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あたしのパパは高校二年生  作者: 聖場陸
外伝『黒澤諏方は高校二年生』シルバーファング結成編
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第51話 三巨頭会議⑦

「ステイ……ステイだぞ、黒澤諏方」


「わーてるよ……犬みてえに言うな」


 山本降谷による蒼龍寺葵司襲撃騒動から一時間近くが経ち、三巨頭会議はすっかりと見た目騒がしく、だが交わす声は静かという元の奇妙な不良集会にその様相を戻していた。


 その騒動の中心になっていた者たちはというと――、




「さあ、葵司さん……! どうぞもう一杯……」


「山本降谷、貴様……! 先ほど総長に向けてナイフを振り回していた分際で、何を今度は従順な(いぬ)めいている……! 総長に(しゃく)注ぐ役目は副総長である私のものだ……!」


「ハ……! そんな決めつけは知らないね。なんなら副総長もお忙しくあるでしょうし、その役目はオレが引き継ぎますよ?」


「クッ……総長に許しを得たとて、総長に刃を向けた貴様を私が許すと思うなよ……!」



「どちらでもよい……ジュースぐらい、静かに飲ませてくれ……」




 ため息をこぼす葵司の前で、蒼青龍(アズール・ドラゴン)副総長の昇と新メンバーの降谷の二人が共に睨み合っている。二人の周囲だけまだ刺々しい空気はあったが、それでも先ほどまでの殺伐とした雰囲気が嘘のように、目の前にあるのは実になごやかな光景だった。


「ようやく三巨頭会議が平穏に戻ったんだ。この温和な空気の中で、闘争本能むき出しの顔をするんじゃない、たわけ。ただでさえ俺たち四天王は先のネットニュースのせいで、他の不良たちからいらぬ注目をされているんだ。いくら俺たちが獅子瓦壊兎の庇護下にあるとはいえ、奴に利がない限り俺たちに味方してくれるとは考えない方がいい。……今は下手に敵を増やさないでおくのに越した事はない。この場ではなるべく、おとなしくしていてくれ」


「わーてるって……これでも抑えてるんだよ」


 言いながらも、その視線は葵司に向けて釘付けになっている。獲物を見つけた獣の瞳――普段感情に乏しい諏方がこれほど闘争心を表に出すのは、彼の転校初日に孫一と一戦交えた時以来だろうか。


「……一応忠告しておくが、何の考えもなしに蒼龍寺葵司に喧嘩を売るなよ。今の貴様の実力では、天地がひっくり返ろうともあの男に勝つのは不可能だ。……それぐらいは、今の貴様でも理解できるはずだ」


「……わかってるさ。だけど――」


 龍を見つめる獣の瞳に揺らぎはなく、まっすぐに――、




「――それが、オレがアイツとの決闘(ケンカ)を諦める理由にはならねえ」




 キッパリとした声音(こわね)による宣言――そこには、黒澤諏方の強い意志が込められていた。


「…………たわけが」


 そうこぼしながらも孫一は、口元を押さえてくぐもった笑いを漏らした。


「……んだよ、何笑ってやがるんだ?」


「別に。ただ――」


 いつも仏頂面(ぶっちょうづら)の孫一が珍しく微笑を浮かべ、人差し指でメガネを押し上げる。


「――俺の人を見る目も、どうやら捨てたものではないらしい」


「……っ?」


 孫一の真意はわからないが、ともかくとして彼が少し嬉しそうにしているのを見て、諏方も特別追及することはしなかった。






「なーんすか、センパーイ……! まごっさんとばっかり喋ってて、オイラのことちっとも構ってくれないじゃないッスかー?」






 突如、顔を赤くした晋也が背中越しに諏方へと抱きついてきた。


「なっ、なんだよ晋也……⁉︎ テメー酔ってんのか?」


「バリバリのノンアルコールよ。ただコイツ、場酔いするタイプだから」


 呆れ声になってる明里ではあったが、彼女もまたなぜかほんのりと顔を赤らめている。


「だぁー、もう……! 明里、コイツをさっさと引っぺがしてくれ……! いつも以上にうっとうし――」








「はああああい、ちゅーもーくッ――!」








 先ほどまで騒がしげながらも、声の音量(ボリューム)は抑えられていた会場(無人駐車場)内に、耳をつんざくほどの大声が鳴り響く。


 全員の視線が声のした方向に向けられる。そこに立っていたのは三巨頭の一人――獅子瓦壊兎。彼は不気味な笑みを浮かべながら仰ぎ見るように夜空を見上げて、両手を広げてまるでこれから演説でも始めるかのような立ち姿を見せた。


