第一章42話 『多勢に無勢!』
金剛が抜けて、残るはあと16人。敬助は残った者に陣を取るように命じた。敬助を中央に、それを囲い込む四角形に4人、外側に五角形になるように5人、さらに外側に六角形になるように6人が配置した。最前列、六角形の先端にいるのは武蔵、その後ろの五角形の先端にいるのは一番隊の副隊長、白河政宗でそれぞれ中核になっているようだ。この意味不明で不気味な陣形に何の意図があるのかわからなかったが、私は傷を修復したあと、高速魔法で突っ込んでいった。なぜなら、中央にリーダーを置いて守っているなら、リーダーさえ倒してしまえばいいので中央に乗り込むのみだと思ったからだ。
真正面にいた武蔵は、槍を持ち構えて結衣の剣と勢いを受け止めた。背後に風をまとい、衝撃を吸収した。それでも、武蔵は少し後ろに引きずり下がった。動きが止まった瞬間に武蔵は大きく後ろにジャンプした。何があるのか、と予測魔法を使う前に全方位から様々な魔法が飛んできた。
「天然理心流!車輪剣!」
私は高速回転してそれらを剣で打ち消した。でも、間髪入れずに槍が飛び込んできた。咄嗟にプロテクトをかけ、魔粒子が盾となり防いだ。お返しに斬撃を加える。しかし、これは弾かれてしまった。その隙を狙って魔法が再び全方位から飛んできた。これをなんとか魔粒子の盾で防ぐ。その魔粒子が散って行く最中に、政宗が突き攻撃をしてきた。今度こそ避けられず、腹部に突き刺さった。吐血をしたが、私は笑みを浮かべる。不気味なあまり、政宗はさっそうと剣を抜き取り、後ろに下がった。私は不気味に笑いを上げる。
「私の本気を見せてあげる。」
急に真顔になって敬助のほうを睨みつけた。そして、宙に浮かび、距離をとってから詠唱を始めた。
「ローマの最高神ユーピテルよ」
結衣のからだが浮き始める。
「天を操り、雷を起こせ」
上空に雲が集まり、結衣の周りに風が吹きはじめ、辺りに電流がはしる。
「天使の羽を付与し」
結衣の背中に天使の翼が現れ、
「我の願いのために」
羽を羽ばたかせて天高く舞う。
「事象を支配せよ」
結衣の剣が黄色く輝く。
「インペリアル・エンジェル・スカイ!」
この高ランクな魔法にみんなはあ然としていた。しかし、動じずにいた者もいた。敬助はその一人だった。敬助はすぐに指示を出す。でも私は、その指示の伝達を待たなかった。高速で飛び回り、攻撃をまだらにする。鎖は弱いところからこわれていくように陣はすぐに崩れた。それに危機感を持ったのか、武蔵が全力で止めに来た。
「そっちがその気ならこっちだって!」
武蔵は空いている手で指を立てて動かすと、
「風よ!」
短い言葉でいっただけで風が周囲に起こり、
「槍よ!」
何本かの槍が現れて風に浮かぶ。それから、武蔵が指で指示すると勢いよく槍がこっちに飛んできた。予測魔法では読みきれない。だから私は魔法をリリースして、自分の魔粒子を勢いよく放出し、槍を弾いた。しかし、槍は途中で折り返し、再びこっち向かってくる。これはキリがないパターンだ。そう思うと私は、槍自体を消滅させることにした。こっちにだって天候を操ることができるのだ。私は空を暗くし、雷雲を立ちこめて、雷を槍に落とした。けれども、これだけでは壊れなかった。ここで総司の固有魔法を使うわけにはいかないので、術者である武蔵を倒すことにした。
私は槍に追いつかれないような速さで武蔵という獲物を狙う。超がつくほどの高速魔法で武蔵も風や槍を出して防ぐこともあったが、対抗することはできなかった。数カ所に傷を負ったところで武蔵は手を挙げて降参した。
「悪いな。俺はここまでだ。あとはよろしくお願いします、敬助さん。」
武蔵は敬助に託して退場していった。これで残るは9人。敬助率いる一番隊のメンバーだ。