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浮海彼方 後編

 あまりにサラッとこともなげに言うものだから、すぐには理解できなかった。

 ゆっくりとカナの言葉をかみ砕いて、やっと理解する。

 俺は驚きのあまり呼吸も忘れてカナを見上げる。カナはまだ空を見上げていた。


「同時に、まごちゃんもみーくんのことが好きなんだって気づいた。でも、わたしもまごちゃんも、みーくんと同じ気持ちだったから今まで言わなかったんだろうね。けど、ほっちゃん、つーちゃんがきて、そうも言ってられなくなった。覚えてるでしょ、つーちゃんが教室で、みーくんと付き合ってる宣言したときのこと」


 もちろん覚えている。あのときまごめは姿を消し、カナは泣きそうな顔でこちらを見ていた。


「あのときにまごちゃんはみーくんに告白しようって決意したんだろうね。想像しちゃったんだ。みーくんのいない生活を。それはわたしも同じ。でもね、わたしはまごちゃんだったらいいかな、って思ってたんだ。わたしの大好きな2人がくっつくなら、しょうがないかなって。きっと応援してあげられるって。そう、思ってた」


 ぽた、と額に水滴が落ちる。それが汗なのか、それとも別の何かなのかはこのアングルからでは判別することができなかった。


「でもね、ダメだった。空を見ながら色々考えてて、気づいたらみーくんに屋上に来るよう伝えてた。わたしは、どうしようもなくみーくんのことが好きだったんだ」


 後半震え声になっていることに気づき、俺はひざまくらの状態から頭を起こしてカナの横に座り直す。


「……泣くなよ」

「誰のせいだと思ってるの。それに、泣いてなんかないよ。みーくんのことを想うと胸のあたりが熱くなって、それで汗をかいちゃっただけ。わたしがみーくんの前で泣くわけないじゃない」

「そうだな、カナは俺やまごめをいつも励ましてくれるくせに、自分の弱いところは一切見せてこなかったもんな。10年近くも一緒にいるのに、はじめて泣き顔見るなんておかしな話だよ」

「だから、泣いてないって。ほら、いつもどおりのかわいい笑顔でしょ?」


 人差し指をほっぺたにつけておどけてみせるカナ。必死に口角を上げ笑みをつくっているが、やはり泣いているように見えた。


「俺の前で無理なんかしなくていいんだ。なんでそういつも強がるんだよ」

「べ、別に無理してないし、みーくんに弱いやつだ、情けないやつだって思われたくなくて、それで」

「カナは強いよ。俺なんかよりずっと」


 俺がそう言うと、カナは不自然な笑顔をくしゃっとゆがませた。


「なんで、今、そういうこと、言うかなぁ」


 カナはその表情を隠すように俺の腹部に頭を押しつける。そしてくぐもった声でこう言った。


「少しだけ、ギュッとさせて。少しだけでいいから」


それから数分間、昼休みが終わるちょっと前までそのままの姿勢で時間を過ごした。

 その間、俺とカナは何も話さなかった。カナは何を考えていたのだろう。俺は何を考えていたのだろう。


「よっし、充電完了!」


 カナは急に俺の身体から離れ、立ち上がる。


「わたしもね、まごちゃんと同じですぐに返事がほしいわけじゃないんだ。できれば今の生活を続けたいって思ってるから。ただ、もしみーくんがほっちゃんやつーちゃんと付き合う、なんてことになったら、そのときはすぐに教えてほしいかな」

「俺が蛍や司彩と付き合う? ないない」

「わからないよ。みーくんにその気がなかったとしても、あの2人から告白されたら、どうする?」

「どうするったって、そりゃ……」

「ごめん、イジワルな質問だったね。わたしが言いたいのは、わたしかまごちゃん以外の人と付き合うつもりなら教えてってこと。そしたらわたし、みーくんの家に行くの、やめるから」

「っ! わかった、よ」

「約束ね。絶対だよ?」

「俺がカナとの約束やぶったことあるか?」

「なんだかんだ言ってみーくん昔から約束は全部律儀に守ってくれたよね。安心あんしん」

 カナは柵に身を乗り出し、吹き付ける風を一身に受けていた。

「みーくんに話せてスッキリした~。じゃあ、わたしはそろそろ教室に戻るね」

「俺はしばらくここにいるよ」

「ん。そうだ、今日も夜ご飯作りに行くから。今夜はみーくんの好きな具だくさんカレーだから楽しみにしててね」

「お、そりゃ楽しみだ」


 さっきまであんな話をしてたのに、カナはもう普段通りに振る舞っていた。

 音を立てて閉まる屋上のドア。

 カナが去ったあとも、そこをぼーっと眺める。

 少ししてからガタンと物音がしたため、カナが戻ってきたのかと思ったが、誰も入ってこなかった。勘違いだったのかな。

 俺は、5時間目をサボることにした。

 さっきまでカナと座っていたベンチに腰掛けながら物思いふける。

 カナとまごめ。2人の気持ちを知ってなお、今まで通りの生活を続けられるのか。恋愛対象として見れるのか。

 俺はベンチに寝転がって、カナと同じように空を見上げる。

 カナが悩みごとや大事な行事の前に空を見上げる理由がわかった気がした。

 まごめ、カナと2日連続で告白されたせいで頭の中は混乱を極めている。しかし眼前に広がる大空を見ていたら、なんとなく、本当になんとなくだが答えがつかめそうな気がした。

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