ダブル壁ドン
「おーっす山谷。また一緒のクラスになれたな。俺は嬉しいぞ」
キラリと光る知的なメガネに落ち着いた雰囲気。ああ癒される。殺伐とした俺の生活の中の唯一と言っていいオアシス。
「港人よ、僕も同じクラスになれて嬉しい。しかしそれ以上近づかないでくれ」
「え?」
友人の心ない言葉にショックを受ける俺。
「お前の後ろに鬼がいる。早く普段の美少女の浮海さんと高村さんが見たいから鎮めてくれ。それはお前にしかできないはずだ」
「美少女、ってのには同意しかねるが、確かにこいつらを鎮められるのは俺しかいないかもしれない。でも現実から目をそらしたいんだ。なぁ頼むから後ろの鬼たちは無視して俺とこのまま雑談を」
「却下だ。僕の命が危ない。そうだ、一点だけ気になったんだが、なぜ2人のことを美少女だということを認めないのだ。お前の目は節穴か」
「ばっか山谷、わかってないなぁ。『美少女』ってのは見てくれだけじゃなく、男心をくすぐる真の乙女の心をあわせもったごく一部の女子に与えられる称号なんだ。まごめとカナは後者を満たしていない。理由を説明すると……」
「みーくん」
「にいちゃん」
「すまん港人、そろそろ席に戻らせてもらう。達者でな。無事を祈る」
「え、ちょっと待ってよ。見捨てるの? 見捨てちゃうの? 山谷、やまたにぃぃいい!」
俺の叫びが教室にむなしく響く。もちろん誰も手をさしのべてくれなかったし男子たちからは冷たい視線&少々のあわれみの視線をもらってしまった。
まごめとカナに廊下に連行され、そのままダブル壁ドンをくらう。壁ドンってもっとキュンキュンするやつじゃないの?
「さあ説明してもらおうかな。あの子のこと」
カナが指さしているのは教室の前の方。堂々とカバーもつけずに美少女イラストが表紙のラノベを読んでいる司彩だ。
「はい。謹んで説明させていただきます」
ダブル壁ドン、予想以上の威力だ。なまじ顔が整っているだけに凄みがハンパじゃない。
司彩とは幼なじみだったこと、とっさに男だとウソをついてしまったこと、弁明としてほぼ男友達のノリで接していることを切々と話す。
ダブル壁ドンは解除してくれたが、俺の言葉だけでは納得しきれないらしく、いぶかしげな目を向けられる。
「男友達のノリで接してるって言ったけど、さっきは顔赤らめてデレデレしてたよね?」
「それは男のサガなんです不可抗力なんです」
「ふ~ん。まあ今はその言葉を信じるしかないね。ほっちゃんのときといいみーくんは隠し幼なじみが多すぎるよ。さすがにこれ以上いないよね?」
「なんだよ隠し幼なじみって。ギャルゲーの隠しキャラが幼なじみ属性とかイヤすぎるわ。もういないよ。カナ、まごめ、蛍、そして司彩の4人だけだ」
「最近までわたしとまごちゃんだけだと思ってたのになぁ。……ライバル、増えちゃった」
最後の方だけ声が小さすぎて聞こえなかった。
が、しかしカナのすぐ隣にいたまごめは聞き取れたようで、表情が固くなっていた。
気になって何て言ったか聞こうとしたが、そろそろ教室に戻ろうか、とカナが言ったため聞きそびれてしまった。
思えばこのとき、カナの言葉が聞き取れていたら、のちのちあんなに悩まずにすんだのかもしれない。