「……声が大きいぞ、獅子瓦」


「まあそう固いこと言うなよ、葵司ちゃん? ――さあ! 宴もたけなわなわけだが、今回の三巨頭会議も残すところ一時間になった。どっかのナイフを持った馬鹿が起こした一騒動(ハプニング)のおかげで多少の盛り上がりはあったが、それだけじゃあ面白くねえ。というわけでだ――」


 壊兎は口に拳をかぶせてコホンと一払い置き、再び両腕を広げて高らかに宣言する。




「――これより、番外決闘(エキシビジョンマッチ)を開催するッ!!」




 その宣言に、周囲の不良たちから興奮混じりのざわめきが上がる。


「通常の『決闘システム』では、決闘の希望者が喧嘩したい相手を選んで、相手がその挑戦に応じることで決闘が成立する。だがエキシビジョンマッチはオレ様が誰と誰が喧嘩するかを選び、お互いが了承すれば決闘(マッチ)が成立する。要は、オレ様好みの決闘(しあい)が見られるオレ様のための特殊な決闘法(マッチルール)さ!」


「「「ウォォオオオオ――!!」」」


 待ってましたと言わんばかりに、数多(あまた)の不良たちから喝采の声が響く。



「おいおい、つまり何でもありってやつじゃねえか……蒼龍寺葵司はこのエキシなんちゃらってやつ、許可してんのか?」


「……むしろ、獅子瓦壊兎が三巨頭に入る事の条件の一つにある程度自分に融通の効いたルールを制定する、というのがある」


「条件? アイツは自分から三巨頭に入ったわけじゃねえのか?」


「……獅子瓦壊兎は不良の中でも恐ろしく頭が良く、なおかつ凶悪性が高い。奴が三巨頭に席を置いているのは、何も実力が高いからだけじゃない。奴の凶悪性をある程度監視し、抑え込めるためにあえて蒼龍寺葵司は自分の横に置いているんだ。俺が豚山猪流を監視するために四天王に置いていたように、三巨頭という席を渡してある程度の権限を与えるかわりに、それ以上の非道を防ぐための条件付き融通措置だ」


「っ……」


 諏方の壊兎を見つめる瞳が鋭くなる。それに気づいてか気づかずか、金髪の獅子はさらに言葉を続ける。


「さて、さっそくだがマッチする両者を選んでやろう。光栄に思え? オレ様がわざわざ選んでやったって事は、つまりは決闘が面白くなるとある程度実力を見込んでやってる事だからよ」


 そして――ふいに視線は交錯する。




「――黒澤諏方、一人目はテメェを選んでやるよ」


「ッ……⁉︎」




 予想してなかったわけではない――それでも獅子瓦壊兎に直々(じきじき)に指名された事に諏方は思わず息を呑み、肌を緊張が疾る。


「テメェは『黄金猛獣(ゴールデン・ビースト)』傘下の桑扶高校四天王期待の新人だ。当然、先の桑扶高校屋上騒動での活躍も耳にはしている。だがまだ貴様の闘いをオレ様は(じか)に見たわけじゃねえ。そこでぜひオレ様の指名した相手に勝って、テメェがどれほどに使()()()男かを見極めさせてもらおうって事さ」


「ッ……」


 諏方の壊兎に向ける視線がより鋭さを増し、拳も自然と強く握っていた。


「オイオイ、決闘前から()る気満々なのはけっこうだが、まだ抑えててくれよ。何もオレ様とやり合うわけじゃないんだからよ? さて――肝心の対戦相手だが……おい」


 事前に壊兎から話は受けていたのだろう――あえて視線を向けずとも、彼の声で()()の金髪の不良たちが立ち上がった。




「『光の黄金隼(シャイン・ホルス)』――ゴールデン・ビースト傘下のチームの中でもトップクラスの実力を持つメンバーが揃った不良チームだ」




 立ち上がった不良は五人――全員が金髪ではあるが、体格は大柄や細身のまでバラバラではある。しかし、彼らから発する異様な威圧感はいずれも強大であった。


「メンバー人数はたったの五人だが、全員が『気』を操れる実力者揃いだ……黒澤諏方ッ――!」



 壊兎は実に楽しげな笑みで、諏方に向けて指を刺す。




「――テメェには、この五人()()と戦ってもらう」




「ッ――⁉︎」


 さらなる宣言に諏方はもちろん、その場にいるほとんどの不良たちから今度は驚愕混じりのざわめきが鳴り、無人駐車場の空気を再び震わした。

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