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あたしのパパは高校二年生  作者: 聖場陸
外伝『黒澤諏方は高校二年生』シルバーファング結成編
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第54話 三巨頭会議⑩

 三巨頭会議に参加する不良たち――ダメージの負いすぎで気を失いかけていた諏方ですら、目の前の光景に言葉を失っていた。




「この番外決闘――――()も参戦する」




 対峙する諏方と光の黄金隼(シャイン・ホルス)のメンバー二人の間に割り込むように、蒼龍寺葵司が蒼いコートをひるがえしながら番外決闘エキシビジョン・マッチ戦場(リング)へと降り立ったのだ。


「……なんのつもりだ、葵司ちゃん? 『決闘』において、外部からの口出しはご法度(はっと)じゃなかったのか?」


「今さら良識ぶるな、獅子瓦壊兎。横からの口出しと言うのなら、()()も先ほどからさんざんにやっているではないか。そも、これは番外決闘。最初からルールの外れにあり、一対五という不条理(アンフェア)を押し通したのも貴様が先であろう」


「ッ……」


 静かに睨み合う龍と獅子。無人駐車場は今まで以上に異様な緊迫感に包まれ、呼吸の一つすら重苦しく感じる。


「なっ……オレは別に、助けなんていらな――ぐっ! ッ……」


 葵司の背に向けて抗議しようとした諏方であったが、蓄積された痛みに身体が耐えきれず、片膝を地面に着いてしまう。


「ここは私に任せて、()は少しでも身体を休めるんだ。なに、万が一助力が必要になった時は、遠慮なく君の力を借りるとしよう」


 そう言いながら前方へ一歩進む葵司。そのたった一歩がシャイン・ホルスたちに抗えない敗北の未来を予感させ、気づけば彼らの足は無意識に一歩後ろへと下がっていた。


「……し、獅子瓦さん……蒼龍寺葵司を相手にたった二人――いや、五人揃っていたって勝てるわけがありません……ここは、降参の許可を……」


「…………」


 壊兎は部下の嘆願に何の反応も示さない。ただ変わらず、葵司を睨みつけている。


 葵司もまた踏み出した足はたった一歩で、その後は立ち止まって壊兎の視線を見つめ返す。互いの視線に、とうにシャイン・ホルスたちの姿は映っていなかった。


「…………」


 葵司も何も言わない。ただ彼の瞳は、壊兎が次に発する言葉を待っていた。






「……………………萎えた」






 壊兎の表情が、心底つまらなさげなものへと変わる。そして葵司に背を向け、後方へと下がり出してしまう。


「もういいよ、シャイン・ホルスたちの降参を認める。テメェらの勝ちって事でいいよ、蒼龍寺葵司。それと……銀髪のチビ」


「っ……」


 いつもなら自身の(コンプレックス)を揶揄する者には食ってかかる諏方だが、今の満身創痍の状態ではそれもままならなかった。


「オラ! 決闘(見せもん)は終わりだッ! そろそろ三時間、三巨頭会議もまもなく終いだ。さっさと片づけの準備に入れ!」


 明らかイラだたしげな声で指示を飛ばす壊兎。先ほどまで観戦者(ギャラリー)だった不良たちはあわてて、周囲の片づけを始めたのだった。




「……くそっ、余計なことをしやがっ……くっ……!」




 文句を言いたげな諏方であったが、決闘での緊張感が途切れてかろうじて身体を支えていた力が抜け出し、地面へと倒れようとする。


「…………ッ! なっ……⁉︎」


 諏方の身体が地面に落ちる寸前――誰かが彼の身体を抱き止めた。




 葵司であった――彼が諏方の身体を抱き止め、()()()()()()の要領で銀髪の少年の小さな身体を持ち上げたのだ。




「なっ、何しやがるんだ、テメー⁉︎ 恥ずかしいだろ――ぐっ――!」


 突然の状況に顔を赤くしながら、抱きかかえる彼の腕から抜けようともがくも、痛みで身体は言うことをまったく聞かず、されるがままの状態になってしまっていた。


「おとなしくしているんだ、黒澤諏方。もっとも、そのケガでは無理に身体を動かすこともできないだろうが」


 葵司は顔色一つ変えず諏方を抱きかかえたまま、未だ唖然としている四天王たちの元へ彼を運んだ。


「…………なんで……なんでオレなんかを助けやがった……?」


「そうだな……まずは()()の勝利に終えたとはいえ、結果的に君の誇り(プライド)(けが)した非礼は謝罪しよう。だが今日の件に関しては、私自身驚いている。――動いてしまっていたのだ。考えるよりも先に、私の身体が……」


