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ある日の昼休み その1

 やってきた。ついにやってきたぞ、昼休みの時間が。

 蛍が転校してきてから2週間程度たった、5月中旬のある日の4時間目の授業中。俺はこれから行うことを前に、緊張の汗をかいていた。

 授業終了とともに机の中に入れていた弁当をつかんでその場を離脱。事前にケータイで山谷と司彩に集合場所(屋上)を伝えてあるから、尾行されないよう迂回しながら移動。どうよこの完璧なプラン。

 授業終了まで残り数分。数学の伊沢は時間に正確なことで有名で、授業の開始・終了時間をコンマ1秒たりともずらしたことはない。


 ケータイが残り1分を表示。その瞬間に腕時計のストップウォッチを起動。コンマ1秒を、とらえる。

 集中しろ。ここが正念場だ。

 なぜここまでする必要があるのか、と疑問に思っている人がいるかもしれない。

 カナやまごめと一緒にお昼ご飯を食べる。それ自体は別にイヤじゃない。

 ただこれまでずっとそうだったため、新たな刺激が欲しくなったのだ。いつものメンツで食べるのもいい。けど落ち着いて趣味の話をしながらのんびりと昼食をとる。そんな日もあっていいじゃないか。

 心の中でクラウチングスタートのポーズをキめながらその瞬間を待つ。

 5秒前。4、3、2、……1!


「「そうはさせないよ!」」


 バ、バカな。タイミングは完璧だったはず。なのに、なぜ。

 俺の机、並びに両腕が見事に拘束されていた。どうつかんでいるのか、指の1本さえ動かすことができない。


「にいちゃんバレバレだったよ。腕時計じっーっと見てたし、片手は机の中のお弁当つかんでたし」

「甘いよ、みーくん。わたしたちは授業終了の1秒前にはすでに動きはじめてたんだから」

「お、お前ら授業は最後までしっかり受けなきゃダメなんだぞ!」

「最後の方に腕時計しか見てなかったにいちゃんがどの口でそんなこと言えるのかなぁ」


 うぐっ。もっともすぎて黙るしかない。

 しょうがない。失敗した以上、正面から説得するしかないな。

 俺は以前から気になっていたことをカナとまごめに聞くことにした。


「なあ、前から聞きたかったんだけど、なんでそんなに昼ご飯一緒に食べることにこだわるんだ? 2人ともそれぞれの女子グループと食べればいいのに」


 そう言うと2人は深いため息をつきながら、かねてからに疑問に答えた。


「あのねみーくん、覚えてないの? みーくんのおとうさんと、まごちゃんのおかあさんが再婚してから決めたじゃない。みーくんとまごちゃんが1日でも早く本当の家族になれるように、朝や夕ご飯のときだけじゃなく、お昼ご飯の時間も一緒にすごそうね、って」

「そう、だったのか。ごめん、すっかり忘れてた。だからまごめと一緒のクラスになったときは毎日昼休みの時間にすかさず机をくっつけてきたんだな。……ん、ちょっと待てよ。それはあくまで俺とまごめに限った話のはずだ。カナと俺だけ一緒のクラスになったときはそうする必要はなかったはずだけど」

「にいちゃん、その話は作り話で、実際はあたしたちの目の届かないところでにいちゃんが不貞行為を働かないよう見張るためなんだよ」

「あぁ、まごちゃんバラすの早いよう」

「ごめんカナちゃん、いつになくシリアスな様子のにいちゃんが面白くて、我慢できなくなっちゃった」

「おまえらぁぁああ! 俺のセンチメンタルを返せ! あと不貞行為って一般的に夫婦の間で使われる言葉だから間違ってるぞ!」

「間違ってないよね~カナちゃん」

「だね~まごちゃん。でもね、みーくん、山谷くんと一緒に食べるのなら、百歩譲って許可してたけど、今は」


 そこでカナは俺の背後をビシィと指さす。


「つーちゃんがいるから却下!」

「なんでだよ!」

「だ、だってつーちゃんボンキュッボンだし!」

「関係ない関係ない。なぁ司彩、俺たちの間でカナやまごめが危惧するようなヘンなことなんて起こらないよな?」


 後ろの席の、身体をおもいっきり背もたれにあずけてギーコギーコしていた司彩に声をかける。

 さっきまでぼーっと眠そうな表情をしていたのに、俺の言葉を聞いたとたんいたずらっこの顔になった。マズい、こいつまた爆弾を投下するつもりだぞ。


「くっくっく、実は」

「そうはさせるかぁ!」


 何か言う前に口をふさごうと司彩の口元に手を伸ばす。


「むぐっ!?」


 が、しかし、それが危険な行為だと気づく。司彩はちょうど4本足のイスの、後ろ2つの足だけを使ってバランスをとっている最中だったのだ。

 思いの外ゆっくりと司彩が後ろへ倒れていく。そうか、まごめとかとは違って司彩は比較的身体が大きいほうだから倒れるスピードも遅くなるのか。俺が直前に手を伸ばす速さをゆるめたのも手伝っているのかもしれない。

 俺は素早く自分のイスから離れ、司彩と床の間に腕を滑り込ませる。

 なんとか、間に合った。 

 司彩は無事だ。俺は下敷きになった形だが、軽く床に身体を打ちつけたくらいであまり痛くはない。とりあえず一安心だ。


「司彩、大丈夫か!」

「あ、ああ。大丈夫。おかげでケガはない。だ、だけど」


 ん、司彩の顔が赤いぞ。倒れかけたせいか?


「2人とも大丈夫!? ……って、に、にいちゃん!」

「みーくん、ひ、左手!」


 カナに言われて自分の左手を見ると。

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