嵐を呼ぶ席替え 後編
「はいはいイチャイチャしてるとこすみませんね~おとなり失礼しまぁす」
俺の義妹だった。そして右となりの席だった。
まごめの言葉にさらにテンパる蛍。
「い、イチャイチャなどしておらん!」
「してますーどう見てもしてますー周りの人もそう思ってますー」
「なに、そんなバカな」
きょろきょろと周りを見渡す蛍。ひそひそ声に気づいてみるみる赤面。
「こ、これからは気をつけよう、うん」
「そうだよ~、あんまりオイタするとほっちゃんといえどわたし、なにしちゃうかわからないからね~」
いきなりぶっこんでくるなよカナ。転校初日なんだから優しくしてあげなさい。
「あのなお前ら、この俺がイチャイチャとかありえないからな。なんでまごめもカナもそんなカッカしてんだよ」
そう言うとまごめやカナから、やれやれというジェスチャーつきの哀れみの目で見られた。
「にいちゃん、その性格ほんとなんとかした方がいいよ」
「みーくんにはいろんな意味で失望したよ~」
なぜ俺が責められているんだ。解せぬ。
それからも左右からそもそもにいちゃんは、そもそもみーくんはと次から次へとダメだしされ、いちいち反論するのに疲れたところで、オロオロと見てただけの蛍がこほんと咳払いをした。
「ミナト、まごめ、カナ、そういうことで、これからもよろしく頼む。学校案内、お願いしてもいいだろうか。あとできればお昼ご飯も一緒に食べたいのだが、ダメか?」
「もちろんいいに決まってるだろ」
「にいちゃんと同じく! 遠慮せずこんなダメダメにいちゃんじゃなくあたしを頼りなさーい」
「よろしくね、将来有望な料理部員さん」
そこ、さりげなく勧誘するのはやめなさい。
机の移動が終わるまで、カナ、まごめと蛍はわいわいと話をしていた。蛍は最初、料理部のお誘いを居合の稽古があるからと断ったが、カナが粘りに粘った結果週1だけ参加することに決めた。
あとは、なんで転校のこと事前に教えてくれなかったのとまごめが聞き、それに蛍が俺に言ったことと同じことを言ったり、と会話が続いていく。バレンタインデーのとき知り合って以来、蛍はちょくちょくうちに顔を出すようになり、まごめ、カナも加えた4人でゲームや勉強をすることが増えたためまごめやカナとも友達と言える関係になりつつあった。まごめやカナのコミュ力の高さが、人見知りしがちな蛍との距離を縮めるのに大いに役立っていた。
女子3人が会話してるのをぼーっと眺めながら、終わりつつある席の移動を待つ。
もう終わるかな、というタイミングで、俺の左後ろ、窓際の1番後ろの席という最良席をゲットした人物が判明した。
「よっ、港人。なにげにこんな席が近くなるのははじめてだな」
「山谷~! よくぞ、よくぞ来てくれた! 周りが女子ばっかりで息がつまりそうだったんだ」
ちょっとそれどういう意味という左右と前からの声は無視した。
「なにが息がつまりそうだ。両手に花どころじゃないぞ。あと切通さんとすでに知り合いとかどういうことなんだ。とりあえずはぜろ」
「そんなこと言わないでくれよ山谷だけが救いなんだ」
「しょうがないやつだな」
よかった。山谷がこんな近い席だなんて。第二目標達成だ。
あれ、そういえば司彩はどこだろう。見渡しても一向に見つからないんだが。もしかしていつものサボりグセが発動してもう帰っちゃったとか。
確認するために司彩にメールをしようとした瞬間、真後ろから肩をトントンと叩かれる。
このパターンはもしや。
「キミがいつ気づいてくれるかずっと待ってたんだけど」
「司彩お前いつのまに机移動させたんだよ! 気配消すのうますぎる」
「普通に移動させただけだよ。タカトがたのしそ~~~~にキレイどころと話してたから気づかなかったんじゃないかな」
「キレイどころなんてこのあたりに見あたらないんだが」
左右から消しカスがびしびし飛んできたが無視した。これは地味にうっとおしい。
「タカト、ボクの性格わかってるよね? せっかくキミの真後ろの席になれたんだ。退屈させないよ」
こいつ確実に授業中にいたずらをしかけてくるぞ。自ら申告してくるとは良い度胸だな。
どうやって司彩を迎撃しようか考えていた間に席替えが終わったようだ。
右にまごめ、左にカナ、前に蛍、そして後ろに司彩と鉄壁の陣形。左後ろに清涼剤の山谷。
偶然が重なりすぎて魔の空間が形成されてしまった。これからどうなるやら。
確実に言えることは、俺の身体が保ちそうにないということだ。
カナやまごめも今ちょうど司彩の存在に気づいたらしく、ビミョーな表情になっていた。お前ら最近手のひらで転がされてるもんな。
それを見た蛍が、そちらの女性はミナトとどういう関係なんだ? と聞いてきたため、1時間目のあとの10分の休み時間をまるまる使って説明することに。司彩が、タカトとは主従関係にある(もちろんネトゲの中での話)、とかいう爆弾発言のせいで余計に時間がかかってしまった。
こりゃあ俺の学生生活、今までで1番ハードになるかもしれない。
一抹の不安と、認めるのはシャクだがそこそこの安心感を抱えながら授業に臨むのであった。




