第52話 三巨頭会議⑧
「黒澤諏方――テメェには、『黄金猛獣』の傘下筆頭チームの『光の黄金隼』のメンバー五人、この全員と一対五で決闘ってもらう」
諏方を指差し、番外決闘の舞台へと指名する獅子瓦壊兎。彼の大胆な宣告に銀髪の少年の全身を緊張が駆け巡り、他の不良たちからも動揺のざわめきが上がる。
「獅子瓦――」
「――おっと、つまらないことを言うなよ、葵司ちゃん?テメェだってさっきの決闘で、本来武具を使用してはならないルールを破る例外を作っちまったじゃねえか? そんなテメェに、口出しする権利はないはずだぜ?」
「…………」
葵司は先ほどの山本降谷の蛮行を大事にしないために、決闘システムを利用して上手く騒動を小規模なものに収めた。だが同時に、本来は反則である武具の使用を許してしまったがために、この場においてエキシビジョン・マッチが一対一でない事について咎めるための説得力がなかった。
「ああ、もちろんこのエキシビジョン・マッチも通常の決闘システムのように、決闘する両者が承認しなければ決闘は成立しない。だがら一対五程度の状況に怯むようなら、断ってくれたって構わないんだぜ? ……まあ、テメェが棄権したその瞬間、黒澤諏方はその程度の男だったという評価を下すだけだけどな」
「ッ……!」
身体を纏っていた緊張が吹き飛び、怒りに染め変わる。金髪の獅子を睨む瞳は見開かれ、両拳は震えるほどに強く握られた。
「安い挑発に乗るな、諏方。この決闘、あまりに貴様に利がなさすぎる。それにシャイン・ホルスのメンバーはたった五人とはいえ、獅子瓦壊兎が言ったように全員が『気』を操れる。ゴールデン・ビースト傘下のチームでも精鋭中の精鋭。先日戦った数だけの『金色魚群』とは比べるべくもない。いくら貴様でも、たった一人で勝てる相手では――」
「――オイオイ、白けるようなこと言ってんじゃねえよ、孫一ちゃん? オレ様が問いかけているのはあくまで黒澤諏方ただ一人だ。決闘るか決闘らねえかなんてのはソイツが決める事であって、テメェにも口出しする権利はねえよ」
「ッ……」
孫一は一瞬眉根を寄せて歯噛みするも、それ以上は何も言わなかった。
「もちろんテメェの意思は尊重するさ、黒澤諏方。オレ様が選んどいてなんだが、相手は五人の上にいずれも気を扱える。テメェが喧嘩を買わねえ理由なんざいくらでもあるだろうさ。だがよ、黒澤諏方――」
獅子瓦壊兎は両手をポケットに入れ、声のトーンを落ち着けて静かながらも視線を鋭くし、銀色の獣を冷たい瞳で見つめる。
「――三巨頭の首……獲るつもりでいるんだろ、テメェ?」
一瞬――世界が無音に包まれる錯覚。
三巨頭それぞれの瞳が鋭く光り、それ以外の不良たちは目を丸くして信じられないものを見るかのように、銀色の獣を凝視する。
「気づいてねえとでも思ってたのか? そんなギラギラした瞳で見られりゃあ、テメェが何を狙ってるかなんてバレバレなんだよ」
「フフ、情熱的な視線で、お姉さんはつい興奮しちゃったってたよ?」
「…………」
三者三様の反応。いずれも三巨頭たちは、諏方の視線には気づいていたのであった。
「まあ、テメェみたいな無謀な野心家っつうのは別段、不良としては珍しくもねえ。この場ではのんきにジュースを飲んでいる連中の中にも、隙あらば三巨頭の地位を狙おうと牙を隠している奴らだっているだろうさ。だが……気を操れるとはいえ、たった五人程度の不良たち相手に怯んでるようじゃ、三巨頭には一生たどり着けねえ」
「…………」
しばらく諏方は無言でいた。
