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あたしのパパは高校二年生  作者: 聖場陸
外伝『黒澤諏方は高校二年生』シルバーファング結成編
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第53話 三巨頭会議⑨

「「ハァ……ハァ……ハァ……」」


 荒々しい吐息が、静まり返った無人駐車場にこだまする。


「ハァ……ハァ……なんて奴だ……」


 光の黄金隼(シャイン・ホルス)のリーダー格である金髪の不良は、信じられないものを見るかのように目の前にいる少年を見下ろした。




「こんなチビに……まさか、()()もやられるだなんてな……!」




 シャイン・ホルスのメンバーで立っているのは二人。残りの三人はいずれも白目を剥きながら、地面に倒れ転がっていたのであった。


 諏方()()シャイン・ホルス()番外決闘エキシビジョン・マッチが開始してからすでに三十分が経過。


 諏方は襲いくる(ハヤブサ)たちの猛攻をかわしつつ、的確に反撃(カウンター)によるダメージを与えていた。


 敵方も頑丈(タフ)で、一度や二度の打撃は耐えられていたのだが、三度四度と重なるとさすがにダメージが重くなり、気づけば五人中三人が次々と倒れていったのであった。


 残りの二人であるリーダー格とサブリーダー格の男もそれぞれ満身創痍とまではいかずとも、かなりのダメージを負っている。気の盾によって諏方の攻撃を防いでいなければ、他の三人のようにとうに身体を地面に伏していたであろう。




「ハァ……ハァ…………だが――」




 仲間が三人倒れ、自らも大きく負傷はしているも――リーダー格の男は(わら)っていた。






「――どうやら、オレたちの()()のようだな……黒澤諏方?」






 そう口にしながら、地面に仰向けで()()()()()銀色の獣を男は見下ろした。


 諏方は全ての攻撃をかわせていたわけではなかった。彼はほとんどの攻撃に対してカウンターで返せてはいたのだが、さすがに相手が五人ともなると腕は計十本。脚も含めれば計二十本もの打撃が四方八方から襲いかかり、そのほとんどはかわせてもさすがに何打かは身体に受けざるをえなかった。


 黄金猛獣(ゴールデン・ビースト)傘下である四天王の八咫孫一が同じく傘下の中でも精鋭中の精鋭と呼ぶだけあって、シャイン・ホルスのメンバーたちの一撃はかなり重い。それらを何打も受け、蓄積されたダメージはいくらタフな諏方であろうとも、意識を失わせるほど重なりのしかかったのだった。


 彼の周囲には血だまりが広がっており、一見すれば死んでいるようにも見えるが、か細い呼吸がかろうじて彼がまだ生きている事を教えてくれる。


 とはいっても、(あざ)だらけの肉体は死に体同然。もはや今の諏方に、これ以上闘う余力は残されていないだろう。


「……正直、想定外の強さだった。まさか、五人中三人もテメー一人にやられるなんてな。だが……テメー一人でオレたちをボコボコにするってーのは、ちょっとばかし自信過剰だったなッ!」


 リーダー格の男は勢いをつけて、倒れている諏方の顔面を蹴り飛ばした。彼の身体は軽やかに吹き飛び、地面に血の軌跡を描きながら転がっていく。


「…………」


 黒澤諏方の身体は、もはや何の反応も示さない。無様な敗北者――そこに闘気あふれた少年の姿はなく、ただみじめな敗者が床に転がっている存在がそこにあるだけだった。






「いやはや、いい見せ物だったぜ――黒澤諏方」






 乾いた拍手の音を鳴らすは、この決闘の主催でもある男――獅子瓦壊兎。


「たった一人で五人と戦う逆境の果ての勝利――なんて事はなく、善戦はするも結局は数の暴力には勝てませんでした、という順当にして素晴らしい(ありきたりな)エンターテイメントを見せてもらったぜ。だが……」


 愉快げに微笑んでいた壊兎であったが、その瞳は凍りそうなほどの冷たさを帯びている。


「テメェの実力がソレなら、進める道はここまでだ。なんか葵司ちゃんがテメェに運命がどうとか言ってたが、とんだ見込み違いだったみてぇだな? ……テメェ如きじゃ、一生かけたって三巨頭には追いつけねえよ」


 とうに気を失っていて声も聞こえてもいないだろう諏方に、非情な言葉を吐き捨てる壊兎。周囲の不良たちも無様に倒れたままの彼に見下すような視線を送り、嘲笑の声を醜く重ねて響かせていた。






「……すまねえッス、まごっさん……オイラ、もう我慢できねえッス」

「ウチも……仲間があんなバカにされて、平気でいられるほどお人好しじゃないよ」






 指の骨を鳴らしながら晋也と明里の二人が立ち上がり、ともに殺気立った表情で、仲間を笑いものにする不良たちを強く睨みつける。


「落ち着け、貴様ら。俺たちが前に出たところで、諏方の敗北は動かん。どころか、事態の悪化に繋がらん。ここで下手に暴れれば、三巨頭全員を敵に回しかねない。何より……黒澤諏方は俺たちへの助力を求めなかった。今ここで俺たちが動くのは、奴の顔に泥を塗るのと同義になってしまうぞ」


