切通蛍 前編
5時間目終了のチャイムと同時に起きあがる。さすがに2コマ連続でサボるわけにはいかない。
教室に戻ると、蛍の姿が見えなくなっていた。
「まごめ、蛍はどうした?」
「なんか調子悪いとかで早退したよー」
「そうか。あとでメールでも送ってみようかな」
「そしたらきっと蛍も喜ぶよ」
昼休み前までは調子悪そうには見えなかったがどうしたのだろう。明日は居合道の稽古日だけど来れるのかな。
カナは女子グループの中で談笑していた。その様子を見ていたら目が合い、気恥ずかしくなってそらす。
まごめからなんとも言えない視線が飛んでくるがそちらの方は向かず、司彩の方を見る。昼休みに読んでいたラノベの2巻目を読んでいた。さてはこいつ授業中に読んでたな。
「やあタカト、授業をサボった気分はどうだい? 背徳感がたまらないだろう?」
「お前と一緒にすんな。いちおう真面目人間としてとおってるしもうサボらないよ」
「残念だ。今度タカトとサボってポータブル版モンフォンしようと思ってたのに」
モンフォンは略称。誰もが知る国民的ハンティングゲームである。
「う、なんてあらがいがたい提案を!」
「にいちゃんさっきいちおう真面目人間って言ってたよね!? ダメだよサボりなんて。そんなことしたらあたしとカナちゃんでダブルラリアットするからよろしくー」
「すまん司彩、やっぱり無理だ」
「むぅ。タカトの命がかかってるなら仕方がない。いつも通りオンラインの方だね。今夜はサイガーオンラインの方を少なめにしてそっちをメインにやろう」
「了解。我らがギルマス、ルーラーさん。そういうことだ山谷、お前も今夜22時あたりログインできるだろ?」
「無論だ。モンフォンはいいとしてもサイガーオンラインの方はまだまだキャラが育ちきってないからな。よろしく頼むギルマス、副ギルマスよ」
「「まかせておけ!」」
こいつらと趣味の話をすることで少し気が楽になった。
でも、答えを先延ばしにするわけにはいかない。いつもは夜中の2時くらいまで司彩とネトゲをしているが今日は0時あたりに切り上げよう。
俺は、日曜日までに自分の中で答えをだすと決めていた。2人には月曜日に返事をしようと思う。
6時間目はしっかり集中して受け、放課後は真っ直ぐ家へ帰る。その道中で蛍にメールを送ることにした。
『蛍、今日早退したんだって? 体調はどうだ?』
それから5分後くらいに返信が来た。
『問題ない。少々頭痛がしたくらいで、家に帰って少し休憩したら治った』
病気とかじゃなくてひとまず安心だ。
『そっか。ならよかった。明日の稽古は来れそうか? 昇段審査の演武の型をみてもらいたいなと思ってて』
『今は元気だし行けそうだ。もちろんいいぞ。というか私の方こそみてもらいたい。お互いにアドバイスし合わないか?』
『賛成! じゃあ全体稽古が終わったあとによろしく頼む』
『うむ。そうだ、もう1つお願いがあるのだが……。稽古時間が終わって門下生が全員帰ったあと、少しだけ残ってはもらえないだろうか?』
『いいけど、何かするのか?』
『前回の大会の録画映像を一緒に見ようと思ってな』
『そんなの録ってたのか。了解!』
『ではまた明日学校で』
『はいよー』
蛍とのメールは簡潔でストレスないから楽でいいな。カナの場合だとこうはいかない。メールの受信履歴をさかのぼると8割がカナからきたものでうめつくされている。
俺はスマホをポケットにしまい、空を見上げながら通学路を歩く。一度も転ばずに家にたどり着けたのは運がよかった。
アニメを見たりゲームをしたりしていたらカナとまごめが部活から帰ってきた。ご飯できたよーと呼ばれ階段を降り、いつも通り3人で食卓をかこむ。
「みーくんおかわりほしい?」
「おう、頼む」
「あっ」
お椀をカナに渡すとき、偶然、指が触れ合う。
普段だったらこんなことぐらいで動揺しないが、屋上でのことがあったため意識してしまい思わず手を引っこめてしまった。
「す、すまん」
「こ、こっちこそ」
なんだこの付き合いたてのカップルみたいな雰囲気は。カナが恥ずかしそうに目をそらしながらもじもじするせいでなんだかこっちも恥ずかしくなってしまう。
「みーくん、顔赤くなってる」
「お前もだろ」
「恥ずかしがってるってことは、女の子として意識してくれてるってことだよね。嬉しいな」
ぺろっと舌をだしはにかむカナ。
そんな俺たちをふてくされながらにらみつけているまごめ。
この空気はマズい。非常にマズい。なんとか普段通りに戻さなければ。
「まごめ、前にからあげをとられた仕返しだ! アジフライゲットだぜ!」
無駄にテンションをあげながらまごめのアジフライを奪って食べる。
「にいちゃんそれ食べかけ……間接キス……」
「むぐっ!?」
まごめはうつむいて顔を赤らませながら消え入りそうな声でそう言った。
間接キス、というワードが体育館での出来事を連想させる。まごめも今までと比べたらありえないほどいじらしい反応だ。完全にやらかした。
「みーくん、わたしのアジフライもどうぞ!」
なにやら焦った様子のカナが強引に口に押し込んでくる。
「ちょ、待てカナ、まださっきのが口の中に、むぐぐっ!?」
普段通りの食卓、とはとうてい言えず、その後も似たような出来事が続いた。
ドッと疲れた俺はベッドに横になりながら改めて決意を固める。早くハッキリとさせなければ。あの2人のためにも、俺のためにも。