これも明らかな挑発なのはわかっている。ここでシャイン・ホルスの五人と戦おうと戦うまいと、諏方の目標に変わりなどない。
だが――、
「……………………ハァ」
ため息一つ。それは疲れや呆れから出たものではない。
昂り、苛立ち、緊張――複雑に絡み合う感情を落ち着かせ、迷いのない清廉とした瞳で諏方は壊兎をまっすぐに見つめる。
「――その決闘、受けて立つぜ」
あまりにも無茶な条件でのエキシビジョン・マッチに、諏方は挑む事を宣言する。
「なっ――⁉︎ やめておけ、諏方! たしかに貴様は気のコントロールを覚えて以前よりも強くなったが、それでもシャイン・ホルスのメンバー全員を一度に相手するのは無理だ。退けば臆病者だと罵られるだろうが、戦うべきではない戦況を判断するのもまた強さだ。ここは堪えるべきところだぞ、黒澤諏方……!」
「……わかってるさ。だけど…………何度も言わせんなよ、孫一。テメーはこうも言ったはずだろ?」
諏方は振り返らず、一歩前へと足を踏み出す。
「足を止めずに、前に進め――ってな」
「っ……」
自身の言葉を用いて孫一が諭されたのはこれが二度目。彼は複雑げな視線で諏方の小さな背中を見つめ、そっと人差し指でメガネを押し上げる。
「……好きにしろ、たわけ」
突き放すような孫一の言葉には、どこか嬉しげな声音が混ざっていた。
「テメェの勇敢さに感謝するぜ、黒澤諏方。せっかくの三巨頭会議、盛り上げどころの一つや二つは作らなくちゃだからなぁ?」
二人のやり取りを嘲るように見下ろす壊兎を、諏方は口に出さずとも冷たい眼差しで見上げ返す。
「それじゃあさっそく、始めるとするか……おい?」
「「「「「押ッ忍ッッッッ――!!」」」」」
シャイン・ホルスのメンバーたちが一斉に前に出る。
全員が大柄な体格で、それだけでも強い威圧感を感じさせられるが、その派手な見た目からは想像できないほどに呼吸が整っている。それだけで孫一の言う通り、彼らが同じ傘下であるゴールド・フィッシュとは比べものにならないほどの実力者揃いである事がわかる。
「獅子瓦さん、念のため確認しておきますが、同じ傘下である四天王のこのチビ……本気でボコっていいんですよね?」
シャイン・ホルスの中でも特に体格の大きいリーダー格らしき男が、さらに一歩前へと踏み出る。
「構わねえぜ? 本人も、それをご所望のようだからな」
啓蒙する猛獣の王からの言葉をいただき、隼たちは指をパキポキ鳴らしながら諏方へ近づく。他の不良たちは自然と彼らから距離を置き、無人駐車場の中央は決闘のリングと化す。
「オレたちシャイン・ホルスはゴールデン・ビースト傘下最強と謳われてたのによぉ、テメーら四天王だかが出しゃばりやがってすっかり話題を取られちまった……この決闘でどっちが立場が上か、キッチリ教えてやんねえとなぁ?」
すでに勝った気でいるシャイン・ホルスのメンバーたち五人は、嘲笑を浮かべながらも威圧的な視線で小柄な少年を見下ろした。
「……そっか、じゃあ明日のネットニュースにはこう載せてやんねえとなぁ」
それに対し、諏方は一切の怯みなく不敵な笑みで彼らを見上げ返す。
「自称最強のシャイニなんちゃらってチームは、五人も揃って四天王一人にボコボコにされました――ってな?」
今まで感情表現に乏しかった諏方から発された珍しい挑発的な言葉に、シャイン・ホルスのメンバーたちの顔色が一気に赤くなる。
「なめんな、クソチビがぁッ――!!」
怒りの形相をあらわにした五羽の隼たちは拳を振り上げて、一匹の銀色の獣に向かって一斉に襲いかかったのであった。