「ッ……わかってるッスけど……!」


 血がにじみそうなほどに拳を握りしめる晋也。大事な仲間であり、尊敬する『センパイ』でもある諏方が笑われているのに、何できない歯がゆさに怒りが募るばかりだった。








「…………………………………………っ」








 ――笑い声が止まり、世界が一瞬無音になった。




「バカな……なんで……なんで立ち上がってるんだ、テメー⁉︎」




 その場にいる多くの者が唖然とする中、驚愕混じりの声を上げたのはシャイン・ホルスのリーダー格の男。


 ――間違いなく意識は失っていたはずだ。立ち上がれないほどに痛めつけたはずだ。






 だがそれでもなお――黒澤諏方は立ち上がったのだ。






「ハァ…………ハァ…………」


 息は絶え絶え。眼の光は薄らいでおり、全身は傷や痣にまみれて見るだけでも痛々しい。死に体同然であるはずなのになお立ち上がった彼に、先ほどまで笑っていた不良たちはみな一斉に、困惑と底知れぬ恐怖に顔を青ざめさせる。


 ただ目の前にある事実はたった一つ――、






 黒澤諏方は――まだ敗けていない。






「ビ……ビビる事はねえっすよ、リーダー……あんな状態じゃ立ち上がることはできても、戦う力まではもう残っていないはず……ここは、オレ一人でも十分にやれ――」


「バカか、テメー⁉︎ あの状態のチビヤローにこれ以上攻撃を加えたら、死んじまう可能性だってあるだろうが⁉︎」


 リーダー格の男の叫ぶ通り、諏方は立っているのが不思議なほどにボロボロの状態になっている。呼吸はあるが、意識は保っているのかすら怪しい。


 この状態で下手なダメージを受ければさらなる重傷、最悪死にすら至る可能性だって十分にありうる。


「オレは不良だが、さすがに殺人犯になるのはゴメンだぜ。……決闘システムはどちらかが完全に気絶するか、降参しなければ決着がつかない。あのチビに降参するよう頼んで……いや、最悪でもオレたちが降参して――」






「――――やれ」






 突如、心臓が凍ったのではないかと錯覚するほどに冷たい声が、耳を通り抜く。


 振り返ると、先ほどまで愉快げな笑みを浮かべていた壊兎が腕を組んで仁王立ちをしながら目を見開いて、ヨロヨロと立ち上がっている銀髪の少年の姿をその瞳で捉えている。


「マ、マズイですよ、獅子瓦さん……⁉︎ 立ち上がったとはいっても、相手はほぼ瀕死の状態。これ以上攻撃しちまったら、本当に死んじま――」




「――なんだ? オレ様の言うことが聞けないのか?」




 向けられるだけで精神(こころ)が圧迫されるような視線で睨まれ、リーダー格の男は口を閉ざしてしまう。


人一人の死(その程度の些事)()()()()ぐらいオレ様なら簡単な事だってのはテメェらも知ってるはずだろ? それとも、ゴールデン・ビースト傘下筆頭のテメェらが、オレ様に逆らうってのか……?」


「い、いいえ⁉︎ 逆らうだなんてそんな滅相もない……! ……わかりました。このまま、決闘を続行します……」


 諦め混じりのため息を吐き出して、シャイン・ホルスの二人は再び拳を構える。それに対し、諏方はやはり立ち上がるのが精一杯なのか、口では何も発せず腕を上げることすらできないでいた。




「……もう完全にブチギレたッス……! たとえセンパイにあとで文句言われようが、オイラは戦うッスよ!」

「ウチももう限界……止めないでよね、まごいっち。止めようとしたら先に、アンタのことブン殴るから」


「落ち着け、たわけどもめ――――誰が止めると言った?」




 いつも冷静な声にわずかな怒気を交えて、孫一は()()でメガネを押さえながら前へと出る。




「俺も参戦する。……貴様らほど短慮ではないが、俺にも我慢の限度というものはある……!」




 いつも冷静沈着で、理屈の合わない事を嫌う孫一が珍しく感情を露わにしている事に驚きつつ、三人は諏方(仲間)を助けるために戦場へ足を踏み込もうとした。


 ――が、その足がふと止まる。






「――相手は二人。ならば、こちらも()()で挑むのが対等(フェア)というものであろう」






 孫一たち四天王の三人も、拳を構えていたシャイン・ホルスたち二人も、決闘を仕組んだ壊兎と事態を傍観していた茜も、そして半ば意識が薄れたまま立っていた諏方すらも――目の前の光景に驚いて目を見開いていた。








「この番外決闘――――()も参戦する」








 蒼色のコートをひるがえしながら、蒼龍寺葵司(最強)は戦場へその身を降り立ったのであった。

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