 表情変わらず、声色も変えず――だがどうやら、葵司は思考よりも先に行動した自分の身体に驚いているようだった。




「どうやら――私は君を、ここで失いたくはなかったらしい」




「っ……」


 小っ恥ずかしくなるようなセリフを平然と口にする葵司に、諏方は思わず呆けてしまう。


「君は不良界に入ってからまだ日が浅い。にも関わらず、黄金猛獣(ゴールデン・ビースト)傘下筆頭であるシャイン・ホルスのメンバーを三人も倒したのだ。まずはこれについて、称賛するべきであろう。……先にも言ったように、私は君に運命めいたものを感じている。これは勘に近いものであり、理屈に添った言語では(あらわ)せないのだが……勘は少しずつ、確信に近づいている」


 淡々とだが、葵司の声にどこか情熱的な感情が入り混じっているようにも聞こえる。




「もっと強くなれ、黒澤諏方――あるいは、いずれ()と肩を並べる時も来るかもしれない」




「…………」


 その言葉がどこまで本気かはわからない。だが、胸に去来するはかつて孫一にも同様の言葉をかけられた時に感じられた、欠落した感情(こころ)が埋まるような感覚。冷えきった鼓動が静かに熱くなり、力も入らず動くはずのない拳が自然と握りしめられていた。




「センパイ!」

「すがたっち!」




 四天王たちの元へ運ばれた諏方に、まっさきに晋也と明里の二人が駆け寄る。


「大事には至っていない……と言いたいところだが、放っていい傷ではないのは確かだ」


 葵司はゆっくりと諏方の身体を地面に下ろすと、彼の胸部の真ん中、心臓が位置する箇所にそっと拳を当てた。


 そして――、




「波ァッ――――!!」




「ッ――⁉︎」


 瞬間――諏方の身体が心臓マッサージを受けたように、胸側が大きく跳ね上がる。


「わずかだが私の気を送り込み、一時的に細胞を活性化させた。二、三日安静にしていれば、自然治癒で十分に動けるほど回復できるだろう」


 葵司の言う通りまだ満足には動けないものの、諏方の全身に重くのしかかっていた痛みがゆっくりと引いてゆき、羽が生えたかのような浮遊感すら感じさせるほど、身体の負荷が軽くなったのだった。




「センパーイ! 無事に帰ってきてくれてよかったッス!」


「もう!ウチら本当に心配してたかんな、バカ!」


「いてぇ……頼むから、今はあんま強く抱きつかないでくれ……」




 わんわんと泣きながら、ボロボロになった諏方に抱きつく晋也と明里。


「では、私も片づけを手伝うゆえ、ここは失礼する」


 これ以上三人の邪魔はしまいと、彼らに背を向けて葵司はさっさと去ろうとしてしまう。


「あ! 葵司さん! センパイのこと、助けてくれてありがとうッス!」


 葵司は無言無表情で振り返り、言葉のかわりに二本指を立ててそれを返答とした。そしてすぐに手を下ろし、再び背を向けて群衆の奥へと消えていく。


「……あれがお姉ちゃんに並ぶカリスマ、蒼龍寺葵司……ウチんとこの御大将(獅子瓦壊兎)とは器が大違いだわー」


「不良なのに徹底的な平和主義者。メチャクチャ強くて、頭も良くて、カリスマ性も高い……正直この一日で、レベルの違いをまざまざと見せられた気分ッスよ」


 蒼龍寺葵司の武勇伝同然のウワサ話は不良である以上、二人は当然何度も耳にしているのだが、この三巨頭会議での彼の活躍ぶりを目の前にしてウワサ以上の存在であった事を改めて認識させられるのであった。




「つえーな、アイツ」




 ポツリと、地面に倒れたままである諏方が、独り言のようにつぶやいた。


「……心折れたッスか、センパイ?」


「……いや、むしろ燃えてきた……!」


 身体は動かない――だが、諏方の瞳の中の闘志は、まだ燻ってはいなかった。


「オレ……もっともっと強くなる。そんでいつか、アイツと対等になれるまで強くなれたら……蒼龍寺葵司と、本気で決闘(ケンカ)してみてぇ……!」


 改めて、己の望みを口にする諏方。


 聞けば無謀だと一笑に付されるだろう少年の目標を、しかし二人は笑わなかった。


「オイラは応援するッスよ。そんでもしセンパイが勝ったら、こう言うんッス――オイラはセンパイの、第一コウハイ(ファン)だって」


「いーや、ウチのお姉ちゃんがの方が先に蒼龍寺葵司を倒すんだもんねー。……って、お姉ちゃん別にあの人と闘うだなんて言った事ないけど」


 決闘の後だとは思えないほどに、和気あいあいと会話する四天王の三人。


 だがしばらくして、晋也はある違和感に気づいたのであった。




「あれ? そういえば、まごっさんがいつのまにかいなくなってるッスね……?」

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