


シルヴィアの声がこだました。それは、人々の耳ではなく、直接頭の中で響いた。


地上の人影が一斉に動き出した。しかしシルヴィアは、もうそれを見ていなかった。


意識は大剣フランベルジュに向けられていた。剣身の炎が爆発的に膨張した。シルヴィアの黄金の光と融合する。


「―行くよ、シルヴィア!」


「いいわ!」


巨大な火球が出現した。


「穢れをすべて浄化せよ! ―業火の慈悲(ファイアレイン)っ!」


火球が爆発した。火焔弾が雨のように地上へと降り注いだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


時を少し巻き戻す。


シルヴィアが戦場に到着する直前。


マノンは、城館の陰に潜んでいた。付き従うは、パトリスとルウの両雄。


「……今の爆発は何だ?」


パトリスが目を丸して遠見をした。轟音と共に城館の入り口が崩壊したのだ。


「知るか。この機を逃す手はない」


労せずしてマノンの目の前に、ぽっかりと目的地への道が開いた。


「行くぞ」


マノンは、するすると城館の中へ侵入を果たした。パトリスとルウが後に続く。パトリスは、背中に大きな袋を背負っている。


城館は大して広くはない。エルヴィールの状況を鑑みれば、目標(ターゲット)はおそらく広い場所にいるはずだ。


ある程度絞って城館内を走った。


すると、奥から聞き慣れた摩擦音が迫ってきた。


「トカゲ兵か」


「団長! ここは俺が引き受けます。先へ急いでください」


パトリスが背負っていた大きな袋を降ろした。


「任せた」


マノンの返答は短い。足を止めずに進んだ。トカゲ兵が突進してきた。ヒュッと風を切る音がしてトカゲ兵が吹き飛んだ。


パトリスの『指弾』だった。ルウが振り返ると、パトリスはニヤリと笑った。大きな袋から、小石を鷲掴みした。


ルウはもう振り返らなかった。マノンの背中だけを見つめた。


次々とトカゲ兵が倒れる中、マノンは真っ直ぐ突き進む。そして、大きなドアの前へと達した。


「―団長。私が先乗りします」


万が一を考えて、ルウがドアノブに手をかけた。勢いよく開ける。


「―お見事です」


パチパチと拍手の出迎えを受けた。


「ここまで難なくたどり着くとは、すっかりディガンマの対処方に慣れてしまったようですね」


「……リュカ」


マノンは無防備に近づいた。


「団長っ、危険です」


「手を出すな」


罠を警戒するルウに言い捨てると、マノンはリュカと向き合った。マノンを見つめる鉄紺色の瞳がほころんだ。愛らしい笑みさえ浮かべて。


「一別以来ですね、マノンさま。お変わりなくお美しい」


「決着をつけに来た」


「そうやすやすと、あなたに命を取られる訳にはいきません。ガブリエルさまには、私が必要なのです」


「私の知ったことではない」


マノンは短剣を抜いた。


「ではマノンさま。私も全力でお相手いたします」


リュカも剣を抜いた。


両者同時に動いた。剣と短剣が激しくぶつかり合う。二合三合と打ち合うが、腕力ではマノンのほうが上手だ。剣を交えた瞬間、力任せに押した。リュカは激しく床を転がった。


起き上がった刹那、マノンの蹴りで剣が吹き飛んだ。


一瞬、藍色の瞳と鉄紺色の瞳が見つめ合った。


マノンは、何かを断ち切るように、短剣の切っ先をリュカの喉元に向けた。


「これで終わりだ、リュカ」


「―所詮、私たちは出会ったときに、こうなる運命(さだめ)だったのでしょうね」


「私は運命など信じない」


「紅烏団団長であれば、そうでしょう」


すべてを受け入れるかのように、リュカは瞳を閉じた。


「……命乞いをしないのか?」


「今さらそんなことをしても、あなたは肯わない。無駄です」


「……そうか。ならば、一思いに殺してやる」


力を込めた、そのとき。


轟音と共に天井を突き破って何かが降ってきた。広間に着弾すると激しく燃え上がった。


それは、フランベルジュの火焔弾だった。


いくつも降り注ぎ、あっという間に辺りが火の海になった。


それでもマノンとリュカは、身動ぎ一つせず見つめ合ったままだった。

【裏ショートストーリー】

ギー「リオネルさま、あれを!」

リオネル「見えている! シルヴィアのやつ、やっぱり約束を破りやがった!」

ギー「しかし、様子が少し変です。フランベルジュがいないのに、宙に浮いているし、剣が燃えています」

リオネル「まさか、あれがガゼルの器、っていうんじゃねえだろうな」

ギー「わかりません。ですが、シルヴィアさまはやはり太陽の化身だった。見てください、あの神々しさを。炎を握り、黄金色に包まれたお姿を。太陽そのものではないですか」

リオネル「……」

ギー「太陽の女神だ。リオネルさま。シルヴィアさまは、太陽の……」

(みんな、逃げてーっ!)

リオネル「えっ…!?」

ギー「シルヴィアさまですっ。頭の中でシルヴィアさまの声がしました!」

(旦那さまーっ! 天馬隊のみんなーっ! すぐにその場から逃げてえぇーっ)

ギー「逃げる…!? いったい何を…」

リオネル「ギー! 今は考えるなっ。シルヴィアに従えっ! すぐにここから撤退するんだ! 全軍に伝達っ! 直ちにここから離れろ!」

ギー「は、はい!」

リオネル「……シルヴィア。絶対に帰ってこい。神の世界になんか行くな。お前は、俺の妻なんだから…」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